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色覚異常への配慮~赤と緑を一緒に使うなハゲタコ~

【1.問題の所在~想像力の欠如~】

職業柄、他人が作った資料を見る機会が多い。「他人」というのも多岐にわたる。先輩であったり上司であったり、クライアントの部長、社員、そして”過去の自分”も。
こうした「他人」の資料を眺めていると、最も体系化されていない、個人による分散が最も大きい資料作成のルールの1つに「色遣い」があると感じる。色遣いには統一されたルールはない(会社の資料であれば各々のコーポレートカラーが基調となっているはず)し、基本的には自由でよいと思っているが、悪手についてはある程度「これをやってはいけない」というコンセンサスがあるし、咎める必要があるように思う。

かつて、自分が作成した資料をクライアントの部長にかなり手直しされたことがあった。それは、KPIの進捗をまとめたスライドで、たしか定性/定量を薄い赤と緑で色分けしたページだったと記憶している。
自分としては、色分けすることで情報量も増えるし、見やすくなるし、色分けすることになんのためらいもなかった。
ところが、手直しされた資料を見ると、青一色になっていたのである。

当時は、大幅な修正が加えられて落胆していたのだが、今となっては、この「赤と緑を併用する」というのが非常に悪手であったことを反省している。
というのも、「赤と緑を併用する」というのは、色覚異常に全く配慮されていない配色だからである。はっきり言って当時の自分は他者への想像力が欠如していたと言わざるをえない。
(なお、クライアントの部長さんが色覚異常なのかはわからないし、色覚異常に配慮したスライドライティングを心掛けているかもわからない。ただ、「青一色のほうが見やすい」という判断があったことだけがたしかである。)


【2.色覚異常を理解する】

色覚異常については、目薬でおなじみの参天製薬のHPがわかりやすい。

まず、どれくらいの人が色覚異常を持つのかということであるが、先天性のものでは日本人男性で5%、日本人女性で0.2%が有しているといわれており、後天的なものを含めると、高齢の方を中心にかなり多くの方が色覚異常を有していると思われる。最初にこの情報に触れたとき、想像のはるか上をいく多さに吃驚したことを覚えている。

先天色覚異常は日本人男性の20人に1人(5%)、日本人女性の500人に1人(0.2%)といわれており、また後天色覚異常も、色覚異常の症状を呈する他の眼の病気の有病率から考えると、決してまれではありません。とりわけ、加齢の延長線上にある白内障は全人口に対して30%を超える割合(80歳以上では100%)で所見が見られ、その中でも視力が低下しているものに関しては色覚異常もあると考えられ、高齢者のかなりの割合が加齢による色覚異常を有していると考えられます。(引用:参天製薬HP)

次に、色覚異常の種類であるが、色覚異常にも3つの型があり、型に応じて見分けにくい色相が異なる。(以下画像参照 参天製薬HPより引用)
このうち、赤を感知しにくくなる1型と、緑を感知しにくくなる2型が大半を占め、青が見にくくなる3型や、すべての色が感知しにくくなる全盲はまれである。(source:リンク①リンク②リンク③

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最後に、具体的にどのような色遣いをされると色覚異常の人は見にくくなるのかということであるが、こちらも参天製薬HPにわかりやすくまとまっている。

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「茶色と緑」や、「ピンクと水色」「青と紫」を組み合わせる人は少ないと思うが、例えばコーポレートカラーが緑の会社だと「緑と灰色・黒」の組み合わせには十分留意する必要があるし、「赤と黒」はやりがちな組み合わせではなかろうか。特に、スライドライティングをほとんど学んでいない人がやりがちなのが「スライドのほとんどをテキストで埋めて強調する箇所を赤字にする」というやり方だが、これは悪手と言わざるを得ない。テキストを強調したいのであれば、色を変えるのではなく「太字+下線」を使うべきである。

【3.結論~指定がないなら青を使え~】

区別がつきにくい色を使うなというのはわかるが、そんなんすぐ忘れてまうわ!という方には、「指定がないならとりあえず青を使え。ただし、控えめに使え。」と言いたい。先述したように、青を感知しにくくなる3型の色覚異常はまれであるため青を使えば多くの方に色を感知してもらえる。また、控えめに使うことで、意図せず色覚異常に配慮していない色相の組み合わせになってしまうことを防ぐことができる。

しかし、ここでひとつ困る場面が出てくる。それは、正負を同時に表現したいときである。たとえば「大きな赤字を出して注意を惹きたいため赤を使う」「著しい成長をアピールしたいため緑を使う」というもので、赤と緑には色自体に意味が付与されているため、これらを同時に表現したいときはどうしても、色覚異常に配慮していない色相の組み合わせである「赤と緑」を使いたくなる。Excelの書式設定でも強調表示のデフォルトの設定として赤と緑が用意されている(以下画像)ため、デフォルトの設定を何気なく使用することで赤と緑を同時に使ってしまう危険性が常にある。

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このような正負を同時に表現したいときは、青とオレンジを使うのがよいと考える。青とオレンジは先述した「区別がつきにくい色の組み合わせ」ではないし、青=プラス、オレンジ=マイナスという想起もしやすい。
ちなみに、なぜ「青と赤」ではなく「青とオレンジ」なのかというと、色相環上では「青と赤」よりも「青とオレンジ」のほうが距離が遠く、より補色の関係に近いからである。(以下画像参照 Wikipediaより引用)

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【Appendix. おすすめ書籍】

ここまで述べてきた「色覚異常に配慮した配色」含め、データビジュアライゼーションに関する書籍において『Google流資料作成術』(日本実業出版社)の右に出るものは、現時点ではないと思っている。(色遣いについては第4章に記載)

詳しく学びたい方は、こちらも併せて読んでみるといいかもしれない。



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