24/11/23 【感想】イハナシの魔女

ノベルゲーム「イハナシの魔女」をプレイしました。

沖縄の離島へ引っ越した少年は、世話になるはずだった祖父が蒸発したことを知らされる。 離島での自活を覚悟したとき、魔女を名乗る少女と出会った。異界の魔法を扱う少女と琉球文化の根付く離島での生活。二人を待ち受ける運命とは────。

沖縄の離島で魔女に出会います。魔女です。
魔術や呪いと琉球神道が絡み合いケレン味あふれる話が展開されるのですが、本作の特長はそれと同時にべったりと地に足のついた「生活」が描かれていることです。

働いて収入を得る。その就職も地元のコミュニティの中で伝手を頼って観光客向けのホテルで働いたり。1日2本のフェリーで通勤したり。
限られた予算の中で電気代や水道代を払い、買い物をして料理をして魔女と食事をする。病気をすると医療費が気になる。
他のビジュアルノベルであれば透過されていそうな泥臭い「いとなみ」が描かれていて、読んでいると土臭さと亜熱帯のむわっとした空気を感じられるほどです。

この生活描写が背景にあるからこそ、描かれる等身大の悩みがすごく生々しく感じられるんですよね。開放感あふれる自然豊かな離島にいながら、土地から離れられないという閉塞感が強く意識されます。東京が果てしなく遠い。本当に距離感が生々しいんですよ。
しかし、そこに突然オカルトが交錯する。この立体交差が本作の強烈な個性です。ずっと丁寧に地に足のついた生活を描いていたのに、突然跳ぶ。
読みながら「もし自分が作品を作るとして、この飛翔ができるだろうか」と真剣に考えてしまいました。このことって今後もしばらく考えそうな気がする。

閑話休題。
沖縄の離島という舞台が、剥き出しの生活感を描く上でも現実離れした地上の異世界を描く上でも非常に機能していると思いました。日常も非日常も濃厚に描ける、この舞台選びが最高にふるっています。
また様々な土着の信仰体系が入り交じる琉球神道をインストールしたことでオカルトの入り込むスペースを自然に確保している設計も鮮やか。嘘をつくときは真実の話の中に少しだけ嘘を織り交ぜるのが良いとはよく言われることですが、本作はそれを見事にフィクションの下地として使っています。琉球神道の神秘性や多層性、「あまり知られてなさ」がめちゃくちゃ活きてるんだよなあ。

ヒロインの魔女リルゥは物語中におけるオカルト的なファクターの多くに関係しており、実際に彼女が物語のキーパーソンとなるわけですが、呪いという体系の大きさに対して彼女をはじめとした登場人物ができることは非常に限られています。でも、このことが逆に「オカルトのある世界での人間たちの話」としてまとまりを持たせていたと思います。
これが彼女を経由して直接呪いの体系全体に繋がるようになるといわゆる「セカイ系」になるのですが、本作はそれをしないことを選びました。本編が終わったあとの、謎の解明の見せ方がすごく良いんですよね。どの作品にでも応用できる見せ方というわけではないのですが、本作に関してはこの見せ方にしたのがとても気が利いていたとおもいます。