読書日記『ベーシックインカム』(井上真偽,2019)
井上真偽2冊目。
バイトの休憩時間に読もうと思うと短編集くらいがちょうどいい。平日は小説系、土日はちょっとお堅い本という読書ルーティンができつつある。
表紙、中表紙にはトレーシングペーパーを使っていて、おしゃれ。謳い文句は「SF×ミステリ」。
もうこの時点で結構好きになっている。
ネタバレしないように配慮して感想を書こうと思うが、勘がいい人にはネタバレになってしまうかもしれない。
言の葉の子ら
完璧に適応することしかできないエレナと、完璧になれない子ども(と母親)の対比が鮮烈。
これを読みながら『タイタン』(野崎まど)を思い出した。こういう題材の小説は、(今も多いけれど)今後増えそう。
存在しないゼロ
雪山集落で孤立した一家。救助された時、妻と子は衰弱しつつも助かったが、夫は変死体として見つかったーーー。
ただのミステリだったら、すぐに解ける謎だけれども、そこにSF要素があるのでもう一歩踏み込んだ真実が露呈していく。
私は、「お父さん」なりの愛なんじゃないかなと思う。
もう一度、君と
井上さん、純愛も書けるんですね……!!!となった。最後がめちゃくちゃ好き。バ先でうるうるしちゃった。
VRと現実の違いってどこなんだろう。
辛い現実世界と幸せなVRの世界、どっちを生きるか。主人公の出した結論は、「愛だ!」って感じ。惚れる。
目に見えない愛情
盲目の女性とその父親の物語。紫外線までも感知できる人工網膜の手術の被験者に、その女性が選ばれて、というお話。
物語の途中での違和感が、最後に伏線回収されてスッキリした。
ベーシックインカム
ベーシックインカムを押し進めようとしている老教授の預金通帳が盗まれた。この事件のハウダニット・ワイダニットを解き明かしていくという話。
他の物語よりミステリ色が強い。主人公かつ事件の真相を知る者である「私」目線で進んでいくのだが、「あ、それは言っちゃダメだって!」「これは鎌かけられてるよ!」とハラハラしてしまう。
どの話も、ミステリとしての面白さがありつつ、「SF×ミステリ」としての結末もあるので、二段構えで楽しめる。ただ2要素を絡めました、で終わらないところがさすがだと思った。
「生産性」というワードが「目に見えない愛情」「ベーシックインカム」に出てきた。最近「生産性(特に再生産性)の呪縛から逃れたい」と考えているので、余計に気になったのかもしれない。
何かを生産し続け、より豊かに、より長く続くべきという「生産性の呪縛」から逃げられた時、人は人らしくいられるんじゃないのか。でも、現時点でそこからひとりで逃れるためには、それなりの資本が必要で、矛盾してしまうんじゃないのか……。というモヤりに対して、「愛」が鍵になるよって言われた気がする。『賢者の贈り物』的な教訓に近いかも。浅はかな希望かもしれないし、まだ自分のなかで整理しきれていないけど。
読了日:2022/12/02