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「私を大事にする」ことからはじまる、やわらかい社会変革を夢見て

「学校を作りたいんです」

会社を辞めるときにそう伝えると、大抵のひとはキョトンとした。

2017年にわたしが惚れ込んだ学校は、小学校でも高等教育でもなく。
人生を豊かするための大人の学校「フォルケホイスコーレ」と呼ばれるものでした。

2017年 フォルケホイスコーレとの出会い

当時の私を思い返すと、とっても、生き急いでいた。

未来のために今を削っていた。もっと頑張らねば。上へ上へ歩みを止めない。根本には、なにかから置いていかれる不安、隙を見て追い抜いてやろう、まだまだ足りない、そんな思考があった気がする。もちろん、仕事はめちゃくちゃ楽しかったし、たくさん得たものがある。何かをチームで達成していく快感と効力感のサイクルが回り続ける。

高いビルから見える都会の夕陽。ここからが集中しどころ!みたいな時間感覚。笑

一方で、溜まっていく小さな違和感。一部の私は満たされるが、私の一部はカラカラに乾いていく。仕事に役立つ筋肉ばかりが強化され、私のやわらかい部分は大切にできていない。このままでいいんだっけ。可愛いおばあちゃんになることが人生の目標なのに、このままでは邪悪な魔女になってしまいそう。(たいへん・・・!)

もやもやとした悩みが溜まりはじめた年にデンマークに旅をして、たまたま出会ったのがフォルケホイスコーレだった。

のちに共同創業者になる香と初めてノーフュンスホイスコーレを訪れた時の写真
このときはまだ「大学時代の友人」

フォルケホイスコーレは180年続く成人教育機関で「人生の学校」「大人の幼稚園」と評される。アート・哲学・パーマカルチャー・語学・グリーンアクティビストなど、様々なコースがある。人数規模は20名のこじんまり規模から、200名規模の大所帯まで。短くとも4ヶ月は滞在して、ゆっくり休息をとる。そして、純粋に心の思うままに学び、暮らす時間。

「これは合法的なお休みだ・・・」
そんな言葉が、ぱっと頭に浮かんできた。
とてつもなくデンマークが羨ましくなった。

これだけ早足で進んでいたら足がもつれてコケてしまいそう。コケたら怪我した膝を抱えて、道端で置いてかれて独りでシクシクはイヤだから、歩みを止めてはいけない。ひたすら足を動かす道のりの毎日。

こんな人生が続くのか〜と諦め半分、ふと目を凝らしたら隠れ小道を発見したような感覚。

これもノーフュンスホイスコーレの校舎の中。かわいい小道が随所に。

小道の奥には、庭でコーヒーとクッキを食べながら、本を読んだりギター片手にお喋りしたり、小休憩をとっているデンマーク人たちがいた。「ま、人生長いんだから、たまには休憩。寄り道してもいいんじゃない?」と声をかけられた。ような気がした。

世界のどこかで、人生の寄り道ができる場所が存在すると知れただけで、心は安心感に包まれていた。ところが同時に、日本にも欲しいと思う気持ちが止まらなかった。きっと日本にも必要としている人はいるし、日本文化に根ざした、フォルケホイスコーレをモデルにした学び舎が作れるはず。

2017年ブランビアホイスコーレの空き教室にて構想開始。
長時間篭りすぎて「頑張ってるね」と見知らぬ先生にコーラの差し入れをもらう。

できるかわからないけど、できるところまでやってみよう。
私たちの旅はそこから始まりました。

2020年 東川町でCompath創業

北海道東川町に出逢い、物語がぐっと濃くなった。
共同創業者二人とも東京と神奈川出身で、ゆかりのある田舎がなかったため、どこで取り組みを始めようかと考えあぐねていたときに、縁が縁を繋いで東川町にたどり着いた。

この町がとても好きです。

お米と水が美味しく、自然も豊かで毎日が最高です。(photo by 畠田大詩さん)

前例のないことに賭けてくれる町長や役場の方々抜きにはCompathの今までは語れない。自分の暮らしも町も自然も大事に生きようとしている東川の人たちの生き方や仕事観があってこそのCompathのプログラムだ。

私生活では「頑張ってるね〜!でもほどほどにして遊びなさい〜!」と笑いながら応援してくれる東川町の人たちの言葉で等身大でいられる。困っている時はそっと手を伸ばしてくれる人たちがいる。けらけら餃子を包みながら笑い合える友達がいる。

2021年の年越しは賑やかでした。住んでるシェアハウスにて。(photo by 畠田大詩さん)

ここに辿り着いて、本当に幸せでラッキーだな、と毎日のように感じる。

2021年 プログラム運営の日々

移住してからここ2年は、様々なプログラムの開発に時間と心を注いでいた。開いたプログラムの数だけ、School for Life Compathのコースに参加してくれた150名の人たちの顔が浮かぶ。

真冬のプログラム。雪にぼふっと埋もれる人続出。(photo by 清水エリさん)

創業期の試行錯誤を共にしてきたので、参加者というよりも一緒に作ってきた同志という感覚かなあ。

私は必要だと思ってるけど、社会にとって本当に必要なんだろうか

自信が揺らぐときに、「心から必要!」と声を大にして、誰よりもこの時間の語ってくれる。それぞれの視界を共有してくれる、ひとりひとりが大切な存在です。

終わった後もそれぞれの形で関わり続けてくれるひとたち(photo by 清水エリさん)

Compathでの日々は、旅人たちの交差点に立っている感覚です。
人生の大切なタイミングで東川町にきてくれること。大人になってからたくさんの多年代の深い友達ができて、生きてきた人の数だけ、たくさんの世界を教えてもらい、私の人生も豊かになっています。心からありがとう。

2022年 次のステージへ

日本で作る意義の確らしい手触りをもとに、次の目標が生まれてきました。

「校舎を作りたい」

現状は、まち全体に散らばる町営の施設を中心に借りながら、宿泊型のプログラムを運営をしています。さまざまなプログラムを重ねるにつれ、空間が持つエネルギーの重要性を感じています。

森の中の授業は人間が持つ原始的な感覚を引き出すし、(photo by 野添直人さん)
大きな窓と青空に囲まれると、気持ちが晴れやかになる(photo by 畠田大詩さん)
畳はごろんとするのに最高(photo by 野添直人さん)

違うことをしながら居られる空間で生活することで、
コミュニティの親密性はぐっと育まれる。

音楽したり、(photo by 野添直人さん)
お喋りしたり、(photo by 野添直人さん)
手仕事したり。(photo by 野添直人さん)

誰かがまた東川町に帰ってきたいと言った時に「おかえり」と迎えられる場所を作っておきたいし、場所があることで次は作り手として学びづくりやまちづくりに参加できる関わりしろができるはず。

入った途端、あたたかさにホッと心が緩むのを感じられる校舎。
鶏小屋にサウナ、畑の野菜まで、みんなの手で作って遊べる校舎。

校舎のガーデンでの初仕事。段ボールで不耕起栽培をする通称「ラザニアガーデン」の仕込み
(photo by 清水エリさん)

いつか来る日のために、2021年3月にCompath建築チームを結成した。Compathらしい校舎の言語化、規模のケーススタディ、事業計画のパターン出し、場所作りの実践を重ねてきた。

愛すべきCompath建築チーム。
「民主主義的な建築とは何か」をつまみに永遠に語れる変態たちの集い(※ビールは必須)

「あなたはあなたのままで、いるだけで価値がある」
「欲しい未来はあなたの手で作っていける」

Compathで大事にしていることを、空間で伝わるような校舎が作れないだろうか。

構想が実現へ

東川町の大きめの施設利活用の話があがり、妄想のような構想がぐっと現実に近づきました。

旭岳が綺麗に見える丘の上の「ラトビア館」と呼ばれる施設です(photo by 清水エリさん)

デンマークのフォルケホイスコーレは私立経営ですが、経費の最大50%が国費で賄われています。すぐには価値が見えづらい教育事業、資本主義のジレンマから少し距離を置いた形での経営モデルを模索している中で、東川町と協働しながら校舎設立ができるのは、理想の形への小さなステップとして願ってもない機会。

アートと教育で有名な藤野にお邪魔して建築構想合宿

メンバーと議論した末、利活用プロポーザルに応募・採択いただき、町の全面支援を受けながら、校舎完成を目指すことになりました。この間に対話したプロセスは、東川町だからこそできるチャレンジの機会を噛み締めると同時に、Compathは町に何ができるのかを問う機会になりました。

Compathに関わって応援して下さっている町内の方々と校舎予定地でワークショップもしました

まだ何ができるかはわからないけれども、立場や地域を越えて、自分達や東川の未来について対話すること、町の人と外の人も混ざること、対話しながら学びながら作ることは、続けていきたい。

リノベーション後の校舎模型(By studio IrodorI 一色ヒロタカさん)

Compathの校舎がオープンするのは、2024年の予定です。
来年度のリノベーション工事に向けて、いまは構想を固める時期。
初めてのクラウドファンディングも10月にチャレンジしようとしており、ドキドキもするけど、きっと、また仲間が増えていくプロセスになるんだろうなと楽しみにしています。

最後に

いま、大きな社会の転換点にいることを、Compathを経営しながら感じています。

このような場所を求めて、多くの人たちが立ち止まりたいと感じているという事実や、みんなが話す社会への違和感に触れて、強く確信を持つようになりました。

(photo by 和田北斗さん)

想像以上に多くの人たちが「このままだけじゃない生き方(=オルタナティブ)」を模索するチャレンジを始めている。

きっと、あともう一押しで、社会はもう少し寛容になるんじゃないかな。と、信じています。一方で、今まで通りの思考で流されていくこともできる、はざまの時代に生きる難しさも感じています。

Compathがやっていきたいことは、流れてゆきそうになる日常のなかでの空白点をつくることです。空白の中では、流して蓋をすることもできる、違和感・問い・本当は大切にしたいことが浮かんできます。

「炭鉱のカナリア」という言葉があります。これはまだ起きていない危機や、目では感知できない危険を知らせる人、または状況を意味しています。誰もがそれぞれに聴かれるべき小さなカナリアの声が持っていて、
「個人的なことは政治的なこと」と言われるように社会につながっている。

立ち止まっておやすみを取ることは、決して自分勝手でわがままなことではない。あなたの小さな違和感は社会の違和感に絶対につながっている。

自分の豊かさも、社会の豊かさも、守るために、
まずは立ち止まって問うところから始めてもいいんじゃないかな。
一緒に対話して、問う仲間は、きっといます。

(photo by 清水エリさん)

「わたしの小さな問いから社会が変わる。」
そう信じて、これからも、ゆっくりと歩みを進めたいと思います。

(2022.09.26 Compath共同創業者 安井早紀)

文中の素敵な写真たちは町内の写真家/参加者が撮ってくれたものです。
リンクはこちら→ 清水エリさん畠田大詩さん和田北斗さん

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