24/05/10 【感想】美濃牛

殊能将之『美濃牛』を読みました。

病を癒す力を持つ「奇跡の泉」があるという亀恩洞(きおんどう)は、別名を〈鬼隠れの穴〉といい、高賀童子(こうがどうじ)という牛鬼が棲むと伝えられていた。運命の夜、その鍾乳洞前で発見された無惨な遺体は、やがて起こる惨劇の始まりに過ぎなかった。古今東西の物語の意匠と作家へのオマージュが散りばめられた、精密で豊潤な傑作推理小説。

『美濃牛』(殊能 将之):講談社文庫|講談社BOOK倶楽部

氏のデビュー作『ハサミ男』の感想ではエンタメ力の高さを絶賛していましたが、2作目の本作も高いリーダビリティは健在。文庫本で750ページ超という長めの長編ですが、退屈するということがなかったです。最初の事件が起こるまで結構長いんですけど、なんとなく楽しく読んでられるんですよね。

そしてこの小説、「洞窟モノ」なんですよ!
子供の頃、洞窟の出てくる小説がとにかく好きでした。世界的名作『トム・ソーヤーの冒険』にはじまり、本作もオマージュしているであろう『八つ墓村』、その他少年探偵団ものの冒険小説やなんかを読んでは洞窟が出るたびに喜んでました。

黄金の羊毛亭様で

鍾乳洞(『八つ墓村』)・わらべ唄(『悪魔の手毬唄』)・俳句(『獄門島』)といった道具立てなど、全編にあふれる横溝正史作品へのオマージュが大きな特徴

と言われている本作ですが、これらによって生み出されている横溝正史作品のエンタメ力の高さも再解釈され継承されていました。

殺人事件が発生して以降も1節以上かけて句会をしたりなど、どこかのほほんとした空気があり、それによってとらえどころのない印象が強い作品ですが、最後に明かされる趣向は遊び心に溢れていて面白かったです。一方、謎にこってり取り組むような「ミステリの文章」を読みたいときにはあまり向かないかもしれません。
読後感も良く、なんというか「憎めない」という感じの小説。ゴールデンウィークにゴロゴロしながら読む本としてとても良かったですね。