23/09/13 【感想】エラリー・クイーン完全ガイド

飯城勇三『エラリー・クイーン完全ガイド』を読みました。

まず書いておきたいのは、本書は星海社新書で2021年に発行されたものであり、ぶんか社から2004年に出た単行本『エラリー・クイーン Perfect Guide』および2005年に同社から出た文庫版『エラリー・クイーン パーフェクトガイド』とはであるということ。

ただ筆者は同じ飯城勇三ですし、エラリー・クイーンの作品それぞれをあらすじから始めてその魅力、ミステリとしての意義から興味を惹くトリビアと紹介していくテンポの良い建付けも同様です。

ぶんか社から出ている2冊は現在品切れ状態で入手が難しくなっているのですが、一方でクイーンの作品はここ10年ほどで角川文庫・創元推理文庫・ハヤカワミステリ文庫から相次いで高品質な新訳が出されており「今こそガイドが求められている」状態なのは間違いありません。
そこでこのようなちょうどよい供給があったことはとても喜ばしいことと思います。

僕はぶんか社から出ている2冊がかなりお気に入りだったのでどうしてもそれと比較してしまうのですが、それらと比べると本作は「あらすじ」のケレン味が弱いように感じられます。別の出版社から出すため同じことを書くわけにはいかず、少し外すようにした結果、歯切れの悪い紹介になってしまっているように感じられました。

一方で後期クイーン的問題をはじめとする面白い議論や、クイーンの影響を受けた現代推理作家の諸作品群への導線が張られているのは本書の大きな魅力です。
また上記した「ここ10年ほどの新訳」をまさに訳されている中村氏・越前氏の文章が載っているのが非常に価値のあるもので、ぶんか社版を読んだことがある方にもない方にも、クイーンの作品を読んだことがある方にもない方にもおすすめできる一冊になっていると思います。
(ただ、もしどちらも手に入る状況ならばぶんか社版の方をお勧めします)