
読書日記『たんぽるぽる』(雪舟えま,2022)
雪舟えまの歌集『たんぽるぽる』(2011年,短歌研究社)に「地球の恋人たちの朝食」(2001〜2008年,ウェブ日記)を追加したもの。
『はーはー姫が彼女の王子たちに出逢うまで』(雪舟えま,2018)は私が初めて買った歌集だったが、『たんぽるぽる』は未読だったので買った。
表紙がたんぽるぽるしていてかわいい。春になったらピクニックに連れて行こう。きっとそうしよう。
雪舟さんの短歌には、衒いのない愛が溢れてると思う。全部を包み込む日光みたいな愛。そして時々、地球を飛び出したり、地球に落ちてきたりする。こんな歌を詠めるようになりたいな、と切実に思う。
気に入った歌をメモしておく。
ジャンヌダルクのタイツの伝線のごとき流星に遭う真夜のごみ捨て
ガーゼハンカチに苺の汁しみて うん、しあわせになるために来た
えんぴつけずりにえんぴつをさして震える光わたしの教会
マスカラは青く流れて人生が美しいことしか分かれない
あなたがひとを好きになる理由はすてき森がみぞれの色に透けてく
世界じゅうのラーメンスープを泳ぎきりすりきれた龍おやすみなさい
牛たべて喉のあたりがけものくさい今夜満天の星を抱きたい
セックスをするたび水に沈む町があるんだ君はわからなくても
けものさえ踏んだことのない原野が息づいている羊羹の中
窓からの光白くて昼の風呂生まれたことが少し悲しい
うちで一番いいお茶飲んでおしっこして暖かくして面接ゆきな
山菜を分けるひろげた新聞にさがしてもないわたしの旧姓
面接へゆかず海まで六時間歩いたという その海を想う
いまよりも無力な日々をおもいだすじぶんの腕を枕にすれば
海に雨ふる共食いを見たあとで平気な顔をして会いにゆく
誰からも気づかれぬゆえ遠くまで光を放つ計画のあり
とてもよい絵を描く女ともだちを守れる長い盾になりたい
風呂あがりあなたがパジャマ着るまでの時間がのびる春なのですね
捨てられた獣は月へ泳ぎつき人は汚れるなんてできない
読了日:2023/01/28