見出し画像

ショートストーリー《もしたむっ!》Osamu.9:をさむとダンス

 大量発生している26人のおさむ族たちは、普段はリビングに雑魚寝している。この日の真夜中、目をさましたのは「をさむ」だった。
 をさむが眠い目をこすりながらトイレに立ったところ、修の部屋からかすかに音楽が聞こえてくる。気になったをさむは、修の部屋のドアを少し開け、その狭い隙間から中の様子をうかがい見る。
 をさむが見ているのは、修の後ろ姿。その修は、全身鏡の前で何やら体を動かしている。
「何だあいつ、妙な動きしてるな……」
 修の様子を不思議そうに見ていたをさむは、しばらく見ていてようやく気づく。
「あっ、あいつ踊ってるのか。そういえばこの曲も、今流行りのダンスの曲じゃないか」
 をさむはジッとその様子を見ている。
「……ぷっ。あいつ、ダンス下手くそなんだな」
 思わず吹き出すをさむ。あまりに奇妙な修の動きは、それがダンスであることを忘れさせるのであった。

 翌朝。修が会社に行くよう命じたのは、昨晩修の様子を覗き見していたをさむだった。修は玄関までをさむを見送りに行く。
「じゃあ、行ってくるからな」
 そう言って玄関のドアを開けようとしたをさむに近づいた修は、をさむの耳元で低く囁く。
「……昨日の夜、お前、見てただろ」
「あ? 何のことだ」
「とぼけるな。お前が俺のダンスを見て笑っていたこと、わかってんだよ」
「!?」
 目を見開き、顔をこわばらせるをさむ。
「……まあいい。お前にも『地獄』を見せてやる。覚悟するんだな」
 そう言うと、修は妖しくニヤリと笑った。
「はぁ? わけわかんねーよ。じゃあな」
 小馬鹿にしたように修を一瞥した後、をさむはバタンと大きな音を立て玄関のドアを閉める。そしてドスドスとした足取りで会社に向かった。
「くくく……『地獄』を味わえ……ハハハハハ!」
 修は、玄関先で不気味に高笑いをする。さながら、物語の悪役のようだ。それを見ていた残り25人のおさむ族たちは、気味悪そうに身を寄せ合うのだった。

 会社に到着したをさむは、同僚の茉耶から驚愕の事実を知らされる。
「はぁ!? 今日は社内発表会!?」
 社内では、多目的スペースに社員全員が集められていた。
「ちょ、修さん! 前から言うてましたよね!? 会社のみんなでそれぞれ出しものするって!」
「そ、それで、俺は……」
「忘れたとは言わせません! 私と一緒に『ダンス』するって言うたやないですか!」
「ダ、ダンス……!?」
 そしてをさむは思い出す。昨晩修が必死にダンスの練習をしていたこと。そして今朝、修が言ったあのセリフ──

『お前にも『地獄』を見せてやる』

「さっ、修さん! ウチらがトップバッターですよ!」
 茉耶の声で我に返るをさむ。
「ちょ、ちょっと待て! 俺は──」
 『まったく踊れない』。をさむのその言葉を、茉耶は遮る。
「『待て』も何もないやろ! ほら! 行きますよっ!」
 茉耶に腕を引っ張られ、全社員の前に立たされるをさむ。
「はーい! まやおさコンビ、あのドラマで話題のダンス踊りまーす!」
 右手を上げて元気にそう言う茉耶。全社員からわき上がる拍手。冷や汗が滝のように流れて止まらないをさむ。
(ちくしょう、おさむめ……! 『地獄』ってこのことだったのかっ……!)
 流れ出す音楽。その後、をさむは──文字通り『地獄』を見たのであった。

所属するムトウファームのお仕事にもっと専念するため、男鹿市へ移住したい! いただいたサポートは、移住のための費用、また、ファームの運用資金にも大切にあてさせていただきます🌱💓 サポートよろしくお願いします☆