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また逢う日まで
ザ・プラターズの来日公演に行ったのは 25年くらい前の6月。
場所は新宿厚生年金会館。確か小雨の降る夜だったと思う。
空気がしっとりするこの時期になると、
私は決まってあのコンサートの事を思い出す。
白いスーツ姿で歌われたヒットナンバーの数々。
< Smoke Gets In Your Eyes > や < Twilight Time > 、
< Red Sails In The Sunset > 、 < The Great Pretender > etc..。
勿体つけるかのようにショウのラストにきてようやく
デビュー曲でありウルトラヒットナンバーの < ONLY YOU > が始ると
もう会場全体が 『 待ってました 』 と言わんばかりの熱気に包まれた。
大盛り上がりの後のオーラスに < MY PRAYER > 。
今度は全員、シンと黙ってじっくり聴き入った。
歌い終えると、拍手喝采の中をあっさり引っ込んでしまったので
『 アンコールっ!! 』 と私も一緒になって叫んだ。
するとすぐ二代目リード・ヴォーカルのソニー・ターナーが
1人でステージに戻ってきた。
手にはクルクルと丸めたポスターのような物を持っている。
センターマイクで 『 Thank you ! 』 そう言ったかと思うと、
にっこり笑って 突然ステージから客席へ降りた。
そして最前列に座っているお客様を1人立たせ、
自分が手にしていた大きな紙を広げてその人に手渡し、
『 こういう風に広げて このくらいの角度でそのまま持っているように 』
とジェスチャアで伝え、一旦ステージに戻ったけどまた降りてきて
『 もっと上に向けて 』 と角度を数回直し、やっとマイクの前に戻った。
そのお客様は 両手でしっかりと大きな紙を広げて持ち、
言われたまんま立たされている。それが笑いを誘った。
すると次の瞬間 何の前触れもなく、
あの < また逢う日まで > が流れ出した。
タッタッタラ~ラ ラッ ドン!
イントロのこの " ドン! " のところで、なんと観客全員が
一斉に手拍子で合いの手を入れた。もちろんアタシも!
その " ドン! " にくるまでのたった3拍の間で曲に気づき、
4拍めには皆が手を鳴らし、あんまりピタッと合ったものだから
それをやりつつ誰もがオ~!と驚きの声をあげていた。
ソニー・ターナーは満足そうに会場を見渡し、そして歌い始めた。
不慣れなのがよく伝わってくる日本語で。
真正面に立たせたお客様が持っている例の紙を
目を皿のようにして 見つめながら。
そう、あれはカンペだったのだ。
ローマ字で横に歌詞が書かれているらしく、
紙から一瞬たりとも目を離せないご様子。
それがまた愉快で、なんとも微笑ましい。
心に残る、にくい演出だなぁと感心したのを覚えている。
尾崎紀世彦さんの ズバ抜けた歌唱であまりにも有名なこの曲を
全身で楽しみながら 汗だくで歌っていたあの声、あの表情。
客席に降りてカンペの角度まで指導したのも全部ひっくるめ、
最高のエンターテイメントだった訳だ!
そしてアンコールに、これを選んだというセンスの良さにもしびれた。
日本人なら誰もが知っているであろう名曲で、しかも
ソニー・ターナーの声にはこれ以上ないってくらいドンピシャ!
遊び心たっぷりの演出に、観客全員が心地好くしてやられ、
割れんばかりの拍手は いつまでもいつまでも鳴りやまなかった。
銀座ナッシュビルに出演していた頃、
よく遊びにいらしては あの素晴らしい歌声を
披露して下さっていた尾崎紀世彦さん。
私はドキドキで、ホントにひと言ご挨拶するのが精一杯だった。
来日に向け、ザ・プラターズのメンバーが 何度も何度も
尾崎さんのレコードを聴いて練習した様子を思い浮かべるたび、
目には見えない幸せなエネルギーに心が満たされて熱くなる。
そしてあのコンサートで < また逢う日まで > が流れた時の感動は
私の宝物のひとつになっている。
尾崎さん、きっと今も天国で歌われているのですよね、
そこにいる人達の為に!