連載百合小説《とうこねくと!》東子さまにしか言えない過去(2)
みなさん、こんにちは。北郷恵理子です。
前回のお話はこちらからどうぞ。
真剣なまなざしで私を見つめる東子さまに、私は過去に起きたことを話し始めます。
「高校時代……当時書いてたブログに、女の人が恋愛対象で好きだ、って書いたことがあるんです。でも、クラスの子達が私のその記事を見つけたらしくて……」
私は再び、拳をギュッと握ります。
「コメント欄に……『気持ち悪い』とか、『女の人が可哀想』とか『変な奴』って書き込まれて……」
どんどん呼吸が細くなります。
「あげく、『キモいから死ねよ』って……」
ギュッとつむった目が熱くなり、涙がジワッとにじんできました。
「クラスにいれば、面白可笑しく『レズが来たぞ』って大声で言われて……晒し者みたいになって……」
強く握った拳の上に、涙がパタパタと落ちていきます。
「同性の人が恋愛対象というだけで、こんな仕打ち……。どうして、あの時私は、そこまで言われなければいけなかったのでしょうか……?」
乱れてくる呼吸を整えようとしますが、上手くいきません。思い出しただけで苦しく、そして悔しいのです。
どうして、『人』を好きになったらいけないのでしょうか。
異性も、同性も、変わらず『ひとりの人』ではありませんか。
私の住む世界は、異性を愛することしか認めてくれないのでしょうか。
私に「死ね」と言った人がいたように、同性の人を好きになることは死に値するようなことなのでしょうか。
何が正解なのかわからず、長い間たったひとりで暗い海をさまよって、それでも何もわからなかったではないですか……
「す、すみません、東子さまの前でこんな話……」
涙をゴシゴシ拭いて無理に笑顔を作ろうとした、その時。
「……つらかったわね。よく頑張ったわ」
東子さまの優しい声が、耳元に届きました。
私は東子さまに、後ろから抱きしめられていました。
東子さまの温かさにふれて、私は堰を切ったように声を上げて泣きました。涙はとめどなく溢れ、私の頬をびしょびしょに濡らしていきます。
「もういいのよ。我慢しなくても」
私を優しく抱きしめる東子さまから漂ってくるジャスミンの香り。その柔らかい香りに、私はまた涙をこぼすのでした。