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ショートストーリー《もしたむっ!》Osamu.1:こさむとコーヒー

 この日出勤したのは「こさむ」だった。
「あっ、修さん!」
 会社の前まで来たところで、ひとりの女性が向こうからやってくる。同僚の恵理子だ。
「おはようございます! 今日はちょっと遅めの出勤なんですね」
「おはよう。まあ、ちょっと、な」
 頭をかきながらこさむが言う。
「ふーん……。あっ、そうだ。今日のお昼休み、一緒にお茶しません? 会社の近くに新しい喫茶店ができたんですよ!」
 手をパンッと叩き、恵理子が言う。
「ああ、行くか」
「じゃ、修さんの奢りで!」
「おいおい、何でだよ」
 ゆるい会話をしながら、ふたりは喫茶店へと向かった。
 
 その日の昼休み。こさむと恵理子は会社近くの喫茶店に入った。
「えーっと、何頼もうかなぁ」
 メニューを見ながらあれこれ悩む恵理子。
「修さんはもう決まりましたか?」
 恵理子はこさむに尋ねる。
「ああ。俺はコーヒーにする」
「コーヒーもいろいろありますよ。このお店、変わったコーヒーも置いてるらしいです」
 恵理子がこさむにメニューを見せる。
「うーん、どうするかな」
 こさむは少し悩んだ後、「じゃあこれで」とメニューを指差す。
「聞いたことない名前だな。『コピ・ルアック』って」
「私も聞いたことないかも……」
「どんなコーヒーなんだろうな」
 こさむはワクワクしながらそう言った。

 こさむと恵理子の元に、コーヒーが運ばれてきた。こさむはカップを持ち、香りを嗅ぐ。
「うん……深みのあるいい香りだ」
 目を閉じてこさむが言う。そして一口。
「お……コクがあって美味いな」
「修さん、今日はずいぶんグルメっぽいこと言いますね」
「そうか? ははっ」
 こさむは上機嫌で笑いながら、美味しそうにまた一口コーヒーをすすった。
「うん、美味い」
 目を細めて飲むこさむ。頼んだ『コピ・ルアック』とは、ジャコウネコが食べて消化されずに排出されたコーヒーの実を洗ってコーヒーにしたものだと知って衝撃を受けたのはその後の話。

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