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Nagaki code -four seasons- 《letter.1 Re:桜の木の下の高校教師》(2)

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 あの時と変わらない校門の前にバイクを停め、あの時と変わらない校舎の中に入る。昔は生徒として。今は郵便配達員として。
 あの時の俺は、どんな夢を持ってたっけ。本を読むのが好きだから、小説のひとつでも書いてビッグな作家になってやろうと思ってた時期もあったかな。まさか郵便配達員になるとは思わなかったけれど、子どもの頃に描いていた夢が叶わなかったからといってふて腐れている訳でもない。

 いつだって、俺は俺だ。どんな仕事をしていようと関係ない。自分を創るのは、いつだって自分自身なのだから。

 事務室の先生に郵便物を渡した後、俺は校舎を出た。空を仰げば、さっきまで日が出てたのに、雪がちらついてきた。
「……ふぅ」
 微かに白く浮かんで消える、小さなため息。風が少し冷たい。

 毎年思う。秋田の春は、近そうで遠いって。

 〒

「伊達さん」
 ふいに花村先生に呼ばれ、俺は「はいっ」と裏声で返事をした。振り向くと、花村先生はにっこり笑っていた。
「伊達さんは、何の本にしたんですか?」
「俺は……まだ考え中です」
「そうですか。ゆっくり選んでくださいね」
「はい……」
 先生が去った後、俺はちょっと俯いた。どうしてだろう。顔が熱い。

 今の授業は、自分がおすすめする本の紹介文を書くというもの。場所を図書室に移しての授業だ。
 移動教室の時間は、クラスの奴らが一際やかましくなる。教室にいる時以上に。普通だったら静かにしなければならない図書室で、どうしてこいつらは騒がしくなるのだろう。「笑ってはいけない」と言われれば笑ってしまうように、「押すな」と言われれば押してしまうように、あまのじゃく的な思考が働いてしまうのだろうか。出入口のドアに貼られた『図書室では静かに』という貼り紙の右上部分が剥げかけていて、男子生徒が走り回る度にピラピラと揺れているのが余計に虚し過ぎる。
「静かにしてくださぁい」
 花村先生の声が聞こえる。あまりにも優しすぎる声だから、注意してるようには聞こえない。それがなんか、微笑ましかったりする。
 向こう側にいる先生を見てたら、ばっちり目線が合った。俺はすぐさま目を反らして本を探すフリをした。

 やっぱり、まだ、顔が熱い。

 図書室から見える桜の木は、満開の花びらを揺らしながら微笑んでいた。


(続)
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