Nagaki code -four seasons- 《letter.1 Re:桜の木の下の高校教師》(1)
この物語は、創作小説『Nagaki code』の登場人物にスポットを当てたオムニバス小説です。
「あの人に、この想いを届けたい」
そんな思いを抱えた人々の様々な心模様を描いています。
letter.1は、本編の春パート(第16話〜第24話)に登場する郵便配達員・伊達進之助の物語です。
Nagaki code本編と併せてお楽しみください。
(本編はこちらから↓)
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俺は、春が嫌いだ。
受験生達が一喜一憂し、桜が舞い散り、出会いがあり、別れがあるこの季節が大嫌いだ。
暖かい春の日差しの中、今日も素知らぬ顔でいつもの配達ルートを走っているけれど、頭の中ではあの頃の記憶がちらつく。まだ幼くて無邪気だった、あの頃。
あれは、俺が高校に入学して何日か経ったある日の事。
〒
「それじゃあ今からプリントを配りまぁす」
間延びした花村先生の声が、騒がしい教室内に響いた。
花村雪乃先生。通称『ゆきのん』。担当教科は現国。ウェイヴのかかった長い黒髪。眼鏡をかけ、ちょっと背の高い、ぽっちゃりめの可愛い先生。ほんわか天然キャラで、癒し系な所に惹かれる生徒が大多数を占める。
プリントが渡されても、大半の生徒は全く手をつけず、近くの席の友達とくだらない話をしている。こいつら──1年B組の連中は、黙って授業を受けるということを知らない。高校生になったばかりだから、まだ中学生気分が抜けないのか。本当にガキだなと思う。
俺はというと、渡されたプリントの問題を解くフリをして余白部分に落書きをしたり、机の間を縫って巡回してまわっている花村先生を眺めたりしてた。
別に、教室になんか居なくたっていい。群れることが強さだと勘違いしているようなこんなガキ連中も、俺にとってはどうでもいい。ただ、俺は花村先生の授業だけは受けたい。ただそれだけの理由で、俺は教室の隅の席で落書きに勤しんでいるという訳だ。
落書きをしていると、突然プリント用紙に影が差す。
「……?」
不審に思って顔を上げる。
「うわっ!」
クリクリの黒い瞳を輝かせながら、花村先生は俺の落書きを覗き込んでいた。気が動転した俺は、描いていた猫のキャラクターの落書きを慌てて隠す。
「なんで隠すんですかっ」
ちょっと不服そうに、花村先生は言った。「こんなに上手なのに」
不意にそう言われ、俺は慌てて俯く。
……あれ、顔が熱い。
「私も、このキャラクター好きなんですよ」
優しいその声にもう一度顔を上げれば、教室の窓から差し込むひだまりの中、先生はふわりと笑っていた。
窓の外では、桜が舞っていた。
(続)
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