ショートストーリー《もしたむっ!》Osamu.8:ろさむと弾き語り
この日出社する「ろさむ」は、修から今日の諸注意を聞かされていた。
「今日は仕事終わりに、会社の人間で音楽好きが集まる時間が設けられる」
「ほう」
「そこで、お前にはこれを預ける」
そう言った修は、部屋の隅からアコースティックギターを取り出した。
「へー、ギターか」
ろさむが言う。
「お前は俺の分身だ。弾けるはずだろ」
修がろさむにギターを差し出す。
「ああ、弾ける」
それを受け取るろさむ。
「楽しんでこいよ」
「ああ、ありがとな」
修とろさむは目を合わせ、笑った。
そして出社したろさむは、無事終業時間を迎えた。
「はーい! じゃあ音楽好きの集い始めるわよ~! 収録スタジオに集合~!」
元気な声でそう言ったのは、ベテラン社員の美知子。
「修さん、一緒に行きましょう」
そう誘ってきたのは、葵だ。
「おう」
ろさむは持ってきたギターを持って立ち上がった。
音源などを収録するスタジオには、さまざまな楽器が置いてある。
「今日は3人ねぇ! じゃあ、いろいろ演奏しましょう! 私はいつも通り歌うわよ~」
ろさむはギター、葵はピアノの前に座り、スタンバイ。そして演奏が始まった。
いつも演奏しているのは、主に昭和の名曲。ろさむと葵は楽譜を見ずに演奏し、美知子は気持ちよさそうにのびのびと歌う。
何曲か演奏した後で、葵はろさむの視線に気づく。
「修さん、ピアノも弾きたくなりましたか?」
「ああ、ちょっとな」
「ぜひぜひ! また、ピアノとギター同時に演奏してくださいよ!」
「あっ! 私も聴きたいわ~!」
葵と美知子に促され、ろさむはギターを持ったままピアノの前に座る。
「じゃあ、一曲」
そう言うとろさむは演奏を始めた。今度は最近の曲だ。
「あら! この曲好きなのよ~!」
「美知子さん、一緒に歌いましょう!」
「そうね!」
そう言うと、葵と美知子はろさむの演奏に合わせて歌いだした。つられて、ろさむも一緒に歌を口ずさむ。
(やっぱ、音楽はいいもんだな)
歌って演奏しながら、ろさむはニコッと笑うのだった。