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ショートストーリー《もしたむっ!》Osamu.7:よさむと雪景色

 この日出社することになった「よさむ」は、玄関のドアを開けて愕然とした。
「おいおい……外はこんなに積もってるのかよ……」
 街は一面大雪。一晩で一気に積もったものだ。
「おい、おさむ。やっぱ俺今日はいいや」
 よさむは、玄関先まで見送りに来た修に言う。
「いや、お前が行け。今日は寒いから、俺は家でゆっくりしてる」
 そう言うと修は部屋の奥に引っ込んでしまった。
「おい!」
 よさむが呼んでも、もう修は部屋から出てこなかった。
「おさむのやつ、めんどくさがりやがって腹立つなぁ……」
 よさむは、白い息を吐きだして文句をぶつぶつ言いながら玄関のドアを閉めた。

「うう……寒いな……」
 体を震わせマンションを出たよさむ。一歩踏み出したその時。
「うわっ!?」
 足を滑らせ、ツルっと転び尻もちをついた。
「いてて……くそっ、おさむのせいで……」
 よさむはゆっくりと慎重に立ち上がり、痛めた尻をさする。すると。
「くすっ」
 女の小さな笑い声が聞こえて、よさむは顔を上げる。そこに立っていたのは、今年入社したばかりの新人・望美だった。
「おい、お前笑ったな」
「おはようございます修さん! 笑うだなんて、そんなわけないじゃないですかー!」
 あいさつしながら否定する望美。
「そうか。まあいい」
「へへっ。修さん、一緒に会社行きましょう!」
「ああ」
 ふたりは並んで歩いて会社に向かった。

「やっぱり秋田は雪国ですね! 雪がすごいなぁ……!」
 歩きながら、望美はキョロキョロとあたりを見回す。
「そうか、お前はたしか東京出身だもんな」
「はい!」
「じゃあ、ああいうのにも驚くだろ」
 そう言ってよさむが指差したのは、2メートル近くの高さの雪の壁だった。
「わぁっすごーい! おっきい壁だぁ!」
 初めて見るその白い壁にはしゃぐ望美。走って壁に近づこうとしたその時。
「ひゃっ!?」
 望美は足を滑らせステーンと転んでしまった。
「あいたたた……」
 先程のよさむのように、打った尻をさする。
「ははっ、さっき俺を笑ったからそうなるんだ」
 高笑いをするよさむにカチンときた望美は、近くに積もっていた雪を掴んで握る。
「もう! 修さんのバカーっ!」
 握った雪玉をよさむに投げつける望美。雪玉はよさむの顔面にヒット。
「いてっ、やったなお前っ」
 顔についた雪を拭ったよさむも雪玉を握り、望美に投げつける。
「いたっ! やりましたねー!?」
 そのままふたりは街中で雪合戦を繰り広げるのだった。

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