浅草メンチと大凶カップル
私は浅草に降り立った。
所用を済ませたら、時計は17時を回っていた。
小腹が空いた。
そう言えば、知人に「浅草メンチ」を勧められたのを思い出した。さっそくGoogleマップを開いた。
12分も歩くと浅草メンチは見つかった。それは商店街の通りのなかに潜んでいた。すでに先客がいた。
カップルが、死ぬほど、イチャつきながら、メンチが揚がるのを待っていた。
「おみくじにぃ、大凶なんてあったらダメなんだよぉ〜」「あれぇ、僕の記憶ではキミは大凶を引いてた気がするけど〜?」「ふぇ〜引いてないも〜ん」
おかげさまで、メンチが揚がるまで背後でメンチを切る羽目になった。
……嘘だ。世間やTwitter民ほど私はカップルに風当たり強く生きてはいない。幸せならそれでいいではないか。
メンチが揚り、カップルは去り、私はひとつ250円の浅草メンチを頼んだ。店主はメンチを渡しながら…
「ふたつ先にイートインの場所がございますんで、そちらでお食べください!」
と言った。元気な声だった。嫌な予感がした。
恐る恐るふたつ先まで歩くと、カラオケボックス並みに狭いイートインスペースが現れた。すでに先客の声がした。覗くとさっきの大凶カップルがくねくねしていた。
幸せは大いに結構だが!!手狭なイートインでやるな!!他所でやれ!!大凶はこっちの身だバカ!!
そういうわけで、私は寒空の下。
ひとり浅草メンチは頬張った。悲しいほどうまい。
衣の中に玉ねぎの甘味とジューシーな牛肉がひたひたに閉じ込められている。幸せが衣を纏ったような食べ物だ。というわけで、
幸せは浅草で買える。しかも250円(税込)で。
すべては許された。
浅草はつづく。