SmartHRの「やさしい日本語」切り替え機能ができるまで
こんにちは。SmartHRで「やさしい日本語」の取り組みに参加しているUXライターのkondoです。
私たちのプロジェクトではこのたび、SmartHRの画面を「やさしい日本語」に切り替えて表示する機能をリリースしました 🎉
「やさしい日本語」で表示できる業務アプリケーションは、国内でもほとんど例がないはず。そこで本記事では、私たちが開発過程で検討したことの一部を、検討の流れに沿ってご紹介します。
「やさしい日本語」に注目している開発者の皆さまの参考になれば幸いです。
なぜ画面を「やさしい日本語」にするのか
実は昨年このプロジェクトがスタートした時点では、SmartHRの画面そのものを「やさしい日本語」にすると決まっていたわけではありませんでした。
外国人従業員を雇用するユーザー企業へのヒアリングから始め、どうすれば日本語が得意でないSmartHRユーザーを的確にサポートできるのか、さまざまな方法を検討してきました。
例えば、SmartHRの使い方を「やさしい日本語」で説明する資料や動画を用意するという方法。これはすでにいくつか完成しており、各社で従業員向けの説明に使っていただけるよう、配布をスタートしています。
しかしアプリケーション外のコンテンツを提供する場合、ユーザーはアプリケーションとコンテンツの両方を行き来しながら操作することになります。
できることなら操作画面そのものが「やさしい日本語」で表示されるほうが、よりユーザーにとって使いやすくなるはず。そう考え、コンテンツの制作と並行して、アプリケーションそのものの改善を進めることにしました。
どの画面を「やさしい日本語」にするか
表示を切り替えるとは言っても、SmartHRは複雑な業務アプリケーションであり、画面数も膨大です。すべての画面で「やさしい日本語」版を用意するのは至難の業。そこでまずは一部の画面に絞り、小さく始めることにしました。
どの画面から始めるかを決めるうえで、軸となったのは次の2点です。
1. 表示の仕組み
画面を「やさしい日本語」で表示するために、私たちは多言語表示(翻訳)の仕組みを利用することにしました。
しかし実はSmartHRの多言語表示の仕組みは複数あり、画面が作られた時期によって異なります。
そこでまずは、多言語表示の仕組みのうち最も新しく柔軟性の高い仕組みを使っている画面から始めることにしました。
2. 想定ユーザー
SmartHRは、人事・労務担当者と従業員が相互にやりとりをするアプリケーションのため、担当者側の画面と従業員側の画面とで、表示の出し分けがなされています。
そこでいったんは、従業員側の画面を優先的に対応することにしました。「やさしい日本語」を必要としているユーザーが、担当者側と比べて多いと考えられるためです。
どのように「やさしい日本語」にするか
画面を決めたらいよいよ、「やさしい日本語」版のUIテキストを用意していきます。
画面数を絞っているので、テキストはそこまで多くない……のですが、考えることはまだまだあります。
漢字にルビ? それともひらがな?
例えばもし、仕様上の都合でルビ(ふりがな)を振れない場合は、ひらがなで表示したほうが親切かもしれません。一方で、ユーザーの日本語レベルによっては、ひらがなばかりではメリハリがなく読みづらいと感じる可能性も。
そこでまずは、対象とする画面でルビを振れるかどうかの確認を進めました。その結果、いずれはルビを振れる可能性があることがわかったので、簡単な漢字であれば使っていくことに決めました。
分かち書きをする?
「やさしい日本語」では、分かち書きが推奨されています。
分かち書きとは、文節ごとにスペースを空けることで意味を捉えやすくする表記法のことです。
(これまでに公開した用語集の記事でも、語句の説明文で分かち書きをしているのでぜひ参考にしてください )
もちろんアプリケーション上でも、分かち書きをしたほうが、読みやすくなるはずです。
しかしUIテキストは、スペースの都合上、文字数を増やしづらいことも多く、すべての箇所で分かち書きをすることが適切とは限りません。
そこで以下の方針を決めました。
画面タイトルや項目名、ボタンラベルなどでは分かち書きをしない
説明文では分かち書きをする
変換する言葉、しない言葉
日本語の「易しい」or「難しい」の基準をどこに置くかも、判断に迷う部分です。
できるかぎり客観的に判断するために、私たちは「日本語能力試験」のレベルに基づき、N4レベル(=基本的な日本語を理解することができる)以下の語彙を使用することにしました。
語彙のレベルは、リーディング チュウ太のレベル判定ツールなどで調べることができます。
実はこれがけっこう大変で、ライター目線で簡単な言い回しを思いついたとしても、レベルを判定すると実はN3以上の単語とわかってガックリ…ということが何度も(本当に何度も)ありました。
さらに、日本語能力試験のレベルだけでは判断できないものもあります。
例えば、SmartHRの機能名としての「申請」「組織図」といった言葉や、「扶養家族」などの人事・労務用語。日本語能力試験のレベルで言えばN3以上の難しい言葉です。
しかし、これらをすべて易しい言葉で言い換えてしまうと、人事・労務担当者と従業員の間で共通で使える言葉が極端に少なくなり、コミュニケーションの妨げとなる可能性も考えられます。
実際に、ヒアリングさせていただいたユーザー企業からは「『扶養家族』などは言い換えないほうがよい。日本で働くうえで知っておいてほしい単語なので、学んでもらいたい」という声をいただきました。
また、「アプリ」や「通知」などのウェブ操作に関する言葉も判断に迷う部分です。
日本語能力試験のレベルで言えば難しいものの、SmartHR以外のさまざまな場面で目にする言葉のため、言い換えることで逆に学習の負担が上がる可能性もあります。
こういったさまざまな観点について、メンバー同士で相談しながら、変換作業を進めていきました。
幸い、このプロジェクトにはSmartHRの多言語化対応をしているチームのメンバーが複数参加しており、なかには日本語ネイティブでないメンバーもいます。
当事者の目線でレビューしてもらうことで、細部までブラッシュアップすることができました。
今後について
そんなこんなで変換作業も一段落し、ついにリリース 🎊
今後は、ユーザーのフィードバックを得ながら、改善や対象画面の拡大を検討していきたいと考えています。
フィードバックの集め方ひとつとっても、SmartHRの通常の開発フローとは異なる点が多く、検討すべきことが盛りだくさん…!
試行錯誤の過程を、引き続きこのnoteでも紹介していきます。
それでは、また。