【ち○ちんの手術をした。】#9 〜手負いのR-1〜
賞レースの楽屋は独特の空気に包まれている。
そこにいる全員から緊張感が漂っている。
僕だけは違った。
ついさっきちんちんを6針縫った男に、怖いものなどあるはずがない。
自信、覇気、生命力、オーラ、エナジー、全てが溢れ出していた。
早々に着替えを済ませ、自分の出番が来るのをどっしりと構えて待つ。
「やさしいズ佐伯さん、スタンバイお願いします。」というスタッフさんの声を聞き、僕は列に並ぶ。
芸人がネタを終えるにつれて、どんどんと前へ。
いよいよ次が自分の出番という時。
心臓の音は爆音になり、
頭が勝手にネタを復唱し続け、
『大丈夫だ、俺!間違ってもいいじゃないか!今、やれるだけのことを一生懸命やろう!』と自分に言い聞かせる心の声が止まらなくなった。
体感したことのない方にはわからないだろうが、これが”武者震い”というやつだ。
出囃子が流れ、明転した舞台に出ていく。
僕は、色々なモノボケをやるネタをやった。
モノボケにとって重要なことの一つが【動き】だ。
大きく力強く動くことで、面白さは増し、お客さんにも伝わりやすくなる。
僕は、小さく弱々しく動いた。
武者震い(緊張)のせいではない。
縫いたての傷口に最大限に気を遣っていた。
全力でネタをやった場合、時間切れで爆発音が流れ会場が赤照明に包まれる前に、僕の股間が爆発してズボンが赤照明になる可能性があった。
今日重要なのは、ウケることではない。
無事に袖まで帰ることだ。
僕は舞台上で次々とモノボケを披露したが、それと同時に、ズボンの中では、包帯とちんちんを使った〈ソーセージパン〉というモノボケを披露し続けていた。
細心の注意を払いながらネタを終え、なんとか無事に袖まで帰って来ることが出来た。
僕のこの見えざる攻防に気付いてくれた方がいたのだろう。
僕は2回戦を通過し、準々決勝へと駒を進めた。
一週間後。
準々決勝当日。
奇しくもこの日は二度目の抜糸の日でもあった。
午前中に病院で抜糸をしてから準々決勝に臨んだ。
抜糸直後というのも、これまた不安だ。
すなわち、今回もちんちんに細心の注意を払いながらの出番。
ちんちんの手術の影響で力をセーブせざるを得なかった僕は、ちんちんの手術の影響で力をセーブせざるを得なかったせいで、準々決勝を敗退した。
手術をしていなかったら、R-1グランプリ2021の行く末は変わっていたかもしれない。
決勝戦での僕のキャッチコピーは《ちんちんとモノボケに新たな切り口で挑む!》だ。
R-1グランプリよ!来年、俺はちんちんが万全な状態で、またお前に会いに来る!いいなっ!!!
時間は少し戻り、2回戦終わりのこと。
借りていた小道具を返しに無限大ホールに行くと、楽屋にアイロンヘッド辻井さんと大自然しんちゃんさんが居た。
なんやかんやの話の流れでちんちんの手術をしたことを二人に話し、
なんやかんやで包帯ぐるぐるのちんちんを二人に見せることになった。
ちんちんを見せると、二人は笑ってくれた。
その瞬間『手術して良かった。』と思った。