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読書日記『雨の降る日は学校に行かない』(相沢沙呼,2014)

実写ドラマ化中の『medium』の原作者でもある相沢沙呼さんの本。私は図書館でこの本を借りたのをきっかけに相沢さんを知った。

この本を初めて手に取ったのは、中学2年生か3年生のときだった気がする。中1の時、いろいろあって、不登校→保健室登校か図書室登校、時々教室みたいなことをしていた。中2からは教室に行くようになっていたけど、学校に行きたいと思ったことはなくて。そんな時にこのタイトルを見かけたので、思わず手に取ってしまったんだろう。

この本は、6つの短編で、女子中学生の嫌なところや痛みを的確に、そして繊細に書いている。出来事の描写がリアルすぎるので、「女子中学生」に嫌な思い出がある人には閲覧注意だ。わたしは未だに胸が痛む。


ねぇ、卵の殻が付いている

保健室登校をしているサエとナツ。二人の日課は、茹で卵の白身を傷つけないで綺麗に剥けるかどうかで運試しをすること。そんな日が続くと思っていたナツだったが、ある日、サエは教室に戻ると言い出して……というお話。

「卵の殻」はサエとナツが閉じ籠っていた保健室の暗喩でもあるのかな、と思った。


好きな人のいない教室

まだ人を好きになったことがない森川なこ。隣の席の岸田くんと付き合っている、という悪意を孕んだ噂を流されて……というお話。

わたしはみんなと違うかもしれない。けれど、それのなにがいけないの? (p68)

物語の終盤、自分なりの戦い方を見つけた森川さんがかっこよすぎる。タイトルだけ見ると「失恋話?」と思うけれど、そんなに生易しくない。むしろ、森川さんは茨の道を歩んでいく。かっこいい。


死にたいノート

秘密の手帳に、嘘の遺書を書き続けている藤崎涼。ある日、その手帳を失くしてしまう。クラスメイトの河田さんが拾ってくれたものの、自分のものだとは言い出せずに、一緒に持ち主を探すことになって……というお話。

この話を読み直して、自分のコンプレックスに向き合うことになってしまった。私も、藤崎さんと同じく、聞き取りにくい声をしている(と思っている)。聞き取りにくい声が嫌いでコンプレックスだから、喋ることが苦手なんだと思っていた。

でも、違った。喋るのが苦手だから、聞き取れないと言われたくないから、無視されたくないから、自分の声が嫌いになってしまったんだ。これに気づいたからどうする、というわけでもないけど……。

「自分の声が嫌い」という部分に強く共感したから、最後のシーンで自分の言葉を伝えようとする姿が胸に刺さった。


プリーツ・カースト

スカートを短くしているエリと、校則通りに履いている真由は小学生の時は友達だった。でも、今は違う。エリはイジる側、真由はイジられる側になってしまったから……というお話。

タイトルの「プリーツ・カースト」は、スカートの短さで教室での地位がわかる、というところから来ている。わかる。大人たちにはわからないような微妙な差だけど、確実にある。

自分よりランクの低い人間にはいくらでも残酷になれてしまうのは、たぶん人間の怖い側面だ。でも、それに気づいて、違和を感じてるエリに希望がある。この本ではマイナーな「いじめる側」に所属するエリとその心情の吐露も、繊細で良いな。

放課後のピント合わせ

自分の際どい写真をネットにあげ、コメントで承認欲求を満たす堀内しおり。ある日、学校で「撮影」しているところを、写真好きだと柳先生に勘違いされる。柳先生にフィルムの一眼レフを貸し付けられて……というお話。

ひかり、を。
浴びることができないなら。
せめて、みんなが放つ光を、ファインダーで覗きたい。 (p193)

この一文で、「ダレオド」という写真集のstatement を思い出した。ひかりを集めようとすることは祈りと似ている。平和でありますように、愛が溢れますように、という祈り。最初はそのひかりを直視できなくても、集め続けたいと言えることも強さだと思う。


雨の降る日は学校に行かない

小学生の頃から引っ込み思案で、まわりの大人から「生きにくい子」と言われていた小町サエ。自分は普通の子だと証明したくて、必死に中学校に通っていたが、いじめはどんどんエスカレートして……というお話。

わたしたちは自由だ。学校だけが、わたしたちの世界ではない。
この場所は、先生が示してくれた、たくさんの選択肢の中のひとつ。 
(略)
それでも、わたしは、わたし自身と戦いたいと思った。
わたしは、わたしなんだって。
声を上げ続けたい。 (p237)

この話は、保健室の先生がとても良い大人だ。こんな大人になりたい。


まとめの感想

どうして学校に行かなくちゃいけないのか、どうしたらいじめがなくなるのか、私にもまだわからない。
でも、学校に行かなくても、休みたいだけ休んでも、生きていけるよって気楽に言える社会にしたい。「学校に行けない時期があっても、生きれたよ」って言うために、わたしは生き続ける。この小説に出てくる少女たちみんなを、そして昔の私を、救えるようになりたい。
私にできることは、微々たるものだろうけど、考え続けることを諦めないようにしたい。

自分の経験とか、想いとかを織り交ぜていたら長編感想文になってしまった。
とにかくいろんな人に読んでほしい。そして、一緒に考えてほしい。


読了日:2022/10/25

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