24/08/11 【感想】曹操 魏の曹一族
陳舜臣『曹操 魏の曹一族』を読みました。
面白かった! どんどん読んじゃう本です。
三国志における三国のひとつ、魏の頭領である曹操の生涯を描いた作品です。蜀の頭領・劉備を主人公とする三国志演義およびそれをベースとする作品では悪役となりがちな曹操ですが、本書の紹介にも「縦横の機略、非情なまでの現実主義、卓抜な人材登用」と書かれているように『マネー・ボール』のビリー・ビーンみたいな人なので今の時代ではむしろ劉備よりも主人公適性が高いのではと思っています。
本書はもちろん三国志がずっと背景にあるのですが「三国志の読み物」と思って読むと肩透かしを食うと思います。呂布と陳宮とかいつの間にか寝返っていつの間にか捕まってるし。あの有名な赤壁の戦いすら描写はやけにあっさりしていて、そのあいだ曹操はずっと息子・曹丕のことばかり考えています。盟友・夏侯惇は数回しか出てこないし張遼なんかは出てきたかどうかもよく覚えてません。
一方で「曹操が片思いしていた従姉妹で霊帝の義理の弟に嫁ぐも政変に巻き込まれ謀殺されそうになったところを曹操が救出、死んだことにして世間から隠した」という設定の、恐らくオリキャラと思われる曹紅珠は全編にわたって登場し、曹操が本心を打ち明ける相手であったり曹操が自分では言えないようなところに突っ込みを入れる役割を担ったりしています。
本書は曹操の人となりを描くことに注力しており、紅珠はインタビュワーの役割を任されているといえましょう。
曹操の人となりや曹操が何を考えていたのかという点についてはもちろん想像に頼らざるをえないところですが、ここで効いてくるのが曹操が詩作を好みそちらの方面にも才を発揮していたということ。つまり彼自身の詩が残っているため彼が何を考えていたのか想像する助けになっているのです。
本書中でも時折彼の詩が挿入されており、特に中原の人であった曹操が海を見たときの詩は時代を超えて心を打ちます。
僕はこれまで三国志は横山光輝のマンガと吉川英治の小説、あとマンガの「蒼天航路」を読んだことがあったのですが、本書を読むにあたってはなにかしら三国志ものを読んでいた方がいいと思います。
というのも上述のように本書は「歴史上の出来事」についてはかなり大胆に描写を省略しており、「いま曹操ってどんくらいの位置なの?」というところがかなり分かりづらい。先に全体の流れを大まかに入れておいた方がいいのではないかと思います。本書は三国志の時代における現代とは異なる通念や文化などが多く解説されているので、本書を読むことで今まで読んだ三国志ものがより深まることにも繋がります。
まずはなんでもいいので三国志を扱った作品に触れ、実は三国志の英傑たちはみんなイケメンや美少女であり諸葛亮は「はわわ」とか言ったりビームを撃ったりすると知っておくといいと思います。知らなくてもいいと思います。