ごはんについて書くための習作65
2023年8月31日、晴れ、まだまだ気温も高い。友人に薦められた新潮の日記特集を読んで、日記の冒頭にその日の天気を書く人が何人かいて日記らしいなと思って真似してみる。来年以降に読む(もしくは読まれる)可能性があるなと思い、冒頭に年を追加した。
妻は先月くらいから始めたバイトでいない(不定期で近所のベトナム料理屋で働き始めた)。今月の後半、私は仕事が忙しくなかったせいか、ぼんやりとした気分が続いていたのと、何となく寝る前に見ていたNetflixの「LIGHTHOUSE」の第3話に僅かばかり感化され、この昼飯を食べるだけのテキストにも何か新しいコトを付与しようと考えた。結果、「転職したい会社員」というモードで外に出てみた。
ちなみにこの文章を書いている場所も家ではなく、iPadを持ち出してカフェでアイスコーヒーを飲みながら書いている。
外に出ると、まだまだ気温も高い。陽射しも強い。ゴミ捨て場(といっても道)にカラス避けの青いネットと片手では持てない大きさの石がいくつか並ぶ。石はネットを抑えるために誰かが用意したようだが、運用されず。道に数個の石が並んだだけになっている。
陽射しに照らされた石。「転職したい」という気持ちが早速どうでも良くなりそうになる。夏に転職を決意できる人はいるのか。店と新しい職を探す前に、日陰を進むことに気を取られる。壊れかけのアーケードの下を進む。不動産屋、電気屋、補聴器屋、ブティック。どれも働くイメージができない。人を見れば何か、と、駅の方へ向かう。まだまだ太陽の位置が高い。牛丼屋の奥行きのないテーブルに並ぶ男性の背中、観光客向けの料理屋の呼び込み、31アイスクリームのショーケースに並ぶポケモン。駅のコンコースへ。キーボードにEscキーがなくて空打ち。
隣駅にでも行こうかと思うが、改札に人が少なくて何となくやめる。家と反対側の出口へ。一度だけ行ったことのある蕎麦屋に向かう。ここで転職を諦めた。
店のガラスに当たる陽射しが強くて、店内が見えない。フリーランスになってから担当したとある施設のウェブサイトで「陽射し」と「日差し」を情景から書き分けていたコピーライターを思い出す。13時30分ラストオーダーの文字を確認。入店。店内にはすでに食べ終えられた食器を前にしたサラリーマンは4人。12時過ぎ。早い。私が「かしわ きのこ蕎麦」と伝えると、直ぐにキッチンの方を向いてオーダーを通そうとする店員の動きを止めるように「ビール」を注文。アサヒかキリンかと聞かれたのでキリンと答える。キリンビールと「Asahi」と印刷されたグラスが出される。やや不恰好。机のバランスを取るために本を出す。山内朋樹の『庭のかたちが生まれるとき』。
私の蕎麦が運ばれる前に先にいた客は誰もいなくなり、キッチンのスタッフが一人上がった。蕎麦が来たので一旦、本を閉じる。割り箸を割る。外から店内は見えなかったが、中から外はよく見える。入り口の大きな鉢に入っている植物に落ちる強い陰影。小さなボリュームでラジオ流れるだけの静かな店内。陽射しは強いが動くものが殆どない外。どちらが内で外か分からなくなりかける。働き方の方向性だけは今の形が良い気がした。