見出し画像

"Fly so high!" - 4歳と見上げた冬の白鳥

前職時代、北海道の日高出張(取材)に行くたびに「いずみ食堂」という蕎麦屋さんに連れて行ってもらっていました。近隣では知らない人はいないであろう有名なお店です。今はなかなか行けないけれど、私はここの不恰好な蕎麦が大好きでした。

オオハクチョウのV字編隊飛行

3年ほど前の出張のときのこと。いずみ食堂で編集長に、例の如く蕎麦をご馳走になり、私だけ先に店の外に出たところで、頭上に何かが迫ってくるのを感じました。背筋にちょっとした緊張が走り、空を見上げると、それは白鳥の群れの見事なV字編隊飛行でした

10羽と少し。といったところでしょうか。V字に隊列を組んで飛ぶ鳥を見るのは初めてではありませんでしたが、翼幅が2.5mを超えることもあるオオハクチョウのそれは圧巻で、空がとても近く感じました。

その日、思いもよらぬ光景に感動して以来、いつか出張の合間にオオハクチョウの飛来地を見に行きたいなと思うようになりました。ですが、その後会社を辞めてしまったので、再びオオハクチョウに会いにいくことはなかなか叶わない状況に。調べてみると、白鳥の飛来地というのは関東にもいくつかあるようでした。しかし、フリーランスとして自走し始めたばかり。フルタイムで働きながら、加えて社会人大学生になった私は日々忙殺され、たとえ関東といえど、その優先度はいつしか下がっていってしまいました。

20年ぶりのミュージアムパーク茨城県自然博物館

年末年始。イギリスに住んでいる従姉妹ファミリーが一時帰国しました。従姉妹とは子どもの頃から仲が良く、彼女が進学のため上京した後は我が家の隣に住んでいた時期もあり、一人っ子の私にとってとても貴重な存在です。かなり私の人格形成にも関与している人物と思われます(笑)。今はその旦那さんや子どもとも交流があり、4歳の従姪は反則級の可愛さでまいっています...!

1月5日。お正月休み最終日。そんな従姉妹ファミリーと叔父がミュージアムパーク茨城県自然博物館へ行くというので、現地集合で私も参加することにしました。子どもの頃、叔父によく連れてきてもらった博物館。私は20年ぶりくらいの訪問でしたが、あの頃好きだった巨大なマンボウの標本も健在でうれしくなりました。

茨城県自然博物館といえば、私の中ではマンボウ!

開館30周年の節目ということで、企画展テーマは「ミュージアムパーク 30年のありったけ」。これまでの茨城県自然博物館のことが語られています。そして、そこには博物館のロゴ制作秘話にまつわる展示がありました。なんとミュージアムのロゴの青色の下向き三角は「白鳥」を表しているというではありませんか!「え?白鳥がいるの?この辺に?」と口をついて出ました。

すると、一時期この博物館に勤めていたことのある叔父が「(隣の)菅生沼にいけば見れるかもよ。行ってみるかい?」と。そんなの、行くしかないでしょうよ!

公式サイトより引用。左上にあるのがロゴである。
https://www.nat.museum.ibk.ed.jp/

コハクチョウの家族との突然の遭遇

そんなわけで。博物館屋内を一通り見た後、5人で菅生沼に向かいました。とはいえ、4歳もいるのでそんなに遠くまではいけません。ミュージアムパークのマップに掲載されている、全長307mの「菅生沼ふれあい橋」を渡り切ったところあたりまで行ってみることに。しかし、残念ながら橋を渡り終えるまでに、白鳥を見つけることはできませんでした。
叔父によれば、もっと奥の砂利道の方まで行けば見られるかもしれないとのことでしたが、諦めてとぼとぼ来た道を戻ります。

菅生沼ふれあい橋

戻りの橋をもうすぐ渡り切るぞ、というそのときでした。突然「パオーン!」というゾウの鳴き声か、あるいはトロンボーンのような大きな音がしました。空を見上げるとコハクチョウの家族が飛んでいく姿が目に飛び込んできます。4羽だったのでV字ではなかったものの、美しい斜め隊列。
日高でオオハクチョウの飛行を見たときの感動が蘇りました。この日もまた、写真を撮る余裕はありませんでした。そのとき、歩き疲れてダディに肩車をされていたイギリス生まれイギリス育ちの4歳は、興奮した様子で「Fly so high!」と声をあげながら、満面の笑みで、白鳥のはばたきを真似し、両腕を空に向かって広げパタパタしていました。

夕暮れで出会った白鳥たち(写真あり)

さて。最後の最後に素晴らしい光景を見ることができ、普通であればいい話!としてきれいに終われるはずなのですが(笑)。いざ飛行を見てしまったら、私の中に欲が湧いてきてしまい、どうにも橋の向こうまで行きたくなってしまいました。

そこで従姉妹ファミリーと駐車場付近で別れた後、博物館に戻るとみせかけて一人で沼に戻りました。途中、パーク内でイノシシに遭遇するといったハプニングを挟みながら、橋を超えて、砂利道を進んでいきます。

思わぬハプニングである

大人にとって距離は大したことはありませんが、舗装されていない自然の中の道を1人で歩くのは、陽が落ちてくると少しどきどきします。あたりは風の音と鳥の声しかませんでした。

しばらく人とまったくすれ違いませんでしたが、小学生4人組が遊んているのに遭遇しました。こんにちは!と声をかけてくれます。普段からこの辺りで遊んでいるのでしょう。普段は自分が都会育ちだと思うことはありませんが、それを見て、私はやはり都会っ子だったのかもと、ないものねだりではありますが彼らが少し羨ましくなりました。また、彼らも帰るところだったようなので、この時間に、これから先に行っていいものか少し悩みました。でもミュージアムパークの案内では17時までに戻るようにとあったので16時過ぎくらいまでは粘ることにしました。

そんなことを思って歩いているうちに、木の枝の向こう側に白いものが見えました。白鳥です!

白いふわふわが見えた

寝ぐらに帰る前に羽繕いをしたり、水浴びをしたりしている群れでした。

「会えた!」

誰もいないのに思わず声が出ました。

かなり遠くからではありましたが、先日購入したばかりの超望遠1200mmズームカメラ(LUMIX dc-fz85d)を持っていたおかげで、写真も撮ることができました。コンデジなので一眼レフのようにきれいに撮ったり、決定的瞬間をおさえるのは難しいですが、気軽に持ち歩けるズームカメラの素晴らしさよ!という気持ち。Panasonicさんありがとう。スマホでは残せない思い出を、ひとつ写真に残すことができました。

今年は飛来数が少ないという噂(真偽のほどは不明だが、雨がすくなく沼の水が少ないとか)
手前の子は餌を探し中?
ずっと足上げている子。寒いのだろうか。しかし上げ方にクセがあるような…。
コハクチョウの名の通り、オオハクチョウよりはやや小ぶり。
陽が暮れてきた。

カメラを手に持ったまま、しばらく群れの様子を眺めていました。今は目の前で寛いでいるこの白鳥たちが、実はシベリアから遥々やってきたこと、その険しい道のりを思うと、またもやグッときてしまいました。偶然にも白鳥たちと自分1人しかいない、この不思議な空間と、夕暮れ効果が相まってのことかもしれません。

結局、この日、飛行写真を撮ることはできませんでした。ですが、あの斜め隊列の美しい光景は今も鮮明に思い出すことができます。4羽のうちの2羽はまだからだの色が灰色で、子どものようでした。力強く太い鳴き声は、親鳥が「ちゃんとついて来い」と子どもたちに呼びかける声だったような気がします。あのコハクチョウのファミリーが菅生沼での越冬を終えて、無事にシベリアに戻ることを願っています。

⭐︎⭐︎⭐︎

余談ですが、4歳が放った「Fly so high!」という言葉。この言葉には、広い意味で「目標に向かって大きくはばたけ!」といったようなニュアンスがあるそうです。それを知った今、この日はなんだか、すごく新年のはじまりにぴったりな1日だったような気がしています。

当の4歳は、石と魚と昆虫が大好きなようで、白鳥のことはいつまで覚えていてくれるかわかりません(笑)。でも、叶うならまた来年も、遙か遠くシベリアから訪れた白鳥たちを、一緒に見に来れたらいいなと思うのでした。



…さて、今年の目標はどうしようか。


いいなと思ったら応援しよう!