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書きかえに「指針」を

先日、ある地域のの高潮ハザードマップの「やさしい日本語」書きかえに携わりました。残念ながら今回の書きかえは、多言語化の元情報として活用されるにとどまり、「やさしい日本語版」にはつながらなかったのですが、様々な学びにつながりました。これまで何度か書きかえのお手伝いはしましたが、多人数で行われた大量の文章を渡されて「監修をよろしく」といった形が多く、それぞれ「やさしい日本語」のレベルが異なっている、言葉選びに「ゆれ」が多いなど、手を加える部分が多く、決して満足のいく仕上がりにはなりませんでした。すでに公開されているものも多く、申し訳ないかぎりです。

そこで今回は初期の話し合いから打ち合わせに参加させていただき、「書きかえに関する指針」を作成、共有しました。主な内容は、レベルはカテゴリーⅠなのか、Ⅱなのか、言葉選びの基準や参考資料は何なのか、文の内容の順序や一文の情報量の基準などについてです。こうした指針は書きかえの途中で迷ったときに判断する基準となりますし、「なぜ、こう表現したのか」を尋ねられた時の根拠になるので大切なことだと思います。

とはいえ、「高潮ハザードマップ」です。学校で学んだ程度の知識しかなく、読み手は一般の方、外国人ということもあり、子供向けの気象の本やネットを探して少しでもわかりやすい表現を心掛けました。
そんな中で気付いた点をいくつか紹介したいと思います。

・言葉のレベル
「やさしい日本語」のレベルとして「やさしい日本語」のカテゴリーⅡを基本としました。作業としてはまず「リーディングチュウ太」で調べ、1級や級外の言葉は『用事用語辞典』で再度調べ、あれば使えると判断しました。
「リーディングチュウ太」はダウンロードしなくても使えますが、サーバーのトラブルで使えないことがあったり、災害時など、インターネットが使えない非常時には使えないこともあります。
『用事用語辞典』は印刷した冊子やパソコンで使えますが、検索に時間がかかります。データのまま保存しておくとなかなか読まないので、イザというときに使われないことになります。
どちらも手元に置いておき、気になる表現があれば調べる癖をつけることが大切ですね。
(用事用語辞典を使うにはPDICという自作辞書に変更すると、検索が簡単になります。詳しくは『「やさしい日本語」辞書を作ってみた?』をご参照ください)

・タイトルの統一性
中タイトル、小タイトルのデザイン(フォントや大きさ、色、修飾など)は統一し、「どこに」「何の情報があるか」が一目でわかるものにしてほしい、と提案しました。また、体言止めにするか、疑問形にするかといったタイトル表現もできるだけ統一してほしい。「何が書いてあるか」を知る手助けになるのがイラストです。意味なく(空白が寂しいので、という理由で)行政のキャラを入れるのはいかがなものでしょうか。
基本的にすべての情報に目を通す人はいません。端から端まで読むのは、専門家か作成者、あるいはマニアかと。びっしり、小さな文字で書いてあるとまず、読んでもらえないと思ってください。少しでも読んでもいたいなら、「見やすさ」「デザイン」は大切です。

・「保存版」
「保存版」とともに最新の情報が入手、QRコードやHPアドレスをいれることを提案しました。以前にも書きましたが、「保存版」とあると、大事に保存することはいいのですが、古い冊子の情報で動く人もいること、また、災害の言葉は「避難勧告」「全員避難」が廃止されたり、「5つの警戒レベル」「緊急安全避難」という言葉が出てきたりと、毎年のように改変されています。タイミングが悪ければ、刷新、配布の直後に改変されることもあります。

・「発生する」を選択
「ゆれ」に関する話でもしましたが、今回、地震、台風、高潮に共通して使える動詞として「発生する」を選びました。
地震は「ある」「起こる」「起きる」「来る」
台風は「発生する」「生まれる」「来る」「になる」
高潮が「ある」「おこる」「になる」などを使います。
地震や高潮には「生まれる」は使いませんし、台風は「起こる」は使いません。今回はこれらに共通して使える「発生する」を選択しました。この動詞は旧日本語能力試験では1級ですので本来使えないのですが、『用事用語辞典』の「生活情報誌から集めた語のリスト」にありますので、使っていい言葉です。最初に出てきて「難しい」と思っても一度辞書を調べて理解できれば、その後は何度も出てきてもわかるのではないかと判断しました。また、多言語に翻訳した時もわかりやすい言葉にこだわって「地震が起きる」「台風が生まれる」「高潮になる」などにすると、誤訳につながる恐れもあります。きずなメール・プロジェクトさんが書きかえ時に気をつける点の一つに「わからない時に検索しやすくすること」というのがありましたが、その考えと同じです。

・意外と難しい言葉
「吹き込む」「吹き出す」「吹き寄せる」「引きおこす」「吸い上げる」
「買い置き」「買い足し」などの複合語はとてもレベルの高い言葉です。また、「モバイルバッテリー」「空メール」「チェックする」「タイミング」「避難スイッチ」など英語や英語交じりの語は、通じない言葉としてWEBに上がっていないか、欧米での普通の表現は何なのかを調べ、使う、使わないを決めました。

・形容詞・副詞
基本的に「たいへん」「とくに」といった表現はひらがなにしました。
そもそも論ですが、強さなどの表現は気象庁が予報用語としてきちんと定義しています。
台風の強さの表現は「強い 」「非常に強い」「猛烈な」
風の強さは「やや強い」「強い」「非常に強い」「猛烈な」
雨の強さは「やや強い」「強い」「激しい」「非常に激しい」「猛烈な」
です。数値による表現ではわかりにくいと表現を決めたのでしょうが、外国語に翻訳するとき、その国の気象庁いろいろと困るのではないでしょうか。


・その他
下記は読み返せば読み返すほど混乱しました。
ぜひ、一読して理解できる表現に書きかえてみてください。
①満潮時の平均的な海面の高さよりも低い海岸付近の土地は浸水の危険性が高くなります
②浸水深より居室の高さが低い場所

以上、一部ではありますが参考になれば幸いです。

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