23/03/12 奇跡の傑作「VSかぐやテスト」のこと
僕はミステリ小説が好きで、それが嵩じて「ミステリオタク趣味」を詰め込んで二次創作の同人誌を作ったことがあります。といってもミステリジャンルで出したわけでなく、アイドルマスターミリオンライブの二次創作。
そのとき、スペースに来てくださったフォロワーさんからおすすめのミステリを一揃えいただきました。すごい。HNを食べ物の名前にしてると即売会で差し入れにもらえるという話は聞いたことがあったのですが、好きだ好きだと言っているとミステリをもらえることもあるんですね。
そのときもらったのが玩具堂による『子ひつじは迷わない』シリーズ全6巻。角川スニーカー文庫から出ている、いわゆるライトノベルですが、ジャンルはミステリでした。
特にクリティカルヒットしていた短編が今回タイトルに挙げている「VSかぐやテスト」。シリーズ第2巻『子ひつじは迷わない 回るひつじが2ひき』に収録されています。
後日「【短編ミステリ・オールタイムベストアンケート】国内編」という企画のまとめを見返していたときに気づいたのですが、この短編、なんと国内ミステリ短編オールタイムベスト100に入っていました。ミステリファンのアンテナ、恐るべし。
第78位にランクインしていて、そのひとつ上には連城三紀彦「花虐の賦」、ひとつ下には泡坂妻夫「煙の殺意」がいると書けばその凄さが伝わるのではないでしょうか。
本作「VSかぐやテスト」における謎は一言で表すと「国語のテスト」です。
暗喩ではなく、本当に作中に国語の長文読解テストが出題され、それを謎解きすることになります。
元々ミステリと国語の長文読解テストはどちらも「文中に書かれた情報で正解に辿り着けることが保証された上で、設問に解を求める」という非常に似通った構造をしているんですね。
ミステリのどこに大きな魅力を感じるかというのは人それぞれだと思います。一見不可能に見えるような謎が鮮やかに解き明かされる「不可能興味」に強く惹かれる人もいれば、叙述トリックに代表されるような文章レベルで読者を煙に巻く妙技の美しさに酔いしれる人もいるでしょう。コアなファンだとミステリという建築の骨組みそのものを大胆にアレンジするような構造に興奮をおぼえる人もいることと思います。
この「VSかぐやテスト」は、この魅力すべてを備えています。
なぜなら本作に登場する国語のテストは、作中の言葉を借りると「問題を解くための根拠になる内容が、課題の文の中に全然書いてない」。一見解明が不可能に見えるような謎なのです。
そしてその謎の解明は出題者が仕掛けた叙述の罠を見破ることで行われ、読者はこの作品が国語のテストを利用した「ミステリ構造の大胆なアレンジ」だったと知るのです。
また本シリーズは「謎の解明と解決の分離/分担」というライトミステリジャンルで愛用される素敵なギミックを存分に使っているのですが、本短編はそのギミックが非常に印象的に機能したパターンでもあります。
ミステリ短編はたまにこれがあるんですよねー、おとなしそうな顔をした短編集の中に突然凄まじい傑作があったりする。
シリーズ作品の第2巻でありながら独立した短編としても問題なく読めるので、アンソロジーに収録するなどしてなんとか保存され、もっと読まれてほしいところ…。(ただ現在ではKindle Unlimitedでシリーズ全体が読めるようです)
ちなみに全6巻読んだ感想としては、作者のミステリ作家としての才能はどちらかというと長編にあると思いました。第4巻と第6巻が長編でそれ以外が短編なのですが、長編2作はいずれも良かったです。ベスト長編を選ぶなら最終巻でもある第6巻「子ひつじは迷わない 贈るひつじが6ぴき」。
「何が謎か特定されていない状況で話を進めていく」ことが得意なタイプに見え、これが長編で存分に発揮されていました。
短編は純粋に謎と解決のキレで勝負しなければいけないため本領発揮できないという、コリン・デクスターを読んだときのような感想を抱いた――と、当時の読書メモに書いています。
それでも、長短編合わせてシリーズ内でベストを選ぶなら間違いなく「VSかぐやテスト」だと思います。オールタイムベスト100選入りに恥じない傑作です。