びっくり箱がびっくりする滑稽

 自分がどれだけおかしくなっても! 気づけるはずがない!

 本当の話です。

 こないだ会社の同僚に褒められたんですよ。具体的な文脈は忘れちゃったんですけど、確か「お前は気遣いができるね」という趣旨の。

 そこで彼が言ったんです。「モテるでしょ?」って。

 そこにまったく、まったく否定的な、あるいは皮肉めいたニュアンスがないことは読み取れたんですが、それを読み取る遥か前、自分にどのような音声が向けられたか理解するその手前で、脊髄からの反射が「殺すぞ」の「ぞ」までハッキリと発声してしまったんですね。

 これはもう僕にとってこそほんとうに驚きで、次に彼が驚いたと思います。人を褒めて殺されたことはきっとなさそうないい人ですから、僕がいきなり殺してきたことにびっくりしていました。カルチャーショック。

 僕だって僕にこんな文化が通底してると思わなくて、その後しばらくはずっとそのことばかり考えていました。僕は僕が知らないうちにとんでもなくコンプレックスを育てていて、それがうっかり、何も悪くない人を傷つけてしまったかもしれなくて、どうして僕は、どうして、と。

 正社員として働き始めて数ヶ月、なるべく社会あるあるな人間を取り繕ってきましたが、何事にも限界があります。皆さんも無理はしないでください。あるいは、必要に迫られたときにこそ無理ができるよう、日ごろから温存してください。僕はだめでした。

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