コロナ渦不染日記 #26
六月二十七日(土)
○午前中は日記を編集し、午後はひみつの会合に出かける。まだ公に出来ない、あるプロジェクトに関わっているのである。いずれ面白いことになったら、その折りには大々的にご報告しよう。
○夕食は、トマトとホタルイカの冷製パスタを作る。レモンで酸味を足して、涼しくしあげたものである。
○本日の、東京の新規感染者数は、五十七人。
「症状の有無にかかわらず、濃厚接触者などに積極的に検査を受けてもらった結果によるものも含まれている」との説明もあるが、ということは、無症状の感染者がもっと多く潜伏しており、検査を受けたのは氷山の一角でしかないということでもある。感染拡大の危険が去ったわけではないのであるし、一朝ことあったときの、医療機関の余裕であるとか、休業を余儀なくされた場合の生活の余裕の確保を、望むものである。
六月二十八日(日)
○兵庫県豊岡市は、かばんの国であるという。古くは奈良時代、豊岡で作られた柳細工のカゴが上納されていたらしい。以後、豊岡は柳行李の生産と販売を続け、明治時代には柳行李を西洋の鞄ふうにした「行李鞄」をきっかけに、いわゆる「かばん」にシフトしていった。昭和初期にはパルプや木綿が原料の新素材を生かしたファイバー鞄を制作、ベルリンオリンピックに赴く日本人選手団のかばんにも採用され、現代にいたるまで、本邦における最大のかばんの生産地であり続けた。近年もかばん制作を学ぶ専門学校や、短期集中のトレーニングセンターを作るなど、伝統工芸を未来に残すかたわらで、県のかばん工業組合の認定を受けた企業と製品だけが「豊岡鞄」を名乗れるといった認定制度を設け、鞄を県の産業として盛りあげてきたのである。
その、「豊岡鞄」のショップを、高円寺に見つけたのは、今年の三月のことである。ショップの店員さんが、上記のようなことを丁寧に教えてくれ、こちらの要望を聞きとり、すばらしい一品を紹介してくれた。その時は、まだ新しい仕事につくまえで、慎重を期したいときでもあったから、給料が振りこまれたら改めて買いにきます、そう言い残して店を出たときは、まさかそのあと未曾有の災禍が世界を覆い、ショップにうかがうことができなくなるとは思いもしなかったのであった。
○そのお店に、実に三ヶ月ぶりに足を運んだのである。
そこでぼくが見たのは、「六月三十日に閉店します」の文言であった。
○間に合ったのか、時すでに遅しということか、いずれにしても、これもまた「コロナ渦」の余波である。
いずれにしても、望みの鞄を注文することができた。
店頭に在庫がなく、取り寄せになったのは想定外であったが、ともかく、これで三ヶ月前の、丁寧な説明の義理は果たせたように思う。
○その後、高円寺一のSF/ホラー/ファンタジ系の古本屋『十五時の犬』へ足をはこび、こころのおもむくままに本を買いあさる。
そして、高級マンションの足下の路上に座席を展開しているやきとり屋で、やきとりやカレー味のポテトサラダをレモンサワーでおっかける一時間を過ごしたのである。
路上に席があるから、通気がよく、たばこを吸えるのである。下品ラビットとふたり、ひさびさに思うさまたばこをふかした。
○本日の、東京の新規感染者数は、六十人。
緊急事態宣言緩徐後、ついに六十人の大台に乗ったものである。
イラスト
「ダ鳥獣戯画」(https://chojugiga.com/)