見出し画像

Day.008 アナロジー的展開術 / 2章「デザインのやり方」

Last updated date : 2025.2.27
Version : 1.0


D008-1 卒業生からの贈り物

筆者たる蘆澤くんですが、大学では研究室を開設しています。その名も「動態デザイン研究室」です。ヘンテコな名前ですよね。何故この研究室名にしたのか?を話すと長くなるので、また別の機会にお話しできればと思います。話の本題はそこではなく「研究室配属」です。

大学の多くは4年生ぐらいになると卒業研究とやらに従事します。通称「卒論」というやつです。そして、卒論へ向かうにあたり、研究室とやらに所属するのが一般的です。この研究室配属ですが、当然にして人気のある研究室と、そうでない研究室があります。ところがどっこい、研究室には概ね「定員」があるので、必ずしも自身が希望した研究室に配属されるとは限りません。ですので、大学生になると大きな関心事のひとつに「研究室配属」が挙がってきます。研究室配属のルールは大学、さらには学科レベルでも異なるので何とも言い難いですが、成績がよいと希望が通りやすくなる傾向があるので、割と大学生は成績を気にしやすい生き物だったりします。

ちなみに筆者たる蘆澤くんは「意味をデザインするというやり方」でもご紹介した通り「サボり倒し学生」だったので、当然にして成績は激ワルでした。ということで、研究室配属を眼の前に「絶望」の2文字だけがそこにありました。当然にして人気満点の研究室には入れなさそうだったので、あれこれ考えた結果「変な研究室に配属されるぐらいなら、絶対に行けそうな研究室で希望を出そう」と思い立ち、とある研究室で希望を出しました。結果、その研究室に所属することになりました。それが私の出身研究室です。そんなこんなで、当時は「微妙な研究室に入っちまったぜ」なんて思っていたのですが、結果として「なんだか面白いな」となってしまい、博士課程まで進んじゃったわけですから、人生何が正解か?なんて分からないものです。

と、私の思い出話はさておき、そういうことなので私の研究室にも毎年、学生が配属されます。ちなみに私の研究室が人気かどうか?で言うと、人気は無いです。絶望的に人気がないか?と言われると微妙ですが、決して人気のある部類ではありません。まぁ、賛否両論の人間ですからね。そんなものです。

さて、そんなこんなで配属された学生たちは卒論を書き、研究室から巣立っていくわけですが、ありがたいことに卒業する際にプレゼントをくれたりします。ただ、なんと言いますか、私の価値観はどちらかというと実益重視型なので、学生たちにはあらかじめ「何かくれるならタバコひと箱でお願いします。それが最も喜びます。」と宣言しています。おかげさまで、3月下旬はタバコのストックが増えるので割とホクホクだったりします。ちなみに、以下の写真はその現物です。

卒業生からいただいたタバコ

例年であれば「タバコをいただいてホクホク」で終わるのですが、この年は少しだけ異なっていました。それはタバコをひっくり返した際に分かりました。それがコレです。

卒業生からいただいたタバコの裏側

粋な計らいをしてくれるものです。思わず「なるほどな」と感心してしまいました。と、この話は一度ここで終わらせて、次の話へ移ってみましょう。

D008-2 モノの意味とアナロジー思考

まずは見ていただきたい写真があります。それがこちらです。

さて、これは一体何でしょう?

人によっては「養生テープ」と答えるかもしれませんし、人によっては「メッセージ」と答えるかもしれません。はたまた、人によっては「なんかオシャレなモノ」かもしれません。

まぁ、モノの意味は人によって異なるので、どれも正解です。このようにして考えると、モノの意味というのは無限大にあるとも言えます。例えば、先ほどご紹介したタバコは「嗜好品」である一方、「感謝のメッセージを伝えるためのモノ(手段)」でもあるわけです。と、このようにして考えると、実は「例のタバコ」と「先ほどお見せした養生テープ」は「感謝のメッセージを伝えるためのモノ(手段)」という点において共通点が見いだせます。

この話を踏まえると「感謝の意を伝えたい瞬間に、眼の前に何かを書ける部分が確保される(または「既に感謝の意が記載されている」)と、それは感謝のメッセージを伝えるためのモノ(手段)になり得る」という着想を得ることができます。そして、それはデザインの新たなアイデアを考えるためのエッセンスとして使うことができます。

例えば、このエッセンスを取り入れたモノの事例として「スタバのカップ」が挙げられます。スタバのカップはよーく見ると、メッセージが書けそうな余白をあえて設けているフシがありますし、カップによっては「メッセージを書くための罫線」のようなものが印刷されたモノもあります。

と、このようにして、モノに内在する意味や特徴に共通性や類似性を見いだして連想し、新たな着想を得ようとする思考を一般的に「アナロジー思考」と言います。

元々「アナロジー(Analogy)」とは、直訳すると「類推、類比」と訳される言葉で「ある事柄の類似点を根拠にして、他の事柄にも同様の性質があるだろうと推理する行為」を指します。「何いってんだオマエ」と思われた方もいらっしゃると思うので、簡単に例文を作ってみます。

  • 前回の新商品発売日はめっちゃ行列ができたから今回の発売日も行列ができるんじゃないか?

  • 推理ドラマというのは「え?こいつが犯人なの?」と思うような「意外な人間」が犯人なんだ。だからあからさまに犯人っぽいコイツは犯人じゃないはずだ。

いかがでしょう?皆さんも日常的にこんなような推理をよくしていますよね。どちらの例文も「根拠としている事柄」と「推理している事柄」は異なります。ですが、どちらの事例においても「共通する性質」は見いだせます。例えば発売日の例文であれば「新商品発売日という事柄」、推理ドラマの話であれば「犯人が存在する推理ドラマという事柄」において共通性を見いだせます。そして、この共通性を根拠にして「こっちにも同じようなことが起こるはずだ」と推理しているわけです。これがアナロジーです。

まぁ、皆さん薄々お気づきかもしれませんが、この話、よく言えばアナロジーですが、悪く言えば「単なる思い込み」とも言えます。なので、アナロジーそのものは「間違った見解を見いだしやすい」という特徴があるので、それ自体は慎重に行う必要があります。

ですが、デザインにおいてアイデアを考える場面の場合、アナロジー思考は割と役に立ちます。というのも「アイデアの基本的な考え方」でお話した通り「アイデアが出る・出ないの差は、残骸も含めたアイデアの総量の差」ですから、連想よろしく色々と考えていかないと量が増えません。それであれば「マジカルバナナみたいな単なる連想でいいじゃないか?」という風に思う方もいらっしゃるかと思いますが、これも同じ回でお話した通り、デザインにおいてアイデアを考える際は「エピソード記憶≒シーン」で物事を考えないと上手くいきません。そういう意味においてアナロジーの場合、そもそもが「事柄(エピソード、シーン)に共通性を見いだして推理する行為」なので「シーンにもとづいて思考」します。ゆえもって、デザインとの親和性が高いと言えます。なので、アナロジー思考はデザインにおいて「割と役に立つ存在」なのです。

D008-3 例え話で考えるのが一番手っ取り早い

さて、アナロジー思考がなんだかよさそうだなぁということが分かったとて「ほいじゃ、どうしたらそれが出来るようになるんじゃ?」という疑問が生じるかと思います。

これに関するワタシ的オススメな方法は「例え話」です。この話を知ってか知らずか、デザイナーは割と例え話をするのが得意であり、好きでもあります。なので、会話の中に「あー、それって◯◯みたいなコトでしょ?」みたいな言い回しがしばしば登場します。身近な例を挙げてみましょう。最近、私が使った例え話がこれです。

いやぁさー、就活なんていうのは恋愛と一緒なんだから…

どういうことかというと、恋愛も就活も「お互いにいい相手を見つけよう」としている点で共通性が見いだせますよね?という話です。デザイン界隈ではこうした例え話がまぁまぁ飛び交っています。ちなみに先ほどの「恋愛と一緒なんだから…」の先にはこんな話が続いています。

恋愛でも「私、あなたのことが大好きです!あなたしか見えません!」って凄い圧で言われたら重くて引いちゃうでしょ?就活もそれと同じで「御社が第一希望です!御社に入るのが小さい頃からの夢でした!」って凄い圧で言われたら「いや、そんな思っているほどのパラダイスではないっすよ…」って引いちゃうし、ましてや恋愛でもそういう類いのウソって、何となくすぐにバレちゃうじゃん?就活の面接も同じよ。

話の流れはまさにアナロジーそのものですよね。そう考えると「例え話とはすなわちアナロジーそのものである」とも言えます。なので、例え話をするということは、これすなわちアナロジー思考を鍛えていると理解することができるのです。で、何かしらのアイデア展開へとつなげるならば「例え話の向う側にある何らかの要素をこっちの話にも適応させてみる」といったやり方でアイデア化することができます。例えば今回の「就活はさながら恋愛のようである」といった事例をベースに「就活に関連した新たな事業アイデアを出せ」という話になった場合、以下のような展開をすることができます。

恋愛に関連した事柄と言えば、街コンなんかあったよね。あれって、街なかにある複数の店舗を適当に回って立食パーティー的に話をするんだよね?そうしたら、例えば就活フェアみたいなイベントを開いて、イベント会場を「仕事をやっていて面白かったこと」「仕事をやっていて辛かったこと」みたいなトークテーマでいくつかのエリアを区切って、そこを企業側も求職者側もウロウロしながらフリートークするっていう就活フェアっていうのもアリなんじゃない?カジュアル面接より、もっとカジュアルになるから、お互いの人となりがよく分かりそうだよね。

と、こんな感じです。アイデアのクオリティはともかくとして、例え話の向う側にある「街コン」の要素を、こっち側にある「就活フェア」の要素に結びつけてアイデア展開する感じがなんとなく掴めましたでしょうか?もちろんアイデアの考え方に正解は無いので、他の考え方でも全く問題はないです。「デザインを学ぶ際の心構え」でもお話した通り、デザインの知識はパッチ型ですから、「パッチのひとつ」ぐらいの認識でいただくのがよろしいかと思います。

D008-4 マーケッターがやりがちな大間違い

そんなアナロジー思考ですが、いわゆる商品企画や事業企画やらを考える通称「マーケッター」と言われる人たちも似たような考えを用いたりします。私も職業柄、このテの人たちと多く関わるのですが「いや、それじゃあダメだよね」と思うことが割と多いので、この際なのでそのあたりの話もしてみたいと思います。ということで、マーケッターの方々がやりがちな大間違いをズバッと指摘します。それは

あっちでコレがヒットしたので、こっち側にもそれを持ってこよう

というやり方です。平たく言うと「右でヒットしたモノを左に持ってくる」みたいな話です。一見すると「アナロジー思考も同じじゃん」と思うかもしれませんが、実際のところは全然違います。ということで、まずはよくある間違いから紹介してみたいと思います。

例えば、とある地域で地元の特産品を使った「◯◯バーガー」なるものがヒットしたとします。まぁ、薄々「あれのことか?」となった方もいらっしゃるかと思いますが、そこは架空の話だと思ってください。で、とある日、全然違う別の地域で「新たな商品開発のアイデアを考える」という会議が行われていたとしましょう。その時に間違ったマーケッターはこんな物言いをします。

皆さんご存知の通り、Aという地域で地元の特産品を使った「◯◯バーガー」がヒットしました。Bという地域でも同じようにして「□□バーガー」を開発したのですが、これもヒットしました。なので、この地域でも地元特産品を使った新たなバーガーを開発しましょう!例えば、この地域の特産品は✗✗なので、それを使ったバーガーなんかがいいと思います。

で、これを聞いた人も成功事例(しかもこの場合は2つもある!)を眼の前に「たしかにヒットしそうだ!よし!やろう!」みたいな感じになることが多いです。ですが大抵の場合、こうした感じで始めるものは失敗します。何故かというと「意味のデザインができていない」からです(意味のデザインについてはこちらをお読みください)。

「いや、『地元の特産品を使った』という意味があるじゃないか!」とおっしゃる方もいる気がしますが、それは意味ではなく、単なる「特徴」です。意味のデザインは、それを受け取る人(ユーザー)が納得して初めて意味になります。例えば「地元の特産品を使った」とユーザーさんに言ったとて、「で?」となれば、それは意味をなしません。ですので、例えば

地元の特産品を使って、何か『ここでしか作れない絶品』を生み出すことができないか?そう思って、あれこれ苦心した末に生み出されたモノが◯◯バーガーです。◯◯バーガー、一見すると何の変哲もないバーガーかもしれません。ですが、「ここでしか作れない理由」は3つあります。ひとつは〜

みたいな感じで人々が納得できるような経緯があれば、意味のデザインになります。アナロジー思考の例え話も、それ自体が経緯になり得るので、意味のデザインにつながりやすくなります。ところがどっこい、大間違いマーケッターは意味ではなく、単なる表層的な「特徴」を持ってこようとします。そうなると、それを知った人々も「で?」となるので、「よし!それを買おう!」という気にならないわけです。

簡単に言えば、いくらアナロジー的に考えたとて、意味のデザインができていなければそれは用立たないという話です。微妙な違いといえばそうですが、その微妙な違いが大きな差を生んでしまいます。なので、大間違いにならないようご注意ください。

D008-5 まとめ

ということで、いつも通りまとめ箇条書きに入りたいと思います。

  1. モノに内在する意味や特徴に共通性や類似性を見いだして連想し、新たな着想を得ようとする思考を一般的に「アナロジー思考」という。

  2. 元々の「アナロジー(Analogy)」はある事柄の類似点を根拠にして、他の事柄にも同様の性質があるだろうと推理する行為を指す。

  3. アナロジーは「事柄の類似点を探す行為」なので、放っといても「シーンにもとづいて思考する」ようになるため、デザインにおいてアイデアを考えるにあたり親和性が高い。

  4. アナロジーを上手く行うためには「例え話で表現してみる」をやるとちょうどよい。

  5. アイデアに展開しようとする場合「例え話の向う側にある何らかの要素をこっちの話にも適応させてみる」といった方法でアイデア展開できる。

  6. 似たようなものとして「あっちでコレがヒットしたので、こっち側にもそれを持ってこよう」という考え方をする人がいるけど、それでは全く用立たない。

  7. いくらアナロジー的に考えたとて「意味のデザイン」ができていなければそれは用立たない。

特に最後の部分はとても重要なので、そこは強く意識していただければいいなぁと思います。

ということで、今回はこれで終わりにします。またお会いしましょう。

いいなと思ったら応援しよう!