24/10/15 金木犀なめこ帝国

10月も真ん中だというのに夏日。窓を開け放って半袖Tシャツで過ごしていたのですが、窓から風に乗って金木犀の香りが入ってきて心地よかったです。

在宅勤務の強みを活かし、お昼にご飯を炊いてなめこと油揚げの味噌汁を作りました。おかずはサバの塩焼き。最高。

仕事も忙しくなく、そして動かそうとしたものがやけに都合よく動いてくれて、ああ理想的…1年のうち100日くらいこんな感じであってほしい。


山本文彦『神聖ローマ帝国 「弱体なる大国」の実像』を読みました。

850年間にわたって存在した神聖ローマ帝国。世界史で最もカッコいい国名のひとつ。
中学と高校で一瞬世界史を触れて以降はWikipedia巡りの途中に立ち寄ったことしかなかった僕としては、ヴォルテールによる「神聖でもなければローマ的でもなく、そもそも帝国でもない」というキレッキレの悪口や世界史で最も印象的なワードのひとつ「カノッサの屈辱」をはじめとした皇帝と教皇との対立の印象しかなかったのですが、この本で一通りの歴史を追うことができました。

神聖ローマ帝国は、当初は実態としてもローマ帝国の後継たる統一国家だったのが封建制が進み次第に領土を失い、独立したドイツ人国家の連合体としての機能だけが残って上記のヴォルテールの言葉につながっていくことになりました。しかし欧州連合(EU)の統合が進展するにあたってこの点が逆に再評価されたのだとか。
形骸化していたとはよく言われることですが、逆に形骸のまま長く続くというのはすごいことですよね。実体がないまま持続するというのはある種システムとしての本懐です。実体に依存していないというのはシステムとして一種の理想でもあるのですから。

神聖ローマ帝国は、国民を持たないが多くの民族を統合し、中央集権的ではないが紛争解決能力を有し、異なる文化を包摂する連邦的な政治組織体だったと評価されるに至った。

山本文彦『神聖ローマ帝国 「弱体なる大国」の実像』

本書はこの新たな帝国評価を基礎として書かれています。それゆえに通常帝国の盛衰を語る際に指標となる領土の変化はあまり触れられておらず、地図もほとんど出てきません。代わりに皇帝選出のプロセスや制度の移行などが語られています。
ナラティブになりすぎることなくスムーズに書かれていく中にたびたび知ってる名前が出てくる面白さもあってスイスイ読めました。

おそらく副題の『「弱体なる大国」の実像』というのは上述の再評価についてのことだと思うのですが、歴史を概観しての再評価は行われたものの、本編のほとんどを占める帝国の歴史を追っていくパートの中でそのときどきの「実像」がどのようだったかわかりづらかったです。ペストの流行やオスマン帝国の侵攻なんかもついで程度にしか書かれていなかったり。そういう意味で、僕のような歴史音痴が読む際には副読書がほしいと思いました。

著者の山本先生は本書に関連したインタビューで神聖ローマ帝国がどのように衰退し滅亡したのかと問われ、

『神聖ローマ帝国』では触れなかった点を挙げると、18世紀後半からの産業革命や啓蒙主義によって、経済や社会の構造が大きく変わり、神聖ローマ帝国の政治体制が、もはやその変化に対応できなくなった点があると思います。

と答えているのですが、触れてよ! 本の方で! …と思ってしまうものの、神聖ローマ帝国というかなり枠としては大きなテーマを新書サイズで扱うにあたりかなり大胆に視点を絞っているのだと推察します。

本書を読む前は上に書いたように「皇帝と教皇の対立」という印象を強く持っていた神聖ローマ帝国ですが、この両者が権威をお互いに依存していたというとらえかたも面白かった。楽しい読書ができました。