20/11/25 【感想】死者はよみがえる

ジョン・ディクスン・カーの『死者はよみがえる』、今年創元推理文庫から出た新訳版を読みました。

こう…「面白くなりそうだったけど言うほど面白くならなかったな」というのが正直な印象。

カーは不思議な現象を一人称視点で書くと『ユダの窓』や『盲目の理髪師』『皇帝のかぎ煙草入れ』みたいに面白くなるけれど、不思議な現象を誰かに台詞で説明させると謎の魅力が伝わりきらない傾向があると思います。『白い僧院の殺人』とかこのせいで面白くなりそびれてる気がします。

本作も、冒頭ケントの視点で語られるところはめちゃくちゃ面白そうなんですが、その後すぐに不可解な事象が一気にハドリーの長台詞で語られるところでトーンダウンしてしまった印象があります。

以降はあらすじより下のネタバレ感想にて。

南アフリカからロンドンへ無銭旅行ができるか? 友人とそんな賭けをした作家のケントは、大冒険の末にロンドンへたどり着いた。空腹のあまり、ホテルで無銭飲食に及んだケントを、予想もしない展開が待っていて──。残酷にして不可解な殺人に関して、名探偵フェル博士が指摘した12の謎がすべて解かれるとき、途方もない真相が明らかに! 巨匠カーの独壇場たる本格長編ミステリ。
(あらすじは東京創元社HP内作品ページより)

エラリー・クイーンの『フォックス家の殺人』を読んだときは「クリスティが書きそうな話だな」と思いました。
アガサ・クリスティの『ねじれた家』を読んだときは「クイーンが書きそうな話だな」と思いました。

本作J. D. カーの『死者はよみがえる』については、「クイーンが書いてたら…」と思いました。
クイーンの『チャイナ橙の謎』はフェル博士が扱うような事件をエラリーが扱ったため謎解きがちぐはぐな感じになってしまいましたが、今作『死者はよみがえる』は逆にエラリーが扱うような事件をフェル博士が扱ってしまったんじゃないかと。
この事件の捜査にあたるのがフェル博士でなく探偵エラリー・クイーン(特に国名シリーズの頃の)で、手がかりにフォーカスしていけば事件はもっとスマートに解決し、そしてもしかしたら推理小説としてももっと面白くなっていたのではないかと…。

解決編、特に最終章は数々の謎に対してことごとくしょうもない真相が出てきてただただ口をあんぐりさせるしかなかったのですが、なんといってもやっぱり解決編で突然「留置場に入れられていてアリバイのあった男は、実は留置場に抜け穴があって抜け出せたので犯人でした」はダメだよ…。

普通の作家ならこの話は「片手が使えない犯人が扼殺を行う」トリックとあとちょっとしたパーツだけ使って短編として書くと思います。この話を長編で書くのはカーぐらいじゃないかな…。

長編で書くなら上でもぼやいたように、証拠品や状況から『オランダ靴』や『エジプト十字架』みたいに推理してちょっとずつ真相に肉薄していくような書き方だったらもっと面白かったんじゃないかとは思う次第。

というかこの話をクイーンが書いたのが『スペイン岬』なのかもしれない。