息子くんとバナナオレ
知的障害の息子は、事業所の工賃を1週間に1度支給してもらいます。1度に支給されると一気に使ってしまうからです。
息子が買い物をするのは本だけです。それ以外の買い物はしません。将来は食べ物を買うことができずに飢え死するかもと心配していました。
休みの日、息子は一人で古本屋へ出かけます。昨日も帽子をかぶり、水筒と塩分タブレットを持たせて、息子を送り出しました。
ところが帰宅した息子は、バナナオレのパックジュースを持っていました。
・・・
「どうしたの」
言葉が話せない息子は、ニタニタと笑います。
「誰かにもらったの?」
首を振る
「自分で買ったの?」
うなずき。指で1と2とアピールしました。
「120円で自分で買ったの?暑いから喉が渇いたの?」
うんうんと何度も頷きました。
「じゃあどうして持ってかえってきたの?飲まないの?」
息子はニタニタ笑いながら、バナナオレを冷蔵庫に入れていました。
・・・
息子は1人で自動販売機でジュースを購入するなど出来ないと思い込んでいました。私が想像もできないことを、息子はするりとやって退けました。とても嬉しい出来事でしたが、しかしなぜジュースを飲まないのでしょうか。
そこが大きな謎でした。
今朝、事業所に行く準備をしていると息子は、昨日のバナナオレのジュースを冷蔵庫から取り出し、しっかりと握りしめていました。
「持っていって、事業所で飲むの?」
息子は大きく頷きました。
「もしかしてお友だちもジュースを買って飲んでいるのが羨ましかったの?」
てへへへとニコニコ笑顔で、バナナオレをリュックにしまい込み出ていきました。
みんながジュースを買って飲んでいるから、羨ましいから自分も買ってみたいという心理でしょうか。集団の中で生きることは、出来ることを増やしていく機会になるのだと思いました。
・・・
先日、区分認定の調査員さんが息子を見て開口一番「あなただったの!!毎日信号のところで会うよね。いつもニコニコ笑っているよね。」と言いました。毎日出勤時に会うようです。なんせ身長182センチの息子はとても目立ちます。
支援計画担当さんからも「息子くん、ちゃんと信号を守っていたよ。えらいね。」
友人からは「息子くんを見かけたから、貴野さんに連絡しようと思った。」
息子の保育園時代のお友だちは「おばちゃん、あそこに1人で立ってたよ」と教えてくれることもありました。
私の知らないうちに、息子のことを認知してくれているのを嬉しく思いました。これが地域コミュニティってものかもしれません。
事業所の人間関係も、地域で息子を知る人も、私はそのすべてを知りません。
それは息子が24年も生きてきた証かもしれません。息子も少しずつだけど大人になっているのだと思いました。
本当にありがたいことだと、息子を知っている私の知らない人たちに感謝する、海の日の朝でした。