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読書日記『言壺』(神林長平,1994)

SFにハマってるんだ、と話したら、中学からの友人がおすすめしてくれた。友人曰く、「神林先生の作品の中では一番理解しやすく、書きたいことが明確なので初心者向け」らしい。

その後、『小説という毒を浴びる』(桜庭一樹)でもおすすめされていたので、期待値を高く読み始めた。

万能著述支援用マシン「ワーカム」を巡る9編の短編が収録されている。

「言語」と「認識している世界」の関係を描いているという点では、『1984年』(ジョージ・オーウェル)『虐殺器官』(伊藤計劃)と似ていて、SFの系譜のようなものを垣間見た気がした。

「ワーカム」とそれによって変容していく人間、という発想や描写がすごい。しかし、それ以上に、「短編一本いっぽんはあっさりしているのに、一冊の本として構成された時の凄み、厚みが短編集以上のものになる」というところがすごすぎると思った。短編同士の響き合いが計算され尽くされている、というか。完璧すぎる、というか。

私が気に入った短編は「似負文 Nioibun」「戯文 Gibun」だ。少しコミカルさもあるのに、最後は混乱させられる。

また、「乱文 Ranbun」を読んでいて、「言葉にはエネルギーがある。そして言葉の力によるエントロピーは増大していく」という発想が面白いと思った。なるほど、そう言われればそうなのかもしれない。発された言葉たちにエネルギーがあるとするなら、そのエントロピーは確かに増大するしかないし、だれかの世界を変えうるかもしれない。

とにかく、この本が面白かったので、神林作品をもう何冊か読んでみたい。




読了日:2023/1/19


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