24/07/20 【感想】森博嗣の道具箱

森博嗣『森博嗣の道具箱』を読みました。
ゼロ年代前半に「日経パソコン」誌に連載していたエッセィをまとめたもので、毎回「道具」をテーマに語っています。道具といってもかなりレンジを広く取っていて、アナログな秤も出てきますし、飛行機なんかも出てきます(移動のための道具ですからね)。工業製品全般に対する思い入れを語っていると言い換えてもいい。

工務店の息子として生まれ、子供の頃から工作を楽しみ(中学時代にアマチュア無線1級を取ったそうです)、工学博士である筆者が書いているだけあって工作の道具に対する語りは深く熱が入っています。それでいながら工作そのものは趣味であり仕事ではないという距離感が絶妙で、趣味のものとしての愛着がこもっています。
特に好きな回は秤の回と飛行機の回。デジタル秤と違って分銅を使うアナログな天秤は重力加速度が変わったとしても使えるという理屈がめちゃくちゃ好き。
当時の勤め先だったN大学でゴミとして廃棄されていたのを「拾ってきた」というレトロな機器がたびたび写真付きで登場するのも素敵です。古いアナログな機器って良いですよねえ。

小説家として知られる森博嗣ですが、実はエッセィもすごい量を出しています。日記などの随筆も含めると今や50冊以上が出ているみたいです。
高校の後半から大学の前半くらいの間だったかな、森博嗣にめちゃくちゃハマっていた時期があって、S&Mシリーズに始まる小説をひたすら読んでいたことがあったのですが、その頃にエッセィもよく読みました。
森博嗣のエッセィは時期によって結構硬軟が変化します。半エッセィみたいな水柿助教授のシリーズなんかは1巻と3巻で全く違う味ですよね。僕は1巻が好き。純粋な随筆を見ても、初期の頃はユーモラスだったのが大学を退官して文筆業に専念したあたりから良くも悪くも頑固になっていた印象があります。本書はその「初期の頃」に当たるもので、素朴でユーモラス、肩に力が入りすぎることなく独自の見方を書いてくれる感じが好きです。日記シリーズ("I say Essay Everyday")の特に序中盤が好きだった僕としては嬉しい限り。

本書は久しぶりに読んだ森博嗣となったわけですが、最初の方で「トムとジェリィ」という表記が出たときは思わず笑顔になってしまいました。