薬剤師の最強勉強システム 略して「薬勉」
第1章 はじめに
薬剤師は、継続的で幅広い勉強が必要な職業である。
勉強するべきテーマも多く、いろいろな情報の更新も頻繁である。
そこで役に立つ、オリジナルの学び方をご紹介したい。
※このコンテンツは最後まで無料で見ることができます。
お役に立ちましたら、モチベーションにつながりますので、フォロー・スキ・ワンコインの応援をお願いいたします!
まず、薬についての知識。
薬局で採用されている薬剤の知識に加え、多くの新薬を勉強しなくてはならない。
既存の薬剤についても添付文書の改訂による情報更新が行われる。
疾患についても勉強が必要である。病態、薬物治療や検査などの知識である。
さらに、2年に一度調剤報酬が改定になる。制度や法規も確認が必要だろう。
最近では、「コミュニケーション」や「EBM」も重要視されている。
では、どのように勉強すればいいのか?
実際、私の周りには勉強方法で悩んでいる薬剤師は多い。
勉強の必要性は痛感しているのに、具体的な方法がわからないのだ。
実は私もその一人だった。
そんな薬剤師に紹介したいのが、最強の勉強システム「薬勉」である。
誰でも簡単にでき、自分の実力がアップし、しかもコストがほとんどかからない勉強方法である。
このシステムの概要は次の章で説明するが、「薬勉」によるメリットは非常に大きい。
たとえば、門前の医師からは今以上に信頼され、相談が多くなるだろう。
患者さんの相談にも的確に対応でき、悩みを解決できる薬剤師として頼られるに違いない。
事実、私も患者さんからの質問や相談がかなり増えた。
しかし、最大のメリットは、あなた自身の知識の引き出しが増え、実力の向上につながることである。
では、最強の勉強システム「薬勉」の説明に移るまえに、わかりやすく読み進めるためにこのコンテンツの構成を説明する。
『第2章「薬勉」とは』
次の章では、「薬勉」の概要について説明する。とりあえず、全体像を把握したいただくのが目的である。
『第3章「薬勉」step① 勉強のテーマを設定する』
「薬勉」は3つのステップによって構成されるシステムである。そのstep①である勉強テーマの設定方法について解説する。
『第4章「薬勉」step② 勉強材料を集める』
「薬勉」のstep②である勉強材料の集め方について解説する。また、材料別に何が勉強できるかを解説する。
『第5章「薬勉」step③ 勉強する』
勉強の基本方針を説明する。また、テーマ別の勉強内容を紹介し、実際の勉強をイメージできるようにする。
『第6章 実例』
具体的な勉強テーマの実例を紹介する。また、実際に勉強した例や業務に応用した勉強テーマも紹介する。なお、コンテンツ全体のポイントをまとめたレジュメを第6章に載せているので参考にしてほしい。
第2章 「薬勉」とは
この章では「薬勉」の概要について説明する。
このシステムは3つのステップから構成されている。
step①は、あなたにとって最も優先順位が高い勉強テーマを設定すること。
step②は、そのテーマを勉強する効率のよい勉強材料を探すこと。
step③は、効果的に勉強し、あなたの知識の引き出しを増やすこと。
この3つのステップをまとめたものを以下に示す。
このコンテンツの心臓部である。
『step①勉強のテーマを設定する。』
あなたにとって最も優先順位が高い勉強テーマは、業務をていねいに見直し、気が付いたことをメモすることで設定できる。(メモするのは、疑問点、困ったこと、勉強不足だと感じたことなどである。)
メモの内容をその日のうちに見直して、勉強テーマにするかどうかを決める。
設定した勉強テーマは、専用のノートに転記して一元管理する。(専用ノートを以後、「勉強ノート」と呼ぶ)
『step②勉強材料を集める。』
テーマが決まったら、今度は身近な資料をていねいに見直す。
私の場合、勉強材料の8割以上は、身近な資料とインターネットで収集可能であった。
ポイントは、収集した資料(勉強の材料)と疑問点の解決方法を勉強ノートに記録することである。
なお、勉強した内容は、記入する必要はない。
何を見て勉強したか、何を調べたか、もっとも役に立った資料は何かを記入する。
具体的には、書籍名とページ数、論文、サイト名、TELで問い合わせたなら宛先(部署名)など。
これは、同じような疑問や勉強テーマが生じたときに、参照するためである。
この勉強ノートがあなたの知識の引き出しになるのだ。
※勉強のテーマが大きい場合
多くの勉強材料が必要なテーマや継続した勉強が必要なテーマの場合である。(たとえば、「在宅」や「がん」など)
切り取りの資料、コピーなどの多くの勉強材料が集まるため、専用ファイルを作成し、材料をストックしていく。
step③勉強する。
調剤業務に応用するための勉強のコツは、2つある。
それは、「音読」と「勉強したことを説明してみること」である。
大切なポイントは音読する。
勉強した内容は、実際に声に出して説明してみよう。
アウトプットを前提にした勉強をすることで、理解は各段に深まる。
実際に説明することで、わかりやすい説明の練習になるとともに、その内容の記憶は強化されるのである。
以上が、「薬勉」の概要である。
あなたはどのような印象を持たれただろうか?
「こんなことで、本当に実力がアップするの?」
「なんだ、これ普通の業務をメモしろってことじゃん!」
と思われた方もいるだろう。
そういう方のために、もう少しだけ詳しく説明させてほしい。
何をすればよいのか悩み続ける「勉強のラビリンス」から脱出できるのだから。
第3章 「薬勉」step① 勉強のテーマを設定する
薬剤師の勉強が難しい最大の理由は、勉強するテーマが多いことである。
ならば、勉強のテーマに優先順位をつければよいのだが、これが非常に難しい。
つまり薬剤師の勉強は、勉強のテーマさえ適切に決まれば、問題の半分以上解決したのも同然なのだ。
「薬勉」のstep①では、「勉強のテーマを設定する」方法を紹介する。
step①勉強のテーマを設定する。
あなたにとって最も優先順位が高い勉強テーマは、業務をていねいに見直し、気が付いたことをメモすることで設定できる。
(メモするのは、疑問点、困ったこと、勉強不足だと感じたことなどである。)
メモの内容をその日のうちに見直して、勉強テーマにするかどうかを決める。
設定した勉強テーマは、専用のノートに転記して一元管理する。(専用ノートを以後、「勉強ノート」と呼ぶ)
このステップで重要なのは、「業務をていねいに見直すこと」と「メモをすること」である。この2点を詳しく解説する。
「業務をていねいに見直すこと」
業務を見直すとは、「現在の状況を正確に把握する」ということである。
言い換えると「己を知る」といってもよいだろう。
毎日、働いているのに、何をいまさらと思われるかもしれない。
しかし、ていねいに見直すと自分が理解していないことや疑問に感じたことが次々とみつかるものである。
それらは、今現在、業務に直結するのに、あなたに不足している知識なのだ。
まさに勉強するべきテーマの原石である。
それでは、具体的な業務の見直し方のコツ4点を紹介する。
①レセコンをみる
レセコンのデータから気づくことは非常に多い。
基本的には2点である。
・どのような薬が多くでているか?
どのような薬を勉強しなければいけないか?処方頻度が高い薬は、間違いなく優先順位が高い。
なぜなら、患者さんへ説明する機会が多く、患者さんからの質問をいただく可能性も高いからである。
まず、処方頻度が高い薬を見て、勉強不足の薬がないかを確認することが一番である。
・どのような疾患が多いのか?
これは、多く処方される薬と採用されている同種同効薬の種類が多い領域を確認することで推測できる。
基本的には、患者さんが多い疾患と門前の医師の専門領域の疾患については勉強するべきだろう。
また、薬そのものの理解の他に、採用されている薬剤の種類が多い場合は、薬の違いや使い分けについての理解が必要である。
そして、もっとも重要なのは、その疾患についての勉強である。
②患者さんからの質問・相談
患者さんからの質問・相談は、勉強テーマの宝庫である。
ある患者さんからいただいた質問は、他の患者さんも疑問に思っている確率が高い。
いろいろな患者さんから同じ質問や相談をいただいたときには、キチンと勉強し標準解答を用意するべきである。
③医師(医療従事者)からの質問・相談
基本的には、患者さんからの質問・相談と同様である。
ちなみに私は、「薬勉」を始める前は、医師からの相談されたことを記録していなかった。
勉強のテーマとして残しておけばよかったと後悔している。
④日常の業務における気づき
日常業務の中で、いろいろと気づくことがある。これを取り逃がさないようにする。
アイデアや疑問などであるが、もっとも大切なのは、あなたがわからなかったことである。
思いついたときに、メモをしておく。
このようにていねいに業務を見直すことで、勉強が必要なテーマである薬、疾患、質問、相談、疑問などを捕まえることができる。
「メモする」
業務を見直す。人から相談されたことを記録する。または、疑問に感じたことや自分の理解不足だと感じたことを見つける。
そのときに忘れずにメモする。勉強テーマの原石を忘れないようにするためである。
重要なのは、いつでもメモできる状態であること。
この条件を満たすのであれば、メモは何でもよい。
ちなみに私は、コピーやプリントアウトの失敗したA4の紙を使用している。
業務中なので、ゆっくりていねいにメモできるケースは少ないだろう。そこで、走り書き用の紙なのである。
急いでメモする場合は、キーワードだけでもよい。
このメモの内容は、その日にうちに勉強のテーマにするかどうかを決める。
人からの質問・相談、自分がわからなかったことは、原則、勉強テーマ確定である。
テーマに設定した場合は、勉強ノート(専用ノート)に転記する。
ちなみに、解決済のテーマも記録しておく。
このノートは、勉強のテーマを一冊で管理するためのものである。
くれぐれも、この作業はメモしたその日のうちにしておく。
「勉強ノートの記入例」
勉強ノートには、「テーマ」と「勉強材料・解決方法」の2つを記入する。
どちらの項目も後日、追加記入できるように十分な余白をとっておく。
「解決方法」の記入では、勉強材料の資料名や出典を正確に記入する。
たとえば、「今日の治療薬」を使った場合、何年度版かとページを記入する。
調べた内容については、記入する必要はない。
もしも、同じ内容の質問や相談を受けた場合、前回の日付の下に今回の日付を記入する。
要は、何回質問や相談を受けたかを記録するのである。
勉強のテーマによっては多くの資料が必要な場合もある。
そのようなケースでは、「勉強材料・解決方法」にすべての資料を記入するのではなく「ファイル」とだけ記入する。
実際にファイルを作成し、そこに資料をドンドン入れていく。
ちなみにファイルは、なんでもよいが、大きさはA4が入るもので統一しておくこと。
記事を新聞や雑誌から切り取る場合、日付・出典がわかるように付箋に書いておく。
※私は、製薬企業が添付文章改訂で送付する封筒をファイルに再利用している。
(資料がインターネット上のサイトやダウンロードしたPDFのような場合は、サイト名やPDFファイル名を記入したメモを入れておく。)
※少し、特殊な勉強テーマについて
たとえば、「睡眠導入剤の特徴をまとめたい」の場合。
その場合は、「勉強材料・解決方法」には「睡眠導入剤一覧作成」と記入する。
資料作成に使用した資料(添付文書、インタビューフォーム等)は、必ず「出典」として記録する。
PCのファイル名や手作り資料の名前を同じにしておこう。(資料名とファイル名が異なると、探すときに混乱するからである。)
勉強ノートの余白に自分のルールで、いろいろなことを記入してもよい。
たとえば、季節毎に勉強すべき内容もあるだろう。インフルエンザ、スギ花粉症、熱中症、医療費控除など
この場合には、勉強や復習をする時期をノートとカレンダー等に記入しておく。
さらに、更新が必要な場合には、文字の色を変えて『更新』と書いておく。
こうすることで、勉強の計画にも役に立つ。
勉強ノートのメリットは非常に多い。
①日々の勉強内容を記録していくこと自体が契機となり、勉強のモチベーションや集中力が格段に上がる。
②質問・相談の回数もトレースできるので、重要度が高い内容が明確になる。
③解決方法が記入されているため、2回目以降同じテーマが発生したとき、迅速かつ正確に対応できる。
④自分が集めるべきテーマが明確なため、いろいろな情報が入手しやすい。
⑤季節や周期毎に出てくる質問や相談がわかり、復習や準備が容易である。
勉強ノートに書かれているテーマは、業務に直結しており、かつ必要なことが確定した内容である。
簡単な質問・相談でも、さらによい答えが見つかれば、追加で記入する。
頻繁に質問を受けるテーマなら、続けて資料や解決策を探し、さらに優れた材料が見つかったら更新する。
以上が『「薬勉」step① 勉強のテーマを設定する』方法である。
日常業務の中に、非常にたくさんの勉強のヒントがあることを理解いただけたと思う。
設定された勉強テーマは、原則、業務の中から生まれている。
これは、今後もその知識が必要になる可能性があるということだ。
優先順位が高い勉強テーマと考えてよいだろう。
第4章 「薬勉」step② 勉強材料を集める
いきなり、セコイ話で恐縮だが、医療関係の書籍は高い。
もちろん必要なものに関しては躊躇なく購入するべきだが、まず、身近にある資料の活用を考えるのが正解だ。
「薬勉」step②では、何を使って勉強するかを解説する。
step②勉強材料を集める。
テーマが決まったら、今度は身近な資料をていねいに見直す。
私の場合、勉強材料の8割以上は、身近な資料とインターネットで収集可能であった。
ポイントは、収集した勉強材料と疑問点の解決方法は勉強ノートに記録することである。
なお、勉強した内容は記入する必要はない。
何を見て勉強したか、何を調べたか、もっとも役に立った資料は何かを記入する。
具体的には、書籍名とページ数、論文、サイト名、TELで問い合わせたなら宛先(部署名)など。
これは、同じような疑問や勉強テーマが生じたときに、参照するためである。
この勉強ノートがあなたの知識の引き出しになるのだ。
「勉強材料」
勉強材料を探すうえで重要なのは、「使える材料」を見つけることである。
多くのテーマで頻繁に使われる材料は利用価値が高い。
つまり、どんな資料でどんなことが勉強できるかを知ることが、材料集めの第一歩なのである。
ちなみに、私が患者さんからいただいた質問のほとんどは、身近な資料で解決できるものであった。
その身近な勉強材料について紹介する。
ここで紹介する勉強材料は、ほとんどが無料で入手できる。
「薬勉」は、財布にやさしい勉強方法なのである。
この章で紹介する勉強材料一覧
・添付文書
・インタビューフォーム
・医薬学関連の文献
・医薬関連雑誌
・ガイドライン
・講演会、研究会
・本
・MR(勉強材料提供者として)
・添付文書
詳細な説明は必要ないだろう。
もっとも身近にある勉強材料であり、薬の基本事項について記載されている勉強材料である。
頭に叩き込んでほしいのは、この文章は唯一の法的根拠のある医薬品情報であるということ。
訴訟、裁判になったときの判断材料になると考えればよい。
つまり、疑義照会の根拠になるという意味である。
ここでは、チェックしておきたい項目を挙げておく。
日常業務で、これまでに質問、相談、疑問の解答としてチェックした項目である。
復習のつもりでお読みいただきたい。
①貯法
薬局内のストックはもちろん、患者さんに保管方法を説明するときに必要な情報。
「凍結を避け~」「開封後~」に注意する。
②警告、禁忌
もっとも重要な項目である。熟読し、頭に入れておく。
③効能又は効果
剤型や服用量によって効能・効果が異なる薬に注意する。
④用法及び用量
③と重複するが効能・効果ごとに、用法・用量が設定されているケースに注意する。
「適宜増減」の有無を確認しておく。処方監査の大切なポイントになる。
ややこしいのは、「適宜増量」「適宜減量」の薬があること。
上記に関連して、高齢者、小児、腎障害・肝障害の患者さんへの用量設定も重要である。
⑤副作用
後発品の添付文書には、副作用の発生頻度が記載されていないことは注意すべき点である。
なぜなら、副作用を患者さんに説明する場合は、頻度の高い副作用(もしくは薬理作用に基づく副作用)を優先するからである。
必ず、先発品の副作用の項目を確認すること。
⑥相互作用
「併用禁忌」については、熟読し、頭に入れておく。
⑦薬物動態
薬剤師がもっとも活躍できる項目である。
この項目から読み取れる情報は多く、少し応用できればいろいろな質問や相談にも対応できる。
添付文書の書き方によって異なるが、以下の項目などが読み取れる。
これらは、いろいろな質問や相談に対応できる項目である。
・組織移行性(分布容積)
・効果発現時間
・作用持続時間
・定常状態になるまでの時間
・薬の増量、併用の注意点
※添付文書によっては、薬物動態の各指標が記載されていない場合がある。(発売が古い薬剤と後発品の一部)
その場合には、インタビューフォームを確認してみよう。
⑧臨床成績
ここでもっとも重要なのは、「何を改善したか?」である。
降圧剤であれば、「血圧」、糖尿病薬であれば「血糖値」である。
これは、患者さんへ薬の説明をする際、非常に重要である。
ほとんどの薬の臨床成績の指標はわかりやすいのだが、新薬の一部で難しいものがある。
この場合は、必ず調べておき、患者さんへわかりやすく説明する工夫もしておくこと。
※副作用の項目と重なるが、後発品では臨床成績の記載はない。
臨床試験を実施していないので当然であるが、後発品のみの採用の場合は、先発品の添付文書を確認しておく必要がある。
・インタビューフォーム(以下、IFと略す)
添付文書は紙面の制約があるため、必要最小限の基本情報しか記載されていない。
そのため、その薬の詳細な情報がすべてわかる訳ではない。
それを補完する資料がIFである。
薬に関する問い合わせや質問については、添付文書とIFでほとんど解決するだろう。
勉強材料としてIFを考えた時、もっとも有用性が高いのは新薬を勉強する場合である。
特にこれまでになかった新しい作用の薬の場合は必須である。
仮にこのような新薬を採用する場合、どのポイントを勉強するかを紹介する。
①開発の経緯
この項目はこれまでにない作用の薬の場合(または該当する疾患に効能をもつ初めての薬の場合)は、大変役に立つことが多い。
この疾患の定義や症状、有病率、これまでの薬物療法も書かれていることが多く、短い文で概要が頭に入るからだ。
また、これまでにない薬理作用の場合は、その説明もされている。
②製剤の各種条件下における安定性
一包化や粉砕などの可否を推測する項目である。
ただし、最終判断の前に、念のために企業に連絡し、確認をとっておく。
インタビューフォームにPTP包装から取り出して調剤していいかどうかが、記入してある場合もあるので確認する。
※一包化の判断のひとつとして、錠剤やカプセルにバラ包装があるかどうかをみる方法がある。
もちろん、バラ包装があればOKである。
③効能又は効果
新薬の場合、対象の疾患の診断基準がかかれていることが多い。
④用法及び用量
この薬の吸収・効果が食事の影響を受けるかどうかを確認する。
投与期間について縛りがあるかどうかをチェックする。
⑤探索的試験:用量反応探索試験または用量反応試験
前期第Ⅱ相臨床試験(臨床推奨用量を探る試験である。)
この試験では、いろいろな用量を試しているので、適宜増減が可能な薬剤の場合は、服用量の変化にともなう有効性と安全性をみることができる。
特に最大の用量の安全性の結果は、用法を間違えて多量に服用した場合の対応の参考になる。
⑥第Ⅲ相臨床試験
対象薬との比較試験の場合、対象薬と比較してどの程度の効果があったかを確認する。
つまり、どんな症状や検査値がどのように改善するのかを患者さんにわかりやすく説明できるようにしておくのである。
新薬の場合、効果の指標がわからない場合があるが、これは必ず調べておく。
⑦排泄
肝代謝型か腎排泄型かを確認する。
肝障害または腎障害の患者さんへの服用に制限があるかどうかも併せて確認する。
⑧重要な基本的注意とその理由及び処置方法
同系統の薬に共通の基本的な注意事項である。
(たとえば、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬なら、心血管系、呼吸器系、中枢神経系において作用の増強の可能性があるなど。)
問題は、すべて同じなのかどうかである。
つまり、その薬特有の注意事項があるかないかを確認する。
⑨同一成分、同効薬
まったく新しい新薬の場合は、同一成分の薬はないが、同効薬は確認しておく。
これは、切り替えられる薬や併用の可能性のある薬を把握するためである。
⑩投薬期間制限医薬品に関する情報
新製品の場合は、使用制限期間を確認する。
連休、年末年始、海外渡航の際、注意する薬剤としてわかるようにしておく。
また、反対に制限解除のときもわかるようにしておくと在庫の管理などがスムーズである。
(急に処方が倍増されて、在庫が不足することがないようにという意味である。)
・医薬学関連の文献
これは、医薬関連雑誌等に掲載される研究レポートのことである。
これらの情報は、比較的大きな勉強テーマの材料を探す場合には、大変有用性が高い情報源である。
たとえば、「調剤薬局のお薬手帳の活用」について、調べるときである。
また、ある薬のデータの元の報告を調べたいときに入手するべき情報である。
重要な添付文章の改訂についても、根拠の報告は読んでおきたい。
(添付文書の改訂は、医師や患者さんに説明するケースもあるため。)
私は、主として2種類の情報源を活用にしている。
1つ目は、ネットの「JSTAGE」(無料だが一部の雑誌が有料)である。
キーワードで検索できるため、自分の勉強テーマに沿って情報を探すことができる。
2つ目は、製薬企業のMRである。
薬のデータの根拠となる論文や重要な使用上の注意の改訂があった場合の根拠の提供をお願いしている。
(もちろん、新薬の臨床試験報告をお願いする場合もある。)
特に、同種同効薬が一斉に同じ添付文書の改訂をする場合である。
たとえば、抗うつ薬に若年成人における自殺傾向リスクの警告を表示するようFDAが指示した問題で、日本で発売されている抗うつ薬すべての添付文書が改訂になった。このようなケースでは、改訂の詳しい内容は大切な勉強のテーマである。
内容によっては、薬剤の対応を門前の医師と相談するケースもある。
この場合は、根拠の文献は必ず押さえておきたい。
自分の薬局を担当しているMRの方へお願いしてみよう。
・医薬関連雑誌
薬剤師会の入会状況にもよるが、数種類の薬学関連雑誌があなたの薬局にも届いているはずだ。
製薬メーカーの薬局向け資料も定期的に送付されているかもしれない。
これらの雑誌についても、参考になる記事が多い。
特に特集記事の内容は、確認しておこう。
「日経DI」「クレデンシャル」「ファーマトリビューン」など
→疾患の特集
通常、病態、診断、標準治療がコンパクトな量にまとめられている。
雑誌の記事なので情報量は数ページであるが、逆に概要を短時間で勉強する場合には適した情報である。
自分が理解不十分だと思った疾患であれば、切り抜いてストックしておく。
持ち運べる情報なので、隙間時間の勉強に適している。
本格的に勉強するなら後述する「ガイドライン」が適している。
→話題の新薬の解説
大型の新薬、または、話題の薬などが発売されると、関連記事が載る。
このときに、領域で使用される薬や治療方針なども特集されることがある。
これがねらい目である。
新薬の勉強を機に、その分野の薬の情報をまとめるのである。
あなたの薬局で使われているその分野の薬剤を整理するチャンスである。
→現在のトレンドを勉強する。
雑誌では、薬剤師にとって重要なテーマが特集される。
井の中の蛙にならないように、現在のトレンドを把握しておく。
「在宅」「後発品」などは、高頻度で特集されている。
特集をチェックするだけで、薬剤師や薬局によって大切なキーワードがわかる。
自分の薬局の現状や方向性を考え、自分自身の勉強テーマとして活用する。
「日本薬剤師会雑誌」
あなたの薬局が日本薬剤師会に入会している薬局なら、この雑誌が届く。
この雑誌の最後に掲載されている「日薬医薬品情報」が重要である。
特に「副作用」の解説については、副作用の症状、頻度、発生メカニズム、薬剤師として注意すべき点がまとめられており、一級の資料である。
激しくオススメする。
・疾患ガイドライン
特定の疾患を勉強する場合には、必要かつ十分な内容の勉強材料である。
専門医つまり学会が病態、診断、治療についてEBMに基づきまとめたものなので、もっとも信頼性の高い情報が学べる。
処方が多い疾患や門前のDRの専門に関する疾患は、この素材で勉強するべきだろう。
ガイドラインについては、ネットである程度入手可能である。
(ガイドラインがまとめてあるサイトもあるが、学会が掲載している場合がある。)
・講演会、研究会あなたの薬局が大都市にあるのなら、毎月のように講演会や研究会が開催されているだろう。
自分で勉強したいテーマの講演会があれば積極的に参加すべきである。
一流の専門医が2時間ほどで講義してくれるのだ。
しかも、製薬企業主催の場合はほとんど無料である。
私の場合は、内容と講師を選び、年に6~8回ほど参加していた。
※講演会・研究会に関してとっておきの裏技を紹介しよう。
それは、門前の医師と同じ集会に出席することである。
大切なことは、会終了後、必ず先生とディスカッションすることである。
例えば、未採用の薬の使い方が紹介されていた場合は、その薬を使用する意志があるかどうか確認する。
もし、医師がその薬を使うのなら、採用・取り寄せの打ち合わせをする。
医師の治療に関する考え方(治療の対象など)も聞けるので、その薬の規格や発注量もその場で解決できる。
また、処方する目的や病態がかなり明確なので、服薬指導もやりやすい。
医師にとっても打ち合わせ済みのため、安心して処方できよう。
まさに一石をもって二鳥を落とすのである。
この裏技を実行するためには、医師の参加情報を教えてもらうために、日頃からMRとの関係性をよくしておかないといけない。
・本
勉強のテーマによっては、書籍の購入が必要な場合があるだろう。
あなたが「わかりやすいテキスト」を入手したいと考えていた場合におすすめのコーナーがある。
(特に特定分野の病態・治療について体系的に知りたいとき)
規模の大きな書店の看護師向けコーナーに行くのである。
医師向けコーナーにもわかりやすい本はあるだろう。
しかし、看護師向けのコーナーの方が読みやすい本に出合う確率が高いのである。
看護師は、医療に関する業務をほとんどカバーしているため種類も多い。
特に入門編、初めてのテーマを系統だてて勉強する場合は、一度は看護師向けコーナーを見てほしい。
・MR(製薬企業)
MRは勉強材料ではない。勉強材料提供者として理解いただきたい。
講演会、研究会のところでも申し上げたが、MRと関係性を良くしておくと、メリットが高い。
ここでいうメリットとは、もちろんサービス品や手土産のことではない。
採用されている薬の情報のことである。
新薬データでも紹介したが、今回は別の勉強テーマの話である。
メーカーは、強い分野がある。会社が力を入れて、伸ばした領域がある。
メーカーの屋台骨になっている薬が使われている分野、大型新薬が発売された領域がそれである。
その領域については、非常に多くの情報を持っている。
ベストセラーになった薬に関しては、臨床のデータはもちろん、マニアックな質問に対応できる情報もある。
彼らは、医療機関からの相談・質問に対する回答を蓄積しているからである。
これらは、MRからの情報伝達にとどまらず、会社のサイトで発信されている場合も多い。
その会社の強い分野はサイトをていねいに見れば、簡単にわかる。
サイトの閲覧が会員登録制の会社も一部あるが、学会情報や専門医によるレクチャー、薬剤師向けの情報など非常に有用である。
勉強のテーマが疾患、領域ならば、見てみるとよい。
※MRと良好な関係性を築くコツは、2つある。
「MRに役立つ情報を提供する。」と「その会社の製剤の問題点や改善点を提案する。」
(当然のことだが、患者さんの個人情報や競合している他社のことをベラベラ話すのは厳禁である。)
世の中は、ギブ&テイクが基本である。
以上が「薬勉」step②勉強材料を集めることに関する解説である。
どの材料でどのような勉強ができるのかを、ある程度イメージしていただけたのではないだろうか?
第5章 「薬勉」step③ 勉強する
前章では、各種の勉強材料について紹介した。
「薬勉」step③では、勉強そのものについて考察する。
step③勉強する。
調剤業務に応用するための勉強のコツは、2つある。
それは、「音読」と「勉強したことを説明してみること」である。
大切なポイントは音読する。
勉強した内容は、実際に声に出して説明してみよう。
アウトプットを前提にした勉強をすることで、理解は各段に深まる。
実際に説明することで、わかりやすい説明の練習になるとともに、その内容の記憶は強化されるのである。
「ステップ③の基本方針」
最初に、どのような勉強テーマにも共通する基本方針を説明する。
それは、「音読」と「勉強したことを説明してみること」である。
あなたは、勉強の内容をきれいにノートにまとめるタイプだろうか?
「薬勉」では、テーマと材料はノートに記録するが、勉強内容は原則としてノートにまとめる必要はない。
そのかわり、大事な部分は「音読」をしてほしい。
勉強の際、声に出してテキストを読むことは、記憶に残りやすいからだ。
「音読」の重要性は、多くの勉強本、科学者により支持されている。
「夢をかなえる勉強法」伊藤 真著(サンマーク出版)では、いろいろな勉強の工夫が紹介されている。
その中で「セルフレクチャー」という方法がある。(P.65)
これは、勉強した内容を自分で自分に講義する方法で、著者が主宰する塾においても実践をすすめている。
人にレクチャーするには、その事柄が理解できていなければならない。
自分がわかっていなければ、人にわかりやすく整理して伝えることなどできないからだ。
特に、患者さんや医師からの質問・相談の場合には、何回も説明の練習をする。
この実践は、記憶力の強化はもちろんだが、わかりやすく説明するという点でも練習になるのである。
アウトプットの重要性も「音読」と同じように、効率的な勉強方法として確立されている。
以上の2点が、勉強の基本方針である。
大事なのは、声に出して読むこと、実際に説明してみることなのである。
「勉強する」
勉強するべきテーマが決まる。
勉強材料を集める。
ここまでは、この2つの流れを説明してきたのだが、いまひとつ具体的なイメージが浮かばない人もいるかもしれない。
そのためにテーマから勉強の実際をいくつか説明したい。
・薬について勉強する場合
添付文書で基本事項、インタビューフォーム(以後、IFと略す)で細かい内容を勉強するのが基本。
これらの材料は、必要な部分だけを読む。
(IFで読み方の一例を紹介したが、非常に少ない量である。)
では、必要な部分とはどこか?
それは、これまでに業務で調べた項目である。
「薬勉」step②勉強材料を集めるところで、添付文書の説明をしたが、勉強するのは同じ項目である。
調剤上確認したこと、医師からの質問、患者さんからの相談などで確認した項目を選ぶのである。
この項目を「探し読む」のである。
言い換えると「質問・相談想定読み」あるいは「業務上必要項目読み」である。
これを実行するためには、普段の質問・相談をトレースしておかなくてはならない。
そこで、勉強ノートが活きてくる。
チェックする項目は、薬や領域によって多少異なる。
まずは、添付文書とIFに何が書いてあるかを把握することが第一歩である。
この2つは、どれも同じ形式で作られているため、薬や会社を選ばない。
この第一歩は、疑問が生じた場合にどこを見れば解決するかという勉強にもなっている。
新しい薬理作用の新薬の場合は、添付文書とIFに加えて「使用上の注意の解説」も読んでおく。
また、新薬の副作用を確認する場合には「同じような症状の別の言葉」に注意する。
「眠気」と「ふらつき」、「だるさ」と「倦怠感」、「下痢」と「軟便」など
このような表現がある薬は、特定の副作用の発生頻度よりも多く発生する可能性がある。
新薬の場合は、副作用の種類ごとに頻度が示されている。
臨床試験の結果をそのまま掲載しているのだ。もちろん、副作用の発生は非常に厳格に行われている。
したがって、ある症状の発生頻度は信用してもよい。
問題は、医師により言葉や表現が異なる場合がでてきてしまうことだ。
同じような症状でも、A医師は「だるさ」と判定し、B医師は「倦怠感」と判定することである。
同じような内容の副作用は併せて考えるべきである。
新薬によっては、医薬雑誌で特集されることが多いので、こちらも参考にする。
特に薬局薬剤師向けの記事の場合、「服薬指導の注意点」や「薬理作用を示した図・イラスト」が掲載されることが多い。
自分の知識の復習や患者さんへの説明を考える材料になる。
・薬物治療について勉強する場合
領域別の医薬品集と疾患ガイドラインの薬物治療の項目が役に立つだろう。
記述の形式はガイドラインによって異なるが、薬のポジショニングが整理されて記載されている。
使用薬剤の優先順位、薬剤を併用する場合の方法、症状別の使用薬剤などがまとめられている。
この情報を整理することは、すなわち「薬物治療」を理解することでもある。
ある薬で問題が発生し薬の変更を行う場合は、まずは変更する薬が主治医の薬物治療戦略に沿っている薬かどうかが前提になる。
医師と薬の選択を相談する際には、必須の資料になることは、言うまでもない。
※疾患ガイドラインについては、「薬勉」step②勉強材料を集めるの中で紹介している。
・調剤報酬改定について勉強する場合
ご存じ、2年に一度、頭を悩ます問題である。
勉強する時期は実施の前後に限定されるものの、薬局の方針を決めなければならないため、かなりシビアである。
まず、事前に製薬メーカーや代理店から、いろいろ情報が提供されるので、大まかな流れや目玉の改定点はつかんでおく。
改定が公示されたら、厚生労働省の下記に紹介する資料を確認してほしい。
(ちなみに平成26年度は、3月5日公示であった。)
まず、厚生労働省の「診療報酬関連情報」にアクセスする。
厚生労働省
ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 健康・医療 > 医療保険 > 診療報酬関連情報
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/newpage_21053.html
「診療報酬関連情報」のページの「診療報酬改定・薬価改定」の中から「令和〇年度診療報酬・薬価改定」を選び、クリックする。
すると、「令和〇年度診療報酬改定について」のページが展開するのでスクロールしていくと、
「紹介先」「第1 令和〇年度診療報酬改定に係る経緯」「第2 改定の概要」と項目が続き、「第3 法令等」という表が展開される。この表の「(2)-3診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)」という項目の一番右手のボックスにある「別添3(調剤点数表)PDF・様式(調剤)PDF」というファイルである。
*令和2年度の診療報酬改定の該当ページを提示しておく。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00027.html
令和○年度診療報酬改定について>第3 関係法令等>(2)-3診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)>別添3(調剤点数表)PDF・様式(調剤)PDF
紹介した資料は、調剤報酬の各点数はもちろん、算定における考え方が全項目まとめられている。
熟読し、改定された部分にマーキングする。
この勉強方法のよいところは、改定された部分以外の勉強もできる点である。
つまり、調剤報酬について体系的に復習できるのである。
この後、解釈や運用で疑問が多い部分について、「疑義解釈資料の送付」が行われる。
これは、解釈がわかりにくい箇所や質問が多い項目をQ&A方式で解説してある資料であり、非常に重要である。
通常、複数回(年度によって異なるが、3回程度)発信されるので、注意する。
もちろん、医科の改定部分についても同じように発信されるので、調剤に関連する部分はチェックしておこう。
・大きなテーマを勉強する場合
大きなテーマを勉強する場合は、ファイルを作成するのが正解である。
論文、新聞・雑誌の切り抜きなどを探し、必要な資料をどんどんファイルに入れていく。
ネットでよい資料を見つけた場合は、とりあえずデータを保存する。
そして、その資料の表紙のみプリントアウトするか、URLをメモしてファイルに入れておく。
これは、勉強資材の一元化のためである。すべての資料を確認できるようにそろえておくのである。
たとえば、「在宅」を勉強しようとすれば、驚くほどの勉強材料があつまるだろう。
薬剤師会関連のガイドブックやマニュアル、医薬関連雑誌の特集記事はもちろんだが、ネットでも大量の情報が入手可能である。
ある程度の情報が集まった後にあなたがやるべきことは、「整理」である。
在宅の資料をさらに分類してファイリングするのである。
この先、ファイリングがしてあるかないかで大きく資料の価値は変わってくる。
まず、分類してあれば、必要なテーマが探しやすい。つまり、勉強しやすいし、調べやすい。
また、「在宅」はテーマが大きいので、さらに勉強材料を入手する必要があるテーマが判別しやすい。
大きなテーマの場合、入手した勉強材料は「整理」をすることを忘れないでほしい。
以上で「薬勉」step①から③をすべて解説した。
あなたの頭の中には、具体的な勉強のテーマが患者さんの顔や薬のPTPシートとともに、浮かんでいるはずだ。
ここまでの内容ついては、第6章にレジュメを掲載している。是非、参考にしてほしい。
次の第6章では、テーマの設定やリアルな勉強の実例を紹介する。
すべて、実際に私が経験したことである。
ていねいに観る、ていねいに探す、そして、記録する。
たったこれだけのことで、明日から勉強するテーマでいっぱいになるだろう。
勉強する材料が多いことにも驚くに違いない。
そして、業務の時間を短く感じるようになる。
なぜなら、このシステムは本日只今の業務に全力で取り組むことに他ならないからだ。
最後にもう一つ、気づくだろう。
患者さんと医師から信頼されているあなた自身に。
第6章 実例
最初にレジュメを掲載する。
ここでは、実際の勉強テーマやリアルな勉強について紹介する。
自分の不勉強を公開するので非常に恥ずかしいのだが、是非、参考にしてほしい。
「薬勉」step①勉強のテーマを設定するの具体例
「便秘薬」
私が勤務していた薬局は、内科(消化器)のCLの門前である。
高齢者の患者さんが多く、生活習慣病が疾患割合の多くを占めている。
高血圧症、糖尿病、高脂質血症の治療薬の処方頻度が高いので、重要なテーマはこれぐらいだと思っていた。
確かにこの領域の薬は種類も量も多く、新製品もドンドン採用されている。
しかし、日頃の業務をていねいに見直してみると、自分がわかっていない事実がでてきた。
それは、「便秘薬」である。
よく調べると量もガンガンに出ている。
しかも、ほとんどは2種類以上で処方されている。採用品目も多い。
よく考えてみると消化器内科の門前なので、当たり前のことなのだが、先入観でみえなかったのだ。
その時に初めて意識したのだが、確かに患者からの質問・相談も多かった。
先入観にとらわれずに見直すことの大切さを再認識した実例である。
「高血圧症」&「降圧剤」
血圧の薬に関しては、患者さんは多いのだが、勉強の必要性は感じていなかった。
ある日、患者さんからいただいた質問や医薬品集をていねいに見直してみた。
レセコンで調べると、ダントツで処方量が多い領域だったからだ。
すると、自分が理解不足である点がわんさか出てきた。
恥を忍んで、私が「高血圧」について疑問に思ったテーマを挙げてみると、
・利尿剤の種類の違いは?また、その使い分けはどのようにするのか?
・抗アルドステロン剤を患者さんにわかりやすく説明できるか?
・ARBと直接的レニン阻害剤との臨床的な違いは?
・降圧剤の処方の優先順位は?
・家庭血圧の正しい測定方法は?
・家庭血圧をはかる血圧計はどこのメーカーがいいのか?
・β-ブロッカーを患者さんにわかりやすく説明できるか?
・同種同効薬で有効成分量が違うことを患者さんにわかりやすい説明ができるか?
例:カンデサルタンシレキセチル8㎎とバルサルタン80㎎へ変更になった場合
「多く患者さんからいただく同じ質問」
たとえば、いわゆる風邪の薬で「症状がよくなったら、飲むのをやめていいですか?」というもの。
このような何回も質問をいただくテーマは、キチンと勉強し標準解答を用意しておく必要があるだろう。
「先回りして解決しておくテーマ」
一包化の処方が多い薬局では、クリニックから一包化の可否を問われることが多い。
つまり、安定性・一包化の可否についてまとめた資料があると便利なのである。
また、新しく薬を採用する場合は、予め調べておくのが賢い。
「薬勉」step③勉強するの具体例
「領域の勉強」
薬そのものの勉強のほかに、その領域で使用される薬を勉強する場合がある。
たとえば、「睡眠導入剤について情報を整理したい」など。
まず第一にやるべきことは、種々の医薬品集を見ることである。
領域別にまとめられた医薬品集(代表的なのは「今日の治療薬」)には、基本的な薬物治療の戦略とともに薬の一覧が掲載されている。
この一覧表の比較されている項目を確認する。これは、この領域の薬のどこが大事なのかを示すものである。
このことは、同種同効品が発売された場合に、どこをチェックすればよいかを示すものでもある。
先ほどの例-「睡眠導入剤」についてみてみよう。
出典:コンパクト医薬品情報集 ハイリスク治療薬2010年版(じほう社)
この医薬品集の睡眠薬一覧P.448では作用時間によって分類されているのがわかる。
比較の項目も、「効果発現」「半減期」「作用持続時間」である。
つまり、睡眠薬は「効果発現時間」と「作用持続時間」が分類上、もっとも重要な項目である。
不眠症の病態は、「入眠障害」「中途覚醒」「早朝覚醒」に分類されている。
(上記の分類に「熟眠障害」を伴うかどうかを考慮する。)
これらの病態により、処方する薬が選択されるためである。
また、メインの一覧表の下に「ω受容体について」の記述がある。
これは、睡眠薬の作用部位にはω受容体があり、ω1とω2の2種類の受容体が存在する。
ω1受容体は「睡眠・鎮静作用」、ω2受容体は「抗不安作用、筋弛緩作用、抗痙攣作用」に関与する。
すなわち、ω受容体の選択性により、より限定的な効果が期待できるということである。
「ふらつき」の少ない薬を選択する場合の重要な指標になろう。
この他に勉強しておくべき重要な情報は、睡眠薬の離脱方法である。
P.447 にBZ系睡眠剤の離脱法がまとめられている。
連用後の突然の中止は、反跳性不眠を誘発し、依存の一因になる。
このため、患者さんには自己判断で服用を変更しないよう説明しなければならない。
また、短時間型と長時間型では、離脱の方法が異なることも知っておこう。
このように、医薬品集の情報は、重要事項が整理されている。
分野・領域毎に何が大事なのかをつかんでおこう。
「自分なりの切り口で分野・領域毎に薬をまとめたい。」と考える方もいるだろう。
手間はかかるが、大変に勉強になる。作成された資料は、あなたの大切な財産であり、実力の証である。
「この分野の薬については、このような一覧表があったら便利。」と思ったら、さっそく実行してみよう。
私も何点か作成したが、2点だけ注意したい。
自分で情報整理する場合(一覧表を作成する場合)は、必ず表計算ソフトを使用してほしい。
※ほとんどの方がそうすると思うが、念のため。
これは、後から比較の項目を追加したり、新製品が発売されたときに改訂できるからである。
また、一覧表でまとめた場合、出典・情報源を欄外に記録しておくこと。
(日本医薬品集、今日の治療薬的なものは、版数も記入する。)
「妊婦・授乳婦とくすりについて」
私の薬局では、妊婦や授乳婦の患者さんはまれにしか来局がない。
しかし、患者さんの数は少なくても、必ず勉強が必要なテーマのひとつであろう。
私のおすすめは、愛知県薬剤師会が公表している資料である。
「妊娠・授乳と薬」対応基本手引き
(愛知県薬剤師会>医療関係者用サイト>資料箱 からダウンロード可能
基本的な考え方は、これでカバーできるだろう。
ご存じの方も多いと思うが、本格的な勉強を目指す方は、以下の書籍が役に立つ。
「スキルアップのための妊娠中の女性への服薬指導」(南山堂)
「妊娠中の女性と薬物治療の考え方 投与時の注意と禁忌」(ヴァンメディカル)
「実践 妊娠と薬」(じほう)
授乳に関する資料として外せないのは、「国立成育研究センター」のサイトである。
ネットで授乳に関する検索を行っても、ここに行き着くことが多い。
このサイトの妊娠と薬情報センター>授乳と薬について知りたい方へ の中に「ポジティブリスト」と「ネガティブリスト」が掲載されている。(処方をしてもよい薬とダメな薬のリスト)
処方の可否を判断する重要な資料になるだろう。
https://www.ncchd.go.jp/kusuri/lactation/index.html
※ご参考
・「今日の治療薬」(南江堂)には妊婦への投薬に関して、FDA Pregnancy Categoryによる評価が掲載されている。
(FDA Pregnancy Category:米国の添付文書における妊婦への注意の記載要領)
授乳婦への投薬に関しては、Medications and Mothers Milk基準による評価が掲載されている。
・「治療薬ハンドブック」(じほう)には妊婦の投薬に関して、虎の門病院の危険度評価方法による評価が掲載されている。
「業務への応用」
「薬勉」を実施していると、勉強した資料が思った以上に業務に活用できたり、勉強がきっかけで業務の幅が広がることがある。
ここでは、勉強がきっかけで業務に応用できた例を提示する。
・抗血栓薬、抗凝固薬の一覧表とお薬手帳
ワーファリンを勉強したことがきっかけとなり、この領域の薬を一覧表でまとめることにした。
最初は、簡単に「各薬剤の半減期」「効果消失のための時間」「出血時の対応」を整理した。
この表は、門前の医師(消化器内科)の内視鏡実施のための参考資料として感謝された。
(ちなみに、2012年7月に日本消化器内視鏡学会より「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」が発表されている。)
また、内服薬のお問い合わせを行った近隣の歯科医師への参考資料としても大変喜ばれた。
さらに、近隣の歯科医師からのお問い合わせをきっかけに、抗血栓薬・抗凝固薬を服用している患者さんのお薬手帳の活用を確認することにした。
ワーファリンは、もっとも相互作用が多い内服剤のひとつだからだ。
これらの薬の処方患者を調べ、「お薬手帳の活用状況」を再度確認した。
もちろん、お薬手帳を作成したときに、活用方法は説明してあるのだが、ほんとうに活用されているか心配になったのである。
実際の手帳の使い方を聞き、問題があった場合には再度説明した。
予想通りに問題のある患者さんが多く見つかった。
「えっ、歯医者さんにも見せるの?」「眼科は目薬しかもらってないから必要ないと思った。」など。
私は、反省した。
「自分が説明した。」ことと「患者さんが理解して実行する。」ことは別だったのだ。
詳しく説明したからといって、患者さんが理解したとは限らないのである。
この認識が得られただけでも、大きな収穫であった。 この一件から、お薬手帳の複数回の説明を実施している。
これらの業務への応用は、ワーファリンの勉強がきっかけである。
※あなたの患者さんが高齢者の場合、次の点を確認することをおススメする。
「歯医者さんにかかっていますか?」
「歯医者さんや眼医者さんにもお薬手帳をもっていってますか?」
・睡眠導入剤
対象患者も採用品目も多いため、睡眠薬の情報を整理した。
勉強をすると、その薬について患者さんに服薬指導がしたくなる。
睡眠剤の服用状況や効果を聞き、アルコールとの相互作用などを説明していた。
ある患者さんにも同じように説明し、たまたま世間話になったときに「アメリカの娘のところにいくんですよ。」となった。
「それは、よかったですね。」と言いかけて言葉を飲んだ。その患者さんにはフルニトラゼパムが処方されていたのだ。
少しもよくないのである。フルニトラゼパムは、米国、カナダでは麻薬扱いであり、一切持ち込み禁止になっている。
特に9.11以降、空港におけるチェックは大変厳しくなっているらしい。
もちろん、患者さんに同意をいただいて、先生に処方の変更をしていただいた。
これがきっかけで、海外旅行に行く場合の医薬品の手続きを勉強し、非常に役にたった。
聞いてみると観光、仕事、登山などで海外渡航する患者はかなり多く、連休・年末年始の前にも注意して確認するようになった。
一緒に登山する仲間の方を紹介され、予防薬をもらいにきていただいたこともある。
以上、ささやかではあるが、私自身の実例を紹介させていただいた。
ある予備校の先生の言葉である。
「勉強を習うより、勉強方法を習え!」
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