連載百合小説《とうこねくと!》白米の誘惑!?東子さまvs一輝お兄ちゃん(4)
《前回のあらすじ》
一輝お兄ちゃんに教えてもらいながら、東子さまと恵理子ちゃんはストレッチに挑戦。
その後「外に出るぞ」と言った一輝お兄ちゃんに、東子さまと恵理子ちゃんは「ランニングは嫌だ!」と反論。
しかし一輝お兄ちゃんは有無を言わさず、悲鳴を上げるふたりの首根っこをつかんで外へ連れ出したのでした。
「へっ?」
一輝お兄ちゃんの言葉に、私たちは間の抜けた声を上げてしまいました。
「だから……誰がランニングするなんて言ったんだよ。ウォーキングだ。ウォーキング」
腕組みをして、すっかり呆れ顔の一輝お兄ちゃん。私たちはキョトンとして顔を見合せます。
「ふたりとも運動が苦手だって言ってるのに、いきなりランニングなんてさせるかよ」
「だって……外に出るって言うから、てっきり走るものかと」
私がそう言うと、東子さまもそれに続きます。
「ええ。ダイエットといえば、みんなジョギングしてるイメージだったから……私も走らされるのかと思ってたわ」
「やれやれ……」
片手を腰を当て、もう片方の手で頭を抱えて、一輝お兄ちゃんは首を振ります。
「ウォーキングなら自分のペースでゆっくり出来るし、続けやすい。意外と効果も出るんだぞ」
「へー、そうなんだ」
「歩いて効果が出るなら、そっちの方がいいわ!」
「じゃあ、行こうか」
一輝お兄ちゃんのその言葉に私たちはうなずき、海の方まで歩き出しました。
*
「ふぅ、ふぅ……」
海が見えてきた頃、東子さまの息が少し上がってきました。
「東子さま、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫よ。心地よい疲れだわ」
「それはよかったです。一輝お兄ちゃん呼んでよかったかも。私だったら厳しくしてたから」
「恵理子ちゃん、ときおりドSだものね……」
「何か言いましたか?」
「いいえ何も!」
「ふふ、冗談ですよ。……でも、こうして一緒に気持ちよく運動できて、すごく楽しいです」
「そうね。たまにはこうやって一緒に体を動かすのもいいわね」
お話しながら歩いていると、目の前に青い海が広がってきました。
私たちの真上で輝く太陽。海の青と空の青がとても綺麗です。
「よし、休憩するか」
一輝お兄ちゃんがそう言うと、東子さまは、ふーっと長く息を吐いて海の方へ歩いていきました。私もその後について行きます。
「はぁ……なんだかいつも以上に海が綺麗に見えるわ」
大きく息をして、東子さまは言います。
体を動かし、気持ちもスッキリした状態で見る海は、確かにいつもと違って見えます。
「見てごらんなさい、恵理子ちゃん。海はこんなに広いのよ」
東子さまのその言葉に、目の前の海を見つめます。
大きく、広く、私たちを見つめ返す海。
「こんな海を見てると、私たち人間が抱える悩みなんて、ほんの小さくて大したこともないように思えるわよね」
東子さまの目は、どこか憂いを帯びていました。
私は、自分の過去を東子さまに話したことはありますが、東子さまの過去を聞いたことはありません。
私たち人間が抱える悩み──東子さまもまた、過去から抱え込んだ様々な悩みがあるのでしょうか……
「海はこんなに広いんですもの……。私がどんなにご飯を食べようと、大したことないのよ」
「はい……えっ!?」
聞き間違いでしょうか……東子さまは今、何とおっしゃいました!?
「私がいくら食べ過ぎようと、体重がちょっと増えようと、この海の広さの前にはちっぽけな事象なのよ。だから私は、どんなに白米を食べようと罪悪感に苛まれる必要はない……。この海を見て、悟ったわ」
「いやいやいや! 東子さま! 違います! 何かが根本的に違いますっ!」
「もういいのよ恵理子ちゃん。無理に運動しなくても、私はこの海のように、自然の摂理に身を任せるわ。そうやって生きていくの……」
東子さま……悟りを開いたかのような澄み切った目で、海の遠くを見つめています。
海風に吹かれて髪をかき上げるその仕草は、海辺に立つ女神のように美しいのです。
美しいのですが……言っていることはめちゃくちゃです。
「恵理子ちゃん……家に帰ったらご飯食べるわよ。たくさんお米炊いてちょうだい」
海辺の女神は、その神々しさに反して、帰宅後の白米のことしか考えていません。
遠くで私たちをあたたかい目で見つめている一輝お兄ちゃんに、ちょっと申し訳ない気持ちになってしまいました。
(ごめん、一輝お兄ちゃん……。次はもっとスパルタでお願いね)
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