24/11/10 【感想】モルグ館の客人
マーティン・エドワーズ『モルグ館の客人』を読みました。
以前感想を書いた『処刑台広場の女』の続編です。
なお本書のあらすじは前作『処刑台広場の女』のネタバレになっています。本書について調べる際には、前作を未読の方はご注意ください。
前作は魅力あふれる舞台設定に強力なキャラクターが大きな謎を伴って登場し、息もつかせぬ展開が繰り広げられる、というジェットコースターサスペンスでした。本作も前作同様スリラーを志向していながらも、それらの魅力は一回り小さくなっていたように思います。
それでも前作から輝きを失うことなく残っているのは捜査の際の会話劇が持つ魅力。探偵役となるキャラクターが関係者から情報を引き出す際の「喋らせ方」、この会話が巧みで、読んでいるだけで楽しいです。
個人的にアガサ・クリスティーのエルキュール・ポアロのシリーズを読んでて面白いのはここなんですけど、イギリス黄金時代をインストールしている本作もまたこの魅力を搭載しています。
タイトルになっているモルグ館へ至るのは本書のラスト1/3くらいになってから。そこから怒涛の展開となるわけですが、ちょっとペース配分に無理があったように感じたかな…。
詳しくはネタバレパートで書くのですが、読中に「ミステリを読んでいる楽しさ」はあったけれど読後に「ミステリを読んだ満足感」はあまりなかった、というのが率直な感想です。
ミステリ黄金時代のスリラー作品に強い愛着を持つ作者がそれを現代に蘇らせている作品として、一定の成功は収めていると思います。「あえてドット絵とチップチューンで作られた新作ゲーム」みたいなポジションで一定の地位を収め続けられるシリーズになっていきそう。
(ここからネタバレ)
前作は「探偵として振る舞っているレイチェル・サヴァナクは一体何者なのか」という非常に強力なエンジンを持っていましたが、本作はそれを失った分だけパワーダウンしていたと思います。これはシリーズキャラクターの宿命なのでしょうがない部分でしょう。
ただ、なんだか突然いろいろ湧いてきた解決編は唖然…というか言葉を選ばず言うと全然ノれませんでした。
クライマックスで突然とんでもない暗部が湧いてくるという点では前作も同じなのですが、前作の違いとしてその突拍子もないピースをはめるような穴を印象付けていなかったという点があるように思います。真相と対応させる謎の匂わせが弱かったため、真相のパワーが読者の興味へ引っかからずに逃げてしまっていたと思います。
そしてびっくりしたのが巻末についている手がかり索引。解説によるとかつてはよく試みられた趣向なのだそうですが、僕はこれが初見でした。
なので背景をあまり知らない身ではあるんですけど、そっちょくな印象として…こういうの自分で解説するのって…ダサい…。こういうのを物語の外で作者自身の文章として書かなくていいようにミステリ作家は視点人物にがんばってもらうんじゃあないんですか?