映画部の思い出断片①と、何か
学生時代、映画部に所属していた。
木屑とペンキの匂いのする学生会館にBOX(部室)があり、諸先輩が貯めこみ続けた本と小道具や撮影機材の隙間に、時間を持て余した人が何となく集まっている。すえた匂いを放つゴミ箱の横のソファでぼんやりと本を読んでいる部員。あちらでは脚本を一生懸命書いている者がいる。隣ではベソをかきつつ課題に取り組む単位僅少党。悟り組は長椅子で静かに昼寝をしている。大きな目玉をして奇声を発しつつゲームに打ち込んでいる一派もいた。
脚本を書いてきた者がたいていは監督も兼務して、先輩後輩同期誰でも脚本のイメージに合う人に声を掛けて出演をお願いし、あるいはカメラやマイクをお願いし、あの時期かなりの頻度で映画が撮られていた。
映画部の思い出はいくつもあるが、最近思い出したものだと、道場破りが来た、というのがある。
とはいっても、私が直接目撃したわけではないのだが。
4月は新入生歓迎の時期で、ビラ撒きが行われ質問ブースも設置されていた。3回生で執行部だった私はその日、部室に来た新入生の質問に答える当番で、講義終わりに部室に行ったのだが、なんだか様子が変だった。
「あ、八島、ちょっと遅かった。いますっごいマッチョな人が来てたんよ」
「筋肉質ってこと?」
「いや、思想的にすごいマッチョな人」
「歓迎!お気軽にお入りください」と書かれた押し戸を、「頼もう」と太い声で引き開けて殴り込んできたその人物は、「映画部で一番強いやつを出せぃ」と狭い部室内に咆哮したらしい。
「一番強いやつって…?」
困惑した私の問いかけに、道場破りに応対した部員も首を傾げる。
「分からん…」
「てか、映画部に於いて強いってなんなん?」
「わしも分からん…、、でも道場破りが言うなら、やっぱ喧嘩では?」
「喧嘩か…」
「ここは年功序列で、まず先輩から順番に殴られに行くべき」
「そうなると『ファイトクラブ』に影響され「スペース・モンキー」を組織するんだと部員をオルグしてまわってたあの人とかが先鋒ですかね」
「…でも、ファイトクラブのあいつホンマに喧嘩強いんかな?」
「……」
「しかし、マジで映画部に於ける『強い』って何よ」
「知らんよ、道場破りが次来た時に聞いてみな」
その人物は、自分たちの映画部運営をリベラルだと思い込んでいた私に不穏な問いを残し、そして結局二度と現れなかった。
しかし、私も新年度が始まって楽しく過ごしているうちにそんな出来事はすっかり忘れ、「強いとは」なんて結局何も考えずに映画を撮ったり出演したりしているうちに、卒業してしまったのだった。