24/10/28 【感想】祖母姫、ロンドンへ行く!

椹野道流『祖母姫、ロンドンへ行く!』を読みました。

親戚の集まりでイギリス留学の話をしたところ祖母が「一度でいいからロンドンに行きたい、お姫様のような旅をしたい」と言い出し、親戚一同に押される形で祖母のイギリス旅行をエスコートすることになった筆者の回想録です。
一族としてはお祖母様の最後の旅行になるかもしれないということで目一杯楽しんでもらおうと支援が入り、移動の飛行機はファーストクラス、滞在するのはロンドンの超一流ホテル。まさにお姫様待遇だったわけですが、タイトルの「祖母姫」はそれだけでなくお祖母様の高級志向や我の強さからも来ています。
元々かなりリッチな一族なのだろうというのは察するところですが、それでもまだ若い感覚の筆者と、芸事に精通し大奥様といった感じの祖母姫様の波長が5泊7日の道中に次第に合っていくところが良かったです。執筆時点で既に他界されているお祖母様を回想する形で書かれているのもなんともいえない味わいがあります。

しかしなんといっても本作の良さは、全ての登場人物の格好良さ!
滞在する一流ホテルには部屋ごとに専属の執事がつき、身の回りすべてに気を使ってくれます。またドアマンの老紳士が実はホテルの重鎮で宿泊客すべてを把握して神経を使っていたりなどこれまたフィクションのような格好良さ。そしてそれに一切恐縮せずミストレスとして振る舞うお祖母様がまた良いんですね。精神の背筋が伸びているといいましょうか、サービスの受け方がさまになっているんですね。

特に印象に残っているのが、滞在の最終盤にホテルでアフタヌーンティーをたしなむくだり。
お祖母様がアフタヌーンティーを体験したいと言い出したのですが、そのホテルのアフタヌーンティーは大人気で、いきなり言って入れるようなところではありません。
ダメ元で部屋についてくれている執事さんに言ってみるのですが、ずっと先まで予約が埋まっているとのこと。聞き分けよく諦めようとする筆者に、執事さんはこのようなことを言います。
「なんとかひと席作ってもらえないか掛け合ってみる。なので頑張るための燃料がほしい」
その意図を理解した筆者が「お祖母様の最後の機会になんとしてもこのホテルのアフタヌーンティーを体験させてあげたいんです、なんとかお願いします」と伝えると執事さんが頷いて頑張ってくれる、という流れ。

これを読んで、「サービスを受ける側としての態度」みたいなものを考えさせられました。
僕は途中まで完全に筆者と同じ考えで、元々無理なお願いなんだからすんなり諦めるのが正しい態度だと思っていたんですね。ただこの場合においては、執事の側に「客の要望をなるべく叶えたい」ということが前提としてあって、「それを頑張るからには心底強く要望してほしい」というモチベーションの流れが存在していた。
「良い客になろう」とするとき、ちゃんとお礼を言うとかの人として当たり前のところを別にすると「クレーマーにならないようにしよう」ということばかりを意識していたのかもしれません。本当に大事なことはちゃんとコミュニケーションをとることであり、クレーマーにならないというのはその条件の一つでしかないのだろうなあ。サービスを受ける側は誠実かつ正直に要望を伝えるということも、コミュニケーションとしてあるべき姿なのかもなあ…と思ったのでした。