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レバノンとイスラエルの現状について

北部レバノンとイスラエルの現状は非常に緊迫しています。日本では、2週間前のポケベル爆発事件により、ヒズボラ(神の党)とイスラエルの戦闘が始まったと考える人も多いかもしれませんが、これは報道の問題が原因です。多くの報道機関は、パレスチナ(ガザ)の被害に注目し、イスラエル側の被害を軽視した結果だと言えるでしょう。


ヒズボラによるイスラエルへのこの一年の攻撃全貌

しかし実際には、2023年10月7日の早朝、ハマスによるイスラエル攻撃が始まり、その後、ハマスと同盟を組むヒズボラもイスラエルに対する攻撃を開始しました。ハマスが行った「アルアクサ洪水作戦」は、もともとヒズボラの精鋭部隊ラドワンが計画していた「ガリラヤ占領作戦」のコピーでした。このため、イスラエル北部国境近辺の住民は、10月8日から自主的に避難を始め、10月16日には政府も正式に避難を呼びかけました。

この1年、北部レバノンとイスラエルとの国境付近では、激しい衝突が続いています。国境付近の市町村からは約8万人が国内避難民となり、その一部は戻ったものの、いまだ約7万人が避難したままです。特に、子供を持つ家族は危険を考慮し、戻ることができていません。

最北の街、キリアットシモーネでは、街中を歩いているのは軍人や警察だけで、子供の声は聞こえず、街は静まり返っています。22,000人が本来住んでいたこの街は、空襲警報以外は静寂に包まれ、まるで廃墟のような状態です。また、国境には「イスラエルのスイス」と呼ばれるメトゥーラという村がありますが、ここもこの1年、軍以外の立ち入りは禁止されています。

地中海側には、多くのイスラエル国籍を持つパレスチナ系アラブ人の村が点在しており、アッバス議長の出身地ツファットも激しい攻撃にさらされています。2006年の第二次レバノン戦争後、国連総会で採択された決議1701号では、ヒズボラに対してリタニ川以南での武器や軍事施設の設置が禁止されていましたが、ヒズボラはこれを守らず、民家に武器を隠していたのです。また、イラン、シリア、イラクのシーア派組織と連携した武器密輸ルートも形成されていましたが、それが10月8日以降、機能し始めました。

2024年イスラエルにミサイル攻撃するグループ 濃紺ハマス 水色ヒズボラ

さらに、南レバノン国境を監視する国連PKO部隊「UNIFIL」も、この戦闘に巻き込まれる事態となりました。現在では、ほぼ毎日、レバノン側からの攻撃が行われており、地域住民は戦火の中で作物を育て、家畜の世話を続けています。一方で、レバノン側にも、ヒズボラとは無関係のキリスト教徒の村があり、ヒズボラによって民家を奪われ、避難を余儀なくされています。

UNIFIRが展開する地域

このような状況にもかかわらず、イスラエル政府は何度も「ヒズボラとの戦争は避けたい」と声明を出してきました。しかし、2024年に入ってからは、実際のミサイル攻撃がガザよりも南レバノンのヒズボラからの方が増えていきました。イスラエル軍は、これらの作戦を指揮するヒズボラの幹部クラスを標的にした暗殺を行ってきましたが、戦闘はエスカレートする一方でした。

2024年8月末から9月にかけて、北部イスラエルの住民は新学期を前に帰還を検討していましたが、700発余りの攻撃が行われました。公式には、これはハマス政治局トップのイスマイル・ハニヤがイランで暗殺されたことへの報復とされています。9月に入ると、ヒズボラの攻撃はさらに激化していきました。

分数、秒数での攻撃数、最も空襲警報の多い街は北部のキリヤットシモーネに

現在、ガザのハマス勢力はほぼ壊滅状態にあり、エジプトからの武器供給も阻止できているため、戦闘の規模は縮小しています。しかし、ヒズボラの約25,000人いるとされる戦闘員のうち、4,000人がポケベル爆破事件で負傷していると報告されています。米国の大統領選挙によりアメリカの政治的介入力が弱まる中、イスラエルのネタニヤフ首相は、自身の人気回復を狙って国家の命運を賭けた「Northern Arrow」作戦を今週から開始しました。

イスラエル政府は、レバノンの民間住居に武器がある場合、その家屋を攻撃すると宣言し、地域住民に避難を呼びかけました。攻撃は南レバノンにとどまらず、ヒズボラの本拠地ベッカー高原やベイルートのダヒヤ地区にも広がり、激しい空爆が行われました。さらに、3個大隊が動員され、地上戦の可能性を示唆しつつ、ネタニヤフ首相はニューヨークの国連総会に出発しました。

ニューヨークでは、ネタニヤフ到着前にフランスとアメリカがこの戦闘激化を危惧し、停戦案を準備していました。これは21日間の停戦中に、再び国連決議1701号に基づく議論を行うという内容でした。しかし、ネタニヤフ首相はこの案を否定しました。

その翌日、ダヒヤ地区で幹部会議が行われるという情報をもとに、イスラエル空軍が地下バンカーをも破壊できる量の爆発物を投下し、ヒズボラ指導者ハッサン・ナスララとイランから派遣されたアドバイザーが死亡しました。これにより、ヒズボラの幹部層はほぼ排除されたとされています。

しかし、ヒズボラはこれに対抗し、安息日の朝から北部・中部イスラエルに無差別攻撃を続けています。この戦闘がイランとの直接対決に発展するのか、それともハマスのようにヒズボラの攻撃力が削がれて終息するのかは、現時点では不明です。

いずれにせよ、この戦争は国際社会が早い段階で国連決議1701号を厳守させ、ヒズボラに圧力をかければ、回避できたのではないでしょうか。イスラエルは何度もその違反を訴えてきましたが、ガザ問題に注目するあまり、ヒズボラの行動を見逃し、イスラエル批判に世界は終始してしまった結果、現在の状況に至ったように思われます。イスラエル政府にとっては、254名の国民が拉致され、国民が安心して子供を育てられる環境を整えることが急務であり、軍事行動がその一環だったのかもしれません。

このように、北部レバノンとイスラエルの国境地帯は、いまだ危機的な状況にあり、戦火に巻き込まれた住民は避難生活を余儀なくされています。


テルアビブ大学 INSS研究所資料

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