【ひとり歌仙】 崩れ去る
2022年10月パラオにて。
崩れ去る雲の柱や冬の凪
あとの焚火を立ちのぼる朝
酒飲めば過去の獲物を並べたて
あら汁配る列に加わる
ほつこりと月は浮寝に羊雲
幼き牧夫灯火親しむ
初汐の水面に石を跳ねさせて
歌を掛け合ひ踏み鳴らす足
手枕の居心地を知り馴染みけり
嘘をこぼせば痒き耳裏
野良猫の食わぬおかずをそのままに
髪を切らるるパーマ屋の母
月涼し足取り重き習い事
窓の夏雲絵葉書の如
口口に村人語る雨催ひ
宴の庭を鶏冠うろつく
花の頃廁にかかる日のかげん
佐保姫らしきカフェの店員
握り飯ラップに包み野に遊び
試す果実の浅き潤ひ
カナリヤの番は春の野を追はれ
石を積み上げ空に帰らむ
銅山に江戸の役者を呼び寄せて
憧れ育つ少年の部屋
停車場の汽車を抜き去る初時雨
冬の怒濤を踏ん張る鳥居
嬰児の寝かしつけたる夕嵐
靴の片割れ岸に取り付く
月の舟宝の島は鬼の島
足を引き摺る鴫の導き
魚臭き男の憎き踊り振り
紅を重ねて黒きくちびる
首傾げ子犬の覗く水溜り
俄に鳴けり窓の露虫
夕闇の家路を頼る花の白
背びれをしまう海の陽炎
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