24/12/19 【感想】ぼくらは回収しない

真門浩平『ぼくらは回収しない』を読みました。

収録されたノンシリーズ短編5作はいずれもメインのネタとは別に一捻りが加えられており、ちょうどミステリ読みにチクリと刺さるような味付けになっています。
ただ、それを加味しても微妙に超えてこない、小さくまとまった作品ばかりだった印象です。短編集にはえてして箸休めのような小粒ながらまとまりのよい作品が入っているものですが、そればかり並んだ短編集というのは少し物足りなさを感じてしまうかも。

個人的ベストは雰囲気が好きだった「追想の家」かなあ。僕はこういう故人の部屋を探る話が好きです。

以下はネタバレ感想。


(ここからネタバレ)


街頭インタビュー

出題の時点でインタビュー映像が恣意的に編集されて回答を捻じ曲げられているだろうというのは想像がつくのですが、賢しらな探偵役かつ視点人物の主人公もインタビュー映像と同様に恣意的な切り取りを行っているを喝破される逆転は良かったです。
ただそれにしても想像がつきすぎるとも思います。

カエル殺し

平凡な「異常な動機」。

追想の家

全体的に内容の割に間延びしている印象の多い作品が多い中で、本作はちょうどよい短さでまとまっていると思います。主人公が推理をする流れも自然で、小気味よい作品でした。

速水士郎を追いかけて

悪くはないし、やりたいことはわかるんですけどね。惜しい一作。
でも「なぜ部活をやるのか」という速水くんの問いに対する答えは本書の中で一番人間を描いていたと思います。

ルナティック・レトリーバー

手がかりを使い切ろうと気持ちいい「推理」を組み立てようとする探偵のしぐさが説教を受けるというのは全く真新しいものではないのですが、このように短編のなかで多重解決の接合パーツとして使う分には悪くないと思います。
ドア連動の密室トリックは面白かったですね。この「面白いトリック」ではなく、被害者を脅して密室に追い込み自ら目張りをさせて一酸化炭素中毒に追い込むという「残念なトリック」のほうが真相、というのも上記と連動したアンチミステリ的な趣向なのでしょう。
ただこの趣向はつまらない真相を活かすことはできても無理な真相を通すことはできないのでは…。