20/10/03 【感想】将棋指しの腹のうち (と、先崎学の著作全般)

(本記事では敬称を省略させていただきます)

先崎学『将棋指しの腹のうち』を読みました。

中学生の頃にプロ将棋を見るようになった直後ぐらいに先崎学のエッセイ『フフフの歩』を読んで、それでプロ棋士を覚えたんですよね。以来、氏のエッセイは出るたびに読んでいます。

先崎学は十代でプロ棋士になった人で、奨励会を抜けて「将棋以外のことがしてみたかった」とエッセイを書くようになります。なので十代の頃からずっとエッセイを書いていて、週刊文春で長く連載もしていました。

それをずっと読んでると、例えば二十代前半で書いた『フフフの歩』の頃に出てきたバーが、二十年近く経って『今宵、あの頃のバーで』ってエッセイの中で「久しぶりに当時の仲間と集まった」って話に出てきたりして、一人の人生を追ったんだなって感動があったりするんですよ。

ということで今回最新作である『将棋指しの腹のうち』を読みました。それまでのエッセイもみんな読んでるので、今作の中で「本邦初公開」として語られている焼肉屋に奨励会員を大勢連れて行って店のカルビを食べ尽くした話は実は既に他のエッセイで書いてることもわかります。

藤井聡太ブームで将棋めしの定番になった「みろく庵」や将棋ファンをやってると必ず名前を見る「ほそ島や」にはじまり、「チャコあやみや」「きばいやんせ」あたりになるとコアな話が色々出てきます。名前のない「代々木の店」って章があるあたりからも分かる通り、店でなく棋士とそのエピソードが真の主役です。
羽生善治との話なんかはどっちもいい年になったから書けたんだろうなあって感じがしたり。

個人的には「きばいやんせ」が良かったですね。

エピソードを回想するとき、そこに食事があると一気に質感がリアルになる感じがします。生きることに結びついているからでしょうか。
そういう意味でも、優れた切り口から描かれた良いエッセイでした。

エッセイ以外の本、というか棋書だと『先崎学&中村太地 この名局を見よ! 21世紀編』がオススメです。20世紀編も出てるけど21世紀編が特にオススメ。先崎学と弟弟子の中村太地が2人でそれぞれ選んだ名局を持ち寄って話すんですけど、21世紀編はコンピュータ同士の対局とかも選ばれてるんですよ。

「名作」と同じように「名局」もまた内容のみならずその歴史的な意味も合わせて語られるものなのですが、この本はその両者のバランスが絶妙です。
藤井猛の将棋も選ばれてるんですけど、藤井システム1号局とか一歩竜王の局とかじゃなくて、それらの照明を一旦どけて藤井猛という異能を語るためにあえて選んだ局って感じのが選ばれてるんですよね。

これだけ色々推したので最後に一個だけ愚痴らせてほしい!
『千駄ヶ谷市場』のシリーズは盤面図とそこからの手順が違う見開きに載ってることが多くてほんっっっっとに見づらいのでマジでやめてください!
1冊の中に数ヶ所って程度ならまあいいんですけど解答欄1個間違えて書いた受験生か?ってくらい、半分近くのページには前のページの盤面図からの手順が載ってるんじゃないかってくらい多い。
盤に並べて読むことを推奨しているのはわかるのですが、本だけでも読みやすいようにしていただけるといちファンとしては大変ありがたいです。