24/12/24 個人的ブックオブイヤー2024
説明しよう!個人的ブックオブイヤーとは僕が今年読んだ本の中でお気に入りを選ぶものである!
…という記事を書くのもなんと5年目!
今年は5年間で最もたくさん本を読んだ年になりました。1年間台湾にいる間に読みたい本が貯まっていたことも、読んでいくと面白い本にたくさん出会えて読書モチベがずっと高かったことも大きい。あと渡航以前と比べると例の病が終息して外出しやすくなったのも大きかったかもしれませんね。電車に乗ると本を読みますし遠出すると大きい本屋に行く。読書は実はインドア趣味でありながら外出によって揚力を得ている趣味だと思います。
さて、今年は多いのでさっさと本編に行きましょう。例によってその本がいつ出たかは一切関係なく、「僕が2024年に読んだ本」が対象です。初読/再読は問いません。
『卒業生には向かない真実』ホリー・ジャクソン
今年の個人的ベストはこれ!!!
去年の個人的ブックオブイヤーに選んだ『自由研究には向かない殺人』『優等生は探偵に向かない』の続編にして三部作の完結編なんですが、いわば前2作で上がったハードルを踏み台にして大ジャンプしています。こんなことをしていいのか!
終盤、面白すぎて一旦本を閉じて笑っちゃいました。コミカルな要素があったわけでは全くなく、それどころかめちゃくちゃシリアスな話なんですけど、あのめちゃくちゃ面白かった前2作がこう立ち上がってくるのかという面白の高度の凄まじさに首が反り返って笑うしかできませんでした。
この本は屏東から東港へ向かうバスの中で読んでいて、一番衝撃なところもそのバスの中で読んだんですけど、なんとなくこのバスのことはずっと覚えていそうな気がします。その日の夜は東港の宿でずっとこの本を読んでました。面白すぎて…。
『君のクイズ』小川哲
今年「なにかミステリのおすすめ教えて」と言われたらサクッとおすすめしていたのがこれ! 読みやすくて面白い。
話のテンポの良さも、クイズという題材も、そして本編中いたるところにクイズのテクニックがトリビアとして挟まれることも、ほどよい長さも、謎が陰惨な事件の類ではないことも、全てが読みやすく勧めやすいミステリ。
そしてなんといっても本書のリーダビリティを更に押し上げているのは抜群に魅力的な謎でしょう!
「なぜ本庄絆は第一回『Q-1グランプリ』の最終問題において、一文字も読まれていないクイズに正答できたのか?」
この謎をちゃんと手がかりと推理で解き明かすの、すごすぎる。小川哲って本当にすごい。
『アルカトラズ幻想』島田荘司
ほんとにオンリーワンの本でしたね…。
中盤までは電車でのんびり読んでたんですが、第3章から第4章へ至って「これはただごとではないぞ」と感じ、最後まで一気読みしてしまいました。やっぱり島田荘司って読ませるのがうまいよなあ。
一方で人に説明するのが大変難しい小説でもあり。以前本書をおすすめしている喋りを聞いたときは第2章でいきなり恐竜の論文が入ることに触れていたのですが、確かにあそこになるよなあ。本書のとんでもなさってむしろそこ以降にあるんですけど、そっちについてはなんも言えないし。
なんだか島田荘司と和解できた(?)気がします。そうか、これを書きたかったのですねゴッドオブミステリー。自分の中でどう評価していいかわからなかった島田荘司の作品群に自分の中で折り合いがついたというか。そして僕の中で辿り着いた、身も蓋もない結論は個別記事のネタバレ感想で…。
『8つの完璧な殺人』ピーター・スワンソン
今年意識したことのひとつに、「読んだ本の感想をnoteに書こう」というのがあります。単独感想記事にはしなくても、日記の端っこになんか書いておこうと。
そのかいもあって結構本の感想記事が増えて、特にミステリ感想については累計100件に達し、記念にインデックスを作りました。こういうのを並べるのが好きなので嬉しいです。元々ミステリ感想サイトを見るのが好きで、インデックスの並べ方も敬愛するミステリ感想サイトに倣っています。
そして同様に好きなのが、ミステリ好きが出すマイベストのリスト。高校時代は『森博嗣のミステリィ工作室』に載ってる「ルーツ・ミステリィ100」を見て読む本を決めてました。
ネットでも個人がそういうリストを出してるとついつい見ちゃうんですが、リストを見て「おっ」と思うのは新しいタイトルが入っていたときですね。up-to-dateで更新されている活きたリストには説得力があります。マニア同士だと昔の古典を読んでいることが評価されるような雰囲気も以前はあって、こういうマイベストのリストもいかに古典をうまく並べるかの芸を競う空気があったのかもしれないですけど、僕はどちらかというとちゃんと新刊を買って読んでる人にカッコよさを感じます。
…とかとか見たり考えたりするのが好きな身からするとたまらなかったのがこの『8つの完璧な殺人』! めちゃくちゃ前置きが長くなって申し訳ない!
この本で主人公が「8つの完璧な殺人」と題してミステリのリストを作るときに考えてることが「わかる~~!!」って感じで唸っちゃうんですよね!
もちろんその後のミステリ部分もミステリ好きをとことん喜ばせにきていてたまらない。いやー面白かった。
『殊能将之 読書日記 2000-2009』殊能将之
今年「いい本に会えたなあ」としみじみ思えたのがこの一冊。この本、これからの人生で何回も開くことになる気がします。
元は殊能将之の個人サイトに載っていた日記だった本書には「個人サイトの日記」の良さも残っていて、そういう意味でもぜひ保存しておきたいもの。
読んだ当時の感想にも書いたんですけど、洋酒のように夜な夜なちびちび舐めるような読み方をしたくなる本です。
『いまだ成らず』鈴木忠平
去年から今年にかけて、環境の変化もあってずっと趣味にしていたプロ棋戦の観戦を止めてしまったことがありました。毎日見ていた日本将棋連盟アプリの中継を見なくなってしまったんですね。
元々プロ将棋の観戦に一段と熱が入ったきっかけはプロ棋士とAIが対局する電王戦だったのですが、熱が引いた要因のひとつもAI絡みでした。
現在対局の中継にはAIによる評価値がつきもので、一応オプションで評価値の表示はOFFにできるんですがそれでも解説は評価値を下敷きにしてるんですね。これで何が起きるかというと、ドラマチックな瞬間が目減りしちゃうんですよ。かつてだったら目に見えて逆転が起きた瞬間、逆転手が指された瞬間にどよめきが起きるんですが、超賢いAIはそれより何手も前の「数手後に逆転手を許してしまう状況」が生じた時点で評価値を逆転させるんです。つまり実際に目に見えて逆転が起きる何手も前からある種のネタバレが出てしまい、しかも水面下で生じていた逆転手が結局指されないとなんかガッカリしちゃうという。
というわけで少し熱が冷めてしまっていたプロ将棋という趣味なのですが、本書はどこかここまで続けてきた趣味を肯定してくれるような、確かにそこにドラマはあったのだと感じさせてくれる一冊でした。
羽生善治先生という大スターを軸に「羽生時代」を描く本書はまさに僕が見てきたプロ将棋そのもので、そして確かにその歴史は今にもつながっていること。依然羽生先生というスターは輝きを放ち続けていること。そんな当然のことを気づかせてくれた熱い一冊です。
秋ごろからまた日本将棋連盟アプリに課金して棋戦を見るようになりました。佐藤天彦先生の振り飛車と西山朋佳さんの棋士編入試験がアツい。
『ラウリ・クースクを探して』宮内悠介
やっぱ宮内悠介の小説は良いねえ…。
『彼女がエスパーだったころ』とか読んでも思うんですが、宮内悠介はこのルポライター形式と相性が抜群です。宮内SFの世界の硬度とちょうど良いというか。(『エスパー』とこれはSFの度合いはだいぶ違いますが)
近代以前のキリスト教世界では数学や音楽や天文学の理論には神の創造したもう世界の完全さを証明するものがあるとして一等尊ばれたそうですが、理論でできたものの純粋さにはなにか神性を感じるというのはわかる気がします。あの時代にプログラムが存在していたら神と結びついていたのかもしれません。
…と考えると同じ宮内悠介作品の『偶然の聖地』のことを思い出すのですが、世界はオブジェクティブ・ヘブライという言語でコーディングされたインスタンスであるという世界観のあの本ではむしろ不完全さのほうが強調されていましたね。
話がそれました。
本書『ラウリ・クースクを探して』は旧ソ連占領時代以降のエストニアを舞台に、力による侵略に対してアイデンティティーをどのように維持するかというテーマと電算技術を結びつけているのも興味深いところで、これもまたある種の本質を情報に求める興味深いものとなっています。
『冬期限定ボンボンショコラ事件』米澤穂信
ブックオブイヤーと題して2024年という年の話をするとき、小市民の話をしないわけにはいかないでしょう! 2024年を定義する一冊というなら一番はこれかもしれない。まさかのアニメ化、そしてまさか出るとは『冬期限定』!
最終編としてど真ん中であるようにも見えます。
ひき逃げというガチの犯罪、そして被害者はなんと小鳩くん。
語られるは小鳩くんと小佐内さんのはじまりの物語。
実に「シリーズ集大成」的。
一方で、このセッティングに反して非常に静かなトーンの一冊でもあります。冬の昼間のようにどこか淡い景色がずっと続くような。春や夏のようにエピソードと謎と解決が次々出てくる短編集形式ではなく、過去と現在を行き来しながら事件の調査をするだけ。しかしそれでもなんだかんだずっと面白い。このあたり、冬を待たせている間に推理作家として遥かにレベルアップした今の米澤穂信の技術が存分に発揮されています。
そして本書の白眉はなんといってもラストシーンでしょう。
20年間シリーズを追ってきてよかった、そうしみじみ思える最終編でした。
『ケマル・アタテュルク~オスマン帝国の英雄、トルコ建国の父』小笠原弘幸
一代記を書くだけで大河ドラマになる人がいます。ケマル・アタテュルクはまさにそうした人で、本書はケマル・アタテュルクの伝記でありながら読んでいると彼の歩くところにオスマン帝国末期からトルコ共和国建国へ至る歴史が立ち上がってきます。とにかくその歴史のパワーがすさまじく、一気読みしてしまった一冊でした。
元は本屋で見かけてなんとなーくで手に取った本だったんですけど、めちゃくちゃ面白かったですね! 今年はでかい本屋に行く機会が多かったんですけど、おかげで収穫もたくさんありました。行くべきところはでかい本屋、持つべきものは面白い本。
『恩田陸 白の劇場』&『鈍色幻視行』恩田陸
3月に帰国してから『恩田陸 白の劇場』というムック本を読んだんですよ。恩田陸の70作目を記念して出た本なんですが、これを読みながら自分が読んだことのある恩田陸作品を思い返したり、自分の恩田陸歴を振り返って書き出したりしたらそれがめちゃくちゃ楽しかったんですね。
その縁もあって社会人になってからご無沙汰になっていた恩田陸をまた読みたいと思っていたんですが、復帰に『鈍色幻視行』を選んだのは我ながら最高の選択でしたね!
この一冊、めーっちゃくちゃ僕の好きなタイプの恩田陸。読み始めてすぐに興奮とともにBlueskyにポストしちゃいました。「これもしかして『三月は深き紅の淵を』、それも「出雲夜想曲」ですか!?」
長い小説ですし、伸ばしている小説でもあるんですけど、それがむしろ嬉しいんですよね。恩田陸って序中盤型の作家なので、序中盤が長ければ長いほど旨い部分が増える。
恩田陸、年イチ作家かもなぁ。年イチ作家というのは僕の造語で「年に1冊読む作家」のこと。もちろん褒め言葉。長ーく付き合っていきながら、水準器としても使いたい感じ。来年はどの恩田陸を読もうかなあ。