コロナ渦不染日記 #88
一月一日(金)
○運命の年明く。日本の存亡この一年にかかる。祈るらく、祖国のため――ではなく、引き続き、おのれのために生き、おのれのために死なんのみ。
○布団を出たのは、午前十時ごろ。両親はすでに起きていて、お雑煮を食べている。ぼくと、相棒の下品ラビットも、それぞれ三個ずつ、モチを入れて食べる。
○新型コロナウィルスの感染流行のせいか、今年の新年は、一族も集まらず、それぞれでむかえることになった。そのために、静かな新年である。
○一族の行く先――具体的には、一族の資産である、土地と家についての話をした。どうにも気の重い話であるが、ぼくたちは長男なので、いたしかたないことだ。新年というタイミングも、あんがいちょうどよかったのかもしれない。
○今年最初の読書は、さいとう・たかを『無用ノ介』となった。
賞金稼ぎの子として生まれ、賞金稼ぎになるしかなかった男、無用ノ介。彼の冒険を描くシリーズは、時代劇の皮をかぶった西部劇であり、ヒロイックファンタジである。しかし、凡百のエンタメ自体劇と異なるのは、主人公の「無用ノ介」の、徹底した孤独感である。そもそも、名前からして、他人に承認されるもののそれではない無用ノ介は、ひとり、世界をさすらうしかない。そして、それは、実は知性生物に普遍的な生き方である。
「死んで、はじめてやすらぎをおぼえるのは、ちくしょうのすることじゃ……。生あるうちに、やすらぎを知る、それでこそ、人間のすがたなのじゃ……」
――さいとう・たかを「天にさけぶ無用ノ介」(『無用ノ介』)より。
だが、人間も、他の知性生物と同様、畜生なのである。むしろ、「個」というものが、知性生物をして、生あるうちにやすらぎを知ることを不可能にしているかもしれない。だが、それでもなお、人は「個」とともに生きざるをえない。無用ノ介の片目は、そうした人の生を見据えている。
○WHOが、アメリカの製薬会社「ファイザー」らの開発した、新型コロナウィルスのワクチンを、緊急使用リストに加えたという。これによって、途上国が、自国で緊急使用を承認する際の目安となるということだ。
年明け早々、気前のいいニュースである。なにごとによらず、前進するのはよいことだ。
○本日の、全国の新規感染者数は、三二四七人(前週比-五八四人)。
そのうち、東京は、七八三人(前週比-一〇一人)。
○この日記は、山田風太郎『戦中派不戦日記』を参考にしている。
だから、この日記を書き始めた「四月七日」を一区切りとする――正確には、四月七日の前日までを。ということは、この日記は、あと四ヶ月は続く。そして、その期間の過ぎても、おそらく、この日記を書き始めた理由である、新型コロナウィルスの感染流行が、収まることはないだろう。
引用・参考文献
イラスト
「ダ鳥獣戯画」(https://chojugiga.com/)