🏃私のワークライフバランス🏃

2024年12月20日 14:48

慶應義塾大学　青木義満

1．ワークライフバランスの重要性

　皆さん，こんにちは．慶應義塾大学の青木です．昨年に引き続いて執筆の依頼を頂きました．研究活動に関するTipsは様々，素晴らしい記事が共有されているようですので，今回，ワークライフバランスについて，ということで，私なりに書いてみたいと思います．少々お付き合いください．
　現代社会において，仕事と私生活のバランスを保つことは，言うまでもなくとても大切なことですね．皆さんきっと，これらの調和をとりつつ日々の生活を送っておられることと思います．
　私の場合，ワークライフバランスの柱となっているのは，趣味であるランニングと珈琲です．特にランニングは，単なる運動としてだけでなく，自分自身の考えを整理したり，新しいアイデアを得たりする貴重な時間となっています．本記事では，45歳を過ぎてから始めたランニングや珈琲といった趣味を通じて学んだ教訓が，どのように研究活動や人生全般に影響を与えているかを，自分の体験を交えながら紹介していきたいと思います．

2．「ランニング」：体力と精神力を鍛えつつ，全てをリセットする

　自分にとってのランニングは，単なる体力づくりのための運動ではありません．むしろ，それ以上に精神力を鍛え，思考を整理するための時間として機能しています．毎朝のランニングは，規則正しい生活リズムを維持しつつ，自分自身と向き合う貴重な時間です．特に，長距離を一定のペースで呼吸を整えながら進む過程では，あえて何も考えない"無"の状態を作ることも出来るし，考えごとをして様々な思いを巡らせることも出来ます．そして，毎朝，走り終えると，心と身体の両方がリセットされた状態に整い，まっさらに気分良く一日の活動をスタートすることが出来ます．

　ここで，自分が尊敬するランナーさんから伺ったお話を自分の経験談なども交えて紹介したいと思います．これは一般市民ランナー向けに語られたことではありますが，ランニングやスポーツのみならず，研究活動，日常生活，仕事，人生において参考になる内容だと思います．皆さんのアドカレの記事や活動を日頃，見させていただいている中で，cvpaper.challenge の考え方にもかなり通ずるものがあると感じましたので，この場を借りてお伝えしたいと思います．

①目標は大きく設定

　自分の場合，ダイエットのために始めたランニングがいつしか自分の生活に欠かせない趣味となり，いつしか仕事と並ぶ大きな生き甲斐となりました．そして，走り始めて半年くらいで，フルマラソン完走者の上位3％と言われる3時間切り（サブスリー），を目標として設定しました．これがそんなに大きな目標かどうか？はさておき，ともかく5km走るのがやっと．の当時の自分からは想像も出来ないレベルの目標であったことは間違いなかったと思います．50〜60代でも，サブスリーを達成されておられる方が周囲にいらっしゃったことも，この目標設定をした大きな理由です．5年間走り続けたことで，今はその目標達成まで，あと少しのところまで来ています．目標を大きく設定することによって，努力の結果得られるであろう最高到達点の高さが違ってくると思います．目標を大きく設定しつつ，中間目標，小目標を現状の自分を分析して適宜設定，クリアしていくことが自己成長に繋がります．

②自分を信じる：「信は力なり」

　自分には無理だと決めつけない，思わない．まずは，もしかしたら自分でもできるのでは？程度から始めても良い．出来ないと決めつけない．信じることができれば，努力を続けられるし，必ず目標に近づいていき，向上していく．そして，より良い方法論を求めたり（探究），色々やってみたり（実践），を意欲的に継続することができる．

③やり抜く覚悟を持つ：「継続は力なり」

　大きな目標を立てて，自分を信じる．そして，目標達成に向けて，やり抜く覚悟を持つ．覚悟をもってやったら，不思議と以前は大変だ，と思っていたことも大変でなくなってくるもの．自分の場合，暑くても寒くても，毎朝4時に起きて犬の散歩から始めて身体を温め，5時からは自分のために走る．これを5年間，継続してもうちょっとで2万km，これは，ほぼ地球半周になるそうです．大抵このことを人に話すと驚かれるか，変人だと言われます（笑）．でも，これは自分にとって，何てことはない，あくまで日常のこなすべきルーティンなのです．苦ではなく，楽でもなく，やって当たり前のこと．やる気になったらやろう，朝起きて気分良かったらやろう，天気良かったらやろう，という，天候やランダムな感覚に任していては，決して何事も続かないのです．理由があるから人はやる気になるし，実際にそれをやることができる．覚悟を持てば，行動の理由が明確に設定されているので，意欲的に取り組むこと，それを継続することが出来るのだと思います．

　この考え方は，まさに以下の「大雨の感」に表現されていますので，引用しておきます．

大雨の感と云ふ事あり．
途中にて俄雨に逢ひて，濡れじとて道を急ぎ走り，軒下などを通りても，
濡るる事は替わらざるなり．
初めより思ひはまりて濡るる時，心に苦しみなし，濡るる事は同じ．
これ万づにわたる心得なり．

・・・「葉隠入門」　三島由紀夫著

リクエスト頂いたので，参考までに，私のこれまでの全レースの記録を載せておきます．

2021/10/23 : 新横浜鶴見川マラソン大会　10km　40分55秒
2021/12/1：マラソンフェスティバル in 国営昭和記念講演WINTER　ハーフマラソンの部　1時間28分11秒
2022/12/4：第17回湘南国際マラソン　フルマラソン　3時間53分28秒
2023/3/5：東京マラソン2023　フルマラソン　3時間13分32秒
2023/12/3：第18回湘南国際マラソン　フルマラソン　3時間22分6秒
2024/1/28：第71回勝田全国マラソン　フルマラソン　3時間7分58秒
2024/3/2：多摩川中央公園parkrun　5km　19分9秒
2024/3/23：第44回武蔵陵マラソン大会　10km　39分31秒（45歳以上優勝）

これまでの出場レースと記録

第44回武蔵陵マラソン大会
東京マスターズ陸上競技連盟に所属し，人生の先輩方と切磋琢磨
5歳刻みで，記録を競い合う

3．「珈琲」：集中力と探究心を刺激する楽しみ

　珈琲は飲むのは好きでしたが，自分で淹れたり，カフェをめぐったりするようなことはありませんでした．家の近所のスーパーに買い物に行った際，通りがかりでいい感じのカフェが新しく開店しているのを知り，試しに飲んでみたところ，これが美味しい！聞くと，世界的に有名なバリスタとのこと．それから珈琲に興味が沸いて，コロナ禍であることを良いことに，ちょくちょく通うようになり，カウンター越しにマスターに色々と教えてもらって，自宅で豆から淹れるようになりました．そのカフェで，2日連続で珈琲の淹れ方を学ぶ講座を受けることが出来ました．初日は，座学で1時間半，珈琲の物理，理論を学習．2日目は，実践編．実際に，私を含めた数名の受講者が，それぞれ珈琲を淹れて見て，飲み比べてみると，それぞれ味が違う！同じ分量，同じ淹れ方のはずなのに．．．マスター曰く，淹れ方にその人の個性が出て，味わいも変わってくる，と．これは面白い．また，豆の挽き目，お湯の温度，量，抽出時間など，様々なパラメータがあるのですが，できる限り単純化しつつ，パラメータの最適化を行う作業は，まさに探求の過程であり，奥が深いと感じました．
　さらに，一杯の珈琲を丁寧に淹れる時間は，忙しい毎日の中で「スローな時間」をもたらし，リフレッシュのひとときとなっています．この時間を通じてリラックスした後，集中力を高めた状態で仕事や研究に取り組むことができています．大学の居室にも，珈琲セットを用意していますので，お近くにお越しの際には是非，お立ち寄りください．到着時間に合わせて淹れたての珈琲でお迎えします．

　参考までに，私のよくありがちな平日，1日のスケジュール（リモートワークの日，大学出勤日）も掲載しておきます．

4．研究室におけるワークライフバランス

4.1 良い研究は，身体と心のバランスを整えることから（研究室朝ラン）
　研究室でも，毎年行われている理工学部の研究室対抗ソフトボール大会への参戦，朝のランニングなどを行っています．研究室の全体ミーティングが水曜日午前にあり，その前に有志で集まり，キャンパスの周辺を走っています．皆さん若いので，走り始めてちゃんと継続すればどんどん速く，長く走れるようになります．ここ数年で，フルマラソンの完走者が多数出ていますし，フルマラソンの距離をリレーで繋ぐイベントでは，100チーム近くいる中でなんと優勝！新しくなった国立競技場で，優勝インタビューを受けたのは，一生の想い出になりました．この朝ランは，健康促進は勿論ですが，走りながらの雑談を通して，普段と違ったコミュニケーションが出来る貴重な時間となっています．身体と心の状態を整えることの重要性を伝えるためにも，この活動は継続していきたいと思っています．
　毎週水曜，朝8時に矢上キャンパススタートですので，参加希望の方は是非，ご連絡ください！

4.2 社会人博士のススメ
　青木研の大きな特徴の1つに，博士学生，特に社会人博士が多数在籍していることが挙げられます．今年度在籍している博士学生は12名，そのうち8名は社会人博士です．また．これまで青木研から輩出した博士15名のうち，社会人博士は8名もおります．ちょうど年末を迎え，次年度に博士課程に入学して学位取得に挑戦したい！という社会人の方からの相談も増えています．身近な先輩が社会人博士として，しっかり学位を取得して色々なところで活躍している，その姿が見て，自分もやりたい，自分にも出来る！と思えることが，人数増加の要因としてはとても大きいと感じます．
社会人博士としての入学は，主に3パターンあります．現在，研究室に在籍している社会人博士8名の内訳は以下の通りです．

①青木研で修士修了後，就職と同時に博士課程入学　　3名
②青木研で修士修了後，就職．その後，博士課程入学　4名
③他大学修士修了後，就職，その後，博士課程入学　　1名

①の修士出て，間をおかずに就職と同時に博士進学，というパターンは，私が慶應に来たころは，前例が無く，結構まわりから色々と言われたのですが，今では当たり前のように受け入れられています．私立大では，研究室に教員が1人，というケースが殆どだと思うのですが，その中で，博士学生に研究室を牽引する役割を担ってもらいたい = ずっと研究室にいて後輩の面倒を見てくれる，というのを期待する先生が多いんですね．その気持ちは分かりますが，就職と同時に博士進学が出来ると，純粋な課程博士（在職でない）が減ってしまう！という意見が出てきた時には，ちょっと驚きました．．．
②のパターンも多く，最近では就職後1〜3年以内に，博士入学で戻ってくることが増えています．やはり，進歩の速すぎる分野ですので，ブランクは出来るだけ短い方が良い，というのは言うまでもありません．
③のパターンは，学会等の繋がりから青木研を志望してこられる場合や，共同研究をしながら博士学位を取得するケースなどがあり，これも最近，問合せが多いです．この場合には，青木研の雰囲気や環境，私の考える博士学生像などを良くお伝えした上で，慎重にご判断頂いています（私も充分検討します）．
　会社で働きながら，家庭がありながら，限られた時間を使って博士の学位を取るというのは容易なことではないと思いますし，大変覚悟がいることだと思います．その中で，リモートワークの普及やワークライフバランスの重要度が唱えられるようになってきたのは好材料だと思いますし，私としても最大限，それぞれの方の状況に応じた対応をしていきたいと考えています．皆さんそのあたりをとても上手くこなして，立派に学位を取って社会で活躍されています．社会人博士学生間の情報交換の活性化，研究室として可能なサポートの拡充など，常に考えておりますので，もし興味のある方はご相談ください．
　また，現役の博士学生のうち半数以上が，産総研との連携，cvpaper.challenge の経験者であることも忘れずにお伝えしておきます．これらの活動は，やはり博士進学への大きな原動力となっていることは間違いありません．
　ちなみに，cvpaper.challenge主宰の片岡裕雄さんは，2014年度に博士学位を取得されています．cvpaper.challengeの活動の一部を，このような記事執筆で担えるのはとても嬉しいことですし，年に一度，自分を振り返る大変良い機会となっています．

5. おわりに

　私にとって，ランニングと珈琲という2つの趣味は，日常に欠かせない存在であり，活動を支える大切な柱になっています．ランニングで体と心を整えつつ，目標達成へ向けて楽しみながら努力を継続する一方，珈琲は探究心を刺激し，集中力を高めることで，日々の仕事に新たなエネルギーを与えてくれます．

　これらの趣味から得た教訓は，仕事や研究だけでなく，人生そのものに応用できる普遍的なものだと感じています．目標を大きく掲げ，自分を信じ，やり抜く覚悟を持つこと．そして，忙しい日々の中でも，心をリフレッシュし，充電する時間を確保すること．日々多忙な皆さんにとって，趣味やご家族との時間を確保することは大変なことかも知れませんが，それらのバランスを見つけることが，持続的な人としての成長と充実した生活には必要不可欠であると思います．

　と，色々と書きましたが，実はランニングも珈琲も，子育てがひと段落してから見つけた趣味だったりします．それまでは，週末はほぼ子供たちのスポーツの応援を楽しんでいました．これはこれで，その時にしか出来ないとても貴重な大切なものでした．限られた時間の中で，人生のその時にしか出来ないことを思い切り楽しむ，この歳になってくるとそれが如何に大事なことかに気づかされます．

　今の皆さんにとって，研究や仕事以外で楽しめるもの，大切な存在，貴重な時間，とは何でしょうか？忙しい日々の中でも，自分らしい時間を見つけ，充実した研究活動と人生を送って頂きたいと思います．