20/09/06 【感想】ブルーローズは眠らない
市川憂人『ブルーローズは眠らない』を読みました。
僕が大ファンである絵描きさんが青いバラに関するイラストを上げているのを見て、そういえば文庫版を買ったまま積んでいたこの本を読もうと思ったのでした。
というわけで今回はネタバレ感想回です。
以降の記述はネタバレを含みます。
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いやーーー面白かった!!
普段は読むのが遅くて何日もかけて1冊の本を読むたちなのですが、巻措く能わず午後だけで一気読みしちゃいました。
本作は市川憂人のデビュー作『ジェリーフィッシュは凍らない』に続く2作目なのですが、前作を読んだとき僕は読書ノートに以下の感想をメモしています。
この見せ方や読ませ方という点で、2作目は更に超パワーアップしていました。
前半は怒涛の謎とハッタリで、後半は次々起こる事件の展開で、常に興味を持続させる。出力の調整からなにから高度な技術で制御されていた印象です。
謎そのものもバラに覆われた温室での密室殺人という魅力的な設定に青いバラの存在や「怪物」などが絡んで迫力満点。
そしてその書き方もいかにも一人称形式や手記など「何かありそう」な手管で出してくるのでミステリ読みを「考えさせる」仕掛けになっています。
また作中のギミックとして登場する超技術も前回は「超低温・超低圧の空嚢」だったのに対して今回は「遺伝子操作」という「何かやれそう」なものであるのも読者を勘繰らせるもので、よくできています。
その一方で前作は謎と解決にジェリーフィッシュの存在が前提になっているのに対し、今作は最後にマリアが言っているように青いバラはただのきっかけでしかなくトリックそのものには組み込まれていないため、前作で聞かれた「ジェリーフィッシュがありえなすぎる」という批判をも乗り越えています。
僕はこういう外連味のあるミステリが大好きなので大いに楽しめました。
トリックは前作に続いて空間の密室に時間の密室を組み合わせて偽る、四次元的な密室トリック。作者の得意技なのでしょう。
言ってしまうと一番の鍵は「共犯であること」なので、前作と比べると数段単純なものです。
作者もそこは意識していたのか、密室殺人の不可能性を大げさに騒ぎ立てることはあまりせず、他の謎の方をメインにフォーカスする書き方をしていた感じがあります。このあたりは賛否あるかもしれませんが、僕は技術のうちと取っています。
個人的に、不可能犯罪モノのミステリを面白くする技術は、不可能犯罪に見事なトリックを作ることではなく、トリックから魅力的な謎を作ることの中にあると考えています。
強いて言うなら30年前の犯人が奴だということも突き止めていたのにやることが回りくどくないか?とは思ったかもしれません。30年前の犯人が絞りきれないからこの演出をやって釣りだすぞ、というならともかく、確定できてるなら…ねえ。
最後に…青いバラというモチーフは、日本ミステリにおいては重要な意味を持ちます。
日本三大奇書に数えられる『虚無への供物』の重要なモチーフとして青いバラが登場するためです。
本書の「青いバラが30年前に狂気を起こさせ事件の引き金を引いた」、そして「青いバラに毒を仕込んで30年前の犯人を殺害した」という結末からは、偉大な先達へのリスペクトを感じました。勝手な思い込みかもしれないですけどね。