【ち○ちんの手術をした。】#7 〜異変〜
手術を終え、病院の近くの薬局で鎮痛剤と抗生物質を受け取る。
先生から「鎮痛剤のロキソニンを処方しておくので、もし痛みが出たら飲んで下さい。」と言われていた。
出されたロキソニンは3錠だった。
皆さんは《三枚のおふだ》という昔話をご存知だろうか?
お寺の小僧が和尚に「山に栗拾いに行きたい」と言うが、その山は夜になると鬼婆が出る。
和尚は『鬼婆に会ってしまった時のために』と、”願いをかけると助けてくれる三枚のおふだ”を小僧に渡す。
山で鬼婆に会ってしまった小僧は、そのおふだを使ってなんとかお寺まで帰ってきて、寺まで追って来た鬼婆を和尚が退治してくれて、めでたしめでたし。
という話だ。
僕はこの話を初めて聞いたとき、子供ながらに『三枚、少ねぇ。』と思った。
ミスったら小僧は死ぬのに、三枚。
和尚はどうかしている。
薬局のカウンターに出されたロキソニンを見た瞬間に『3錠、少ねぇ。』と思った。
小僧は指を舐めて何度も何度もおふだをめくって、おふだが唾でびしょびしょになるまで数え直したことだろう。
僕の目の前には、数えるまでもなく3錠。
受け入れるしかない。
今は麻酔が効いているから、痛みは無い。
だからこそ、全く想像が出来ない。
いつやってくるかも、どれほどかもわからない”未知の痛み”と、僕はこの3錠だけで戦わなければならないのだ。
タイミングを見誤れば、そこでお終い。
.....怖い。
しかし、この試練を乗り越えられれば、僕は漢として大きく成長することが出来る。
薬を鞄に仕舞い、薬局を出た。
薬局の目の前の自販機で水を買って、そのままの流れでロキソニンを1錠飲んだ。
小僧がこれと同じ事をやっていたら、一発で破門だっただろう。
痛くないのに、不安だったから飲んだ。
『すまん、小僧。お前は三枚でやりくりしなきゃいけないかもしれないが、俺は大人だから、追加でロキソニンを買えるんだ。』
小僧が僕に冷たい視線を送ってくるが、知ったこっちゃない。
ドラッグストアに寄って、ロキソニンの中でも王者の風格漂う強そうなやつを選んで買った。
激しい運動はダメだと言われていたので、いつもよりゆっくりと静かに歩いて帰った。
どんな命知らずも、ちんちん手術後の【激しい運動をしてはいけない】【包帯を巻いた部分を濡らしてはいけない】【抗生物質をちゃんと飲む】は、忠実に守ることだろう。
帰宅後、微動だにせず過ごす。
..........数時間後。
..........?
........?
.....ん!??
ちんちんの様子がおかしい。
腫れている。
ちんちんの頭の部分の付け根あたりが、ちんちんの頭がもう一つ生えてきたかのごとく腫れていて、色も紫になっていて、
頭が2つのケルベロスみたいだった。
先生から「数時間後には、ちんちんが頭2つのケルベロスになります。」という説明は受けていなかったので、パニックになった。
診察時間を過ぎていたので、電話は繋がらない。
『《手術後の腫れ》と《包帯で締めつけられたことによるもの》ではないか』と推測して、無理矢理に自分を納得させた。
が、それにしても腫れすぎている。
ちんケルになったときの不安は計り知れない。
包帯を外せば腫れが治るかもしれないが手術が台無しになってしまうというジレンマに陥っていた。
一か八か外してみるなんていう選択が出来るはずもなく、
包帯を外す明日が早く来てほしくて、すぐにベッドに入った。
翌朝のちんちんは、ぜんぜん頭2つのケルベロスのままだった。
朝一番の時間で診察の予約をしていたのが唯一の救いだった。
病院へ向かう電車の中。
考えれば考えるほど不安になり、鼓動が速くなっていく。
このドキドキのせいで血の巡りが良くなって、更に腫れてしまったらどうする。
今度こそ、完全なケルベロスだ。
ケルベロスが守るべきは、地獄の門であって社会の窓じゃない。
僕は、勝利した。
ケルベロスの封印は解かれず、なんとか無事に病院に到着した。
(もちろん病院に行く前に駅のトイレに入りちんちんを除菌シートで拭いたが、腫れているところを無闇矢鱈に触るのは怖かったので、先をちょちょんと拭いた。「しっかり拭かないのはマナー違反だろ!!!」という皆様の御意見は甘んじて受けよう。)
診察室で先生にちんちんを見せる。
「なかなか腫れてますが、包帯の重さでちんちんがずっと下を向いてて血が下に行くのでこうなるんですよ。包帯の締め付けで少し紫色になってますが、これは一ヶ月くらいでもとに戻ります。」
「そうなんですね。ほっとしました。(先に言ってくださいよ〜〜〜)」
「じゃあ、包帯を外しますね(クルクルクルッ)。....乾いてない血が少し付いてますが、傷口からの血は止まってますね、うん。」
血を拭き取ったガーゼみたいなのには、2mmほどの小さな点の血っぽいのが付いていた。
よく見ないとわからないくらい小さかったことが、僕をとても安心させた。
「じゃあ、包帯を完全に取りますね。お風呂はまだダメですが、シャワーは今日から大丈夫です。でも、傷口の部分をタオルで擦って洗ったりはしないでください。軟膏を出しておくので、シャワーの後に忘れず傷口に塗って下さい。一週間後に抜糸をします。それで通院は終わりです。」
「はい。」
包帯で隠れていた部分を初めて見た。
ちんちんは2針縫われていたので少し痛々しい姿だったが、それは激戦を戦い抜いた証でもあった。
『よく頑張ったな。』と、心の中で声を掛けた。
ちんちんは誇らしげだった。
一週間後が最後の通院。
『ようやくか.....』
一週間後、僕は涙を流した。