シェア型書店から卒業します(僕がシェア型書店をやめた理由)
*こちらはブログの記事を転載した文章です。
2022年11月からシェア型書店で棚主として自分の売り場を持ってきました。
しかし2024年いっぱいで撤退しました。今日はその理由について書いてみようと思います。
1)そもそもなぜシェア型書店の棚主になったのか?
そもそも棚主になったのは、常時自分の著書が置いてある書店(ポップアップストアのようなもの)が欲しかったからです。せっかく新刊を出しても、多くの場合、本は書店に数ヶ月しか置かれません。日本における書籍の出版点数は、毎年7万点にも達します。1日平均で約200点が出版されている計算です。どうしても回転が速くなり、よほどのベストセラーやロングセラーでない限り、本が置かれ続けることはなくなります。
しかし人の目に留まらない限り、本は売れません。だからいつも自分の本が置かれている書店が欲しかったのです。
2)ラインナップの変化
最初のうちは自分のお気に入りの蔵書と自分の本を混ぜて置いていました。しかし時が経つうちに、他の棚主との差別化の必要を感じるようになりました。
これが撤退へとつづく一本道に続くとは思わずに、僕は棚を自分の本やZineだけで埋めることにしました。
3)そもそもシェア型書店は「推し活」である
棚主になって初めて見えて来たのですが、シェア型書店は「ビブリオバトル」のようなもので、自分のお薦めしたい本を並べるのが基本です。要は「推し活」ですね。
僕が参加していた「ローカルブックストアーkita.」のある月の棚別の売り上げを見せてもらったことがありますが、上位を占めているのは特定のジャンルで固めている棚でした。
逆に僕のように自著で固めている棚は、一様に苦戦しています。作家なりクリエイターなりが自分の本だけ並べた場合「売り上げ=0円」という場合も珍しくありません。
高円寺の「本の長屋」、埼玉は川越の「つまずく本屋ホォル」、神保町の「パサージュ」などのシェア型書店に偵察に行きました。中でも有名店の「パサージュ」は特殊です。人気作家が自らの本を並べている棚が散見されるからです。彼らの場合は少し事情が異なるのかもしれませんが、基本的な傾向としてシェア型書店は「推し本」を並べるところです。
園芸にたとえるならば、シェア型本屋は寄せ植えでしょう。「推し活」の花を咲かせた本棚が、きれいに並んでいるのがシェア型本屋です。
対する独立系書店の棚は植物園でしょうか。フロア全体でひとつの生態系を形成しています。
「寄せ植え」と「植物園」のたとえは、照明の観点からもふさわしいように思えます。
寄せ植えたるシェア型書店の照明は明るく健康的で、よく日の当たる花壇に似つかわしい傾向があります。逆に独立系書店における照明はどこか抑え気味で陰を感じさせる一角があり、隠花植物をも歓迎する度量があります。
シェア型書店は健康的すぎる空間のせいか、沈思黙考しながら本を渉猟するには不向きだと感じてしまいます。結局シェア型書店におけるお客様とは棚主なので、「こんな明るくておしゃれなところに、推し本を並べてみたい!」と思わせることが大切なのでしょう。
逆に真の本好きならば、たとえば神保町の「東京堂」のような、落ち着いた空間を求めるのではないでしょうか?
そんなこんなで「自分の本の専門店」をシェア型書店でやるのは、ミスマッチだと感じるようになりました。
4)でも「Zineフェス」や「文フリ」、「一箱古本市」がある
昨年、何度か「一箱古本市」や「Zineフェス」に出店してみました(タイミングの問題などで「文フリ」には参加していません)。東京圏であれば、ほぼ毎月本を売るイベントが開催されていますから、参加しない手はありません。
シェア型書店と異なり、お客さんと直に接して話せるのはやはり大きいと言えます。Zine友ができるのも良い点です。Zineのイベント出店者はわりと「仲間買い」してくれますが、シェア型本屋のオーナー同士が「仲間買い」することは、ほとんどないはずです。お客さんが買ってくれるのはもちろん嬉しいですが、「仲間買い」はより励みになります。当然売り上げにも貢献してくます。
シェア型本屋において、しばしば棚主が実体験として吐露することですが、一部の人気出店者を除いて売り上げは上がりません。賃料の方が高いくらいです。人気出店者であっても、仕入れ値を考えると利益が出ているといえるかどうか。
それでもコミュニティー機能など、別の部分で満足感が得られればよいのですが、その点に関してもイベント出展の方が充実感が得られると断言できます。イベントは祭り。店頭販売は日常。関わるのであれば、非日常である祭りの方が楽しいに決まっています。
「SNS時代の作家は読者との接点を増やした方が良い」と言うのは周知の事実。確かにその通りです。だからこそのシェア型書店参加でした。
僕が参加していた「ローカルブックストアーkita.」はイベントも行えたので、自分で企画してイベントも数回行いました。現在暮らしている横浜市には、著者がイベントを行うのに手頃な場所がありません。そういう意味でも得難い場所でした。しかし僕が新刊を出すのは数年に一度で、そうそうイベントを企画する機会もありません。
こうして考えていくと、シェア型書店から卒業して「Zineフェス」などに注力する方が、「書き手兼売り手」の場合は幸せになれるように思えてきました。
5)結論
結局のところ棲み分けの問題で
自分が関心を持っているジャンルを推していきたい……シェア型書店
自分でつくった本を売りたい……イベント出展
という風に、使い分けをしていくべきだと思います。
じつに当たり前のことを書いているように思ったかもしれませんが、シェア型書店の記事は「本屋を始める人のはじめの一歩」的な切り口ばかりで、実際にやってみてちがうんじゃないかと感じました。「シェア型書店=棚主の自己表現の場」という分析も、的を外しているように思えます。
繰り返しになりますが、シェア型本屋は「推し活」だと考えた方がしっくりきます。
だから「お試し本屋」的な感覚で参加すると、なんだかもやもやするんじゃないでしょうか。
ざっと走り書きしてみました。
今日の記事は以上です。