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さよならスーパースター

タイトルはくるりの「スーパースター」という楽曲から拝借した。

今日はあるスーパースターが広島カープを去ると聞いて、いてもたってもいられなくなって筆を走らせている。

そのスーパースターの名前はブラッド・エルドレッド

今回去就が決まったのは彼だけではないのだが、とにかく彼についてを語らせてほしい。

彼は、とにかく特別な存在だからだ。

私が以前ほど野球を熱心に見なくなったのは、彼が一軍から落ちたことがきっかけだった。

エルドレッドは、私の野球への憧れの象徴だったのかもしれない。
(もう一人、梵英心という選手も好きだったのだが、彼に関してはもっとなんというか、複雑な気持ちだった。)

ブラッド・エルドレッドとは?

ブラッド・エルドレッドは、アメリカのフロリダ州出身で、今季まで広島カープに所属していた。あの松坂大輔と同い年の助っ人外国人だ。

2m近い巨体による、ぶおんぶおんという音がテレビにまできこえてきそうな、豪快なスイングが特徴的で、当たれば一直線にスタンドインするような「当たればHR、外せば三振」というイメージの強いバッターだ。

だが、ここ数年の彼は決してそういう訳でもなかった。監督が野村謙二郎さんから緒方孝市さんに変わった頃からだろうか。
彼はHRを打ちたいという気持ちを我慢して、チームのための「つなぐバッティング」を強いられることとなった。

おまけに、彼を取り巻く環境はいつも厳しかった。
緒方監督は、あからさまに「彼の後継者」を育て始め、育成の機会を設けるために、何度もエルドレッドを冷遇していた。

おそらく、干すつもりだったのではないだろうか。

それは仕方ないことだ。停滞に身を任せて新陳代謝を怠った球団がどうなっていったかは、ここ数年のカープ優勝の軌跡を辿っても明白なのだ。

だが、エルドレッドはそれでも努力をやめなかった。ひたむきだった。
ひたすらに努力を重ね、チームに適応しようと必死に自分を変えてきた。
諦めなかった彼の姿勢は、規定打席には到達しなかったものの、今季の春の彼を覚えている人ならばカープファンの誰もがわかっていることだろう。

だが、わかっていようがそれは、ファンであるわたし達にとって、とても辛い光景だった。
きっと、本人にとってはもっと辛かっただろう。
彼にとっての、その日々の辛さや悔しさは、
私たちには想像できない。
いや、エルドレッドは案外能天気なところがあるので、気にしていなかったのかもしれない。

結局「想像できない」が正解なのだ。

そういった真実を、野球という娯楽はほとんど教えてくれない。

エルドレッドはいつも全力


そんなエルドレッドが私たちに魅せてくれたのは、豪快なスイングだけではない。
エルドレッドはいつも全力疾走だった。
2m近い上に、100kgはゆうに超える巨体である。

そんな彼はいつも、一塁に至るまですごい勢いで走っていた。
砂埃が捲き上るのではないかという勢いである。
どすどすと音が聞こえてきそうな走塁だった。
どう考えても走塁に長けたタイプの選手ではないのにも関わらずだ。

しかも、盗塁企図までした。盗塁した年もあった

私たちは、エルドレッドのそんな一生懸命さが大好きで、彼に心を奪われた。

インハイ・アウトロー、そして夏が苦手

エルドレッドの魅力は「得意・苦手がハッキリしていること」でもある。

彼は春男だった。
シーズン開幕はとてつもなく調子がいいのだ。
ホームラン王に輝いた年も、暑さが本格的になるまではすこぶる調子が良く、ガンガンHRを飛ばしていた。

だが、暑くなってくると、成績が落ちてくる。
今まで見ていた球を振るようになってしまい、三振が増えてくるのだ。

インハイとアウトローのボール球に翻弄されてしまう。

そのような時、エルドレッドはイライラしてヘルメットを投げていた

その癖と一緒に、私たちは「あぁ~」とため息し、次の日の彼の成績に祈りを捧げていた。

私たちはエルドレッドが大好きだった。
エルドレッドを愛していた。
だから、明日は打てますように、とエルドレッドの活躍を祈らずにはいられなかったのだ。

終わりに

私が現地ではじめて見たホームランは、2014年オープン戦の西武ドームでのエルドレッドのものだった。
彼の振りぬいたバットによって、白球はライナーを描き、まるで隕石のような勢いでスタンドに入って行った。

私はその瞬間から、彼に魅了されていた。

エルドレッドと出会って、とても短い四年間だった。
彼が今後どこで何をするのか、今はわかっていない。
まだまだ彼の去就に関してはわからないことだらけなのだ。

だが、私にとって、一打席一打席にあれほど一喜一憂する選手は、もう今後現れないだろう。

どうか、まだ現役を続けてほしいと祈っているが、この先を決める権利をもつのは、エルドレッドのみである。

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