上手い文章とは翻訳しやすい文章。どういう意味?
●上手い文章とは?
この記事を読んでいるあなたは、きっと「上手い文章を書けるようになりたい」と考えているにちがいない。
では、あなたはどんな文章を「上手い」と感じるだろうか?
一昔前なら「上手い文章」とは、「優美な筆致」あるいは「文学的で華麗な表現や格好いい言い回しを駆使した文言」ということになったかも知れない。
しかし読書や執筆(発表)の主戦場がネットに移ってから、「上手い文章」の意味するところは変わったと思う。(*)
華麗で重厚な言い回しより、誰が読んでも理解しやすく、すっと頭に入ってくる文章が良い文章の基準とされるようになったのだ。
これは普段本を読まない人、隙間時間に暇つぶしで記事を読む人、検索からの流入者(読書したいのではなく純粋に情報が欲しい人)などが増えた結果だろう。つまり「実用本位なテキスト」の需要が増えているのだ。
では、実用に耐える「分かりやすい文章」は、どうすれば書けるのか?
●外国語から日本語を考える
ライター、あるいはブロガーをやろうと考えている(または既にやっている)方の多くは大学出だと思う。
と言うことは、ある程度英語やその他の外国語が出来るということになるだろう。
ここで学生時代を回想して欲しい。和文英訳の課題を目にしたとき、訳しやすいと感じたのはどんな文章だろうか?
1)短い文章
2)シンプルな文章
3)専門用語や聞き慣れない言葉が出てこない文章
4)主語・述語・目的語・対象が分かりやすい文章
5)何が言いたいのか主張が明確な文章
ざっと考えて、上に上げたようなものが「分かりやすい文章」ではないだろうか?
上記1)〜 5)をもうちょっと掘り下げて考えてみたい。
1)短い文章
「短い文章が分かりやすい」という点に関して、異論はないと思う。
短い文章とは、言い換えれば文字数の少ない文章だ。余計な要素がないので分かりやすい。
さらに別のいい方をすると、短い文章とは複文ではなく単文だということになる。
英語で言うと I think that...のような二重構成(入れ子状態)になっていない構文だ。
短いセンテンスが好んで多用されるのは、ハードボイルド小説の世界だ。たぶんヘミングウェイあたりが元祖なのだと思う。
なぜハードボイルド作家が短いセンテンスを多用するのかというと、スピード感や緊迫感が醸し出され、テキストのテンションが高まるからだ。
アクションものの小説などを開いて確認するといいだろう。
これは逆に言うと、スローダウンさせたい箇所では長めのセンテンスを少し増やした方が良いという話でもある。
2)シンプルな文章
余計な修飾語を外していくと、テキストはシンプルになる。これは風景や人物を描写するとき、修飾語に必要以上に文字数を費やさないという意味にもなる。かなり語句を厳選しなければならないということだ。これが結構難しい。
対象を描写するとき、僕たちは比喩表現や慣用句に頼りがちだ。
しかし日本語特有の表現は、翻訳が難しい場合が多い。
・(おいしくて)あごが落ちる
・油を売る
・株が上がる
・首を突っ込む
・口車に乗る
などは翻訳が困難だ。
逆に日本人であっても国語力が弱い人にとって、躓きになることもあるかも知れない。
(実際「油を売る」という表現、ウェブ上で見かけませんよね?)
またそれと気付かず、日本的になっている比喩表現もある。
実体験で驚いたのは「ガラスのように透き通った音」だ。ドイツ人(複数)には通じなかった。
(彼らは「ガラスの音は高い音で、透明な音というのは意味が分からない」と言っていた)
逆に比喩表現であっても体感に根ざしたものや色彩表現であれば、許容されやすいと思う。
つまり
・リンゴのように真っ赤な
・氷のように冷たい
くらいであれば万国共通なので、日本語で書くときも読み手の負担が少ないと思う。
3)専門用語や聞き慣れない言葉が出てこない文章
専門的な内容の記事であれば、専門用語が出てくるのは避けられない。
しかし聞き慣れない言葉は少なければ少ないほど良い。
聞き慣れない言葉、とくに外来語は少ないほど良いと個人的には思っている。
しかし外来語のなかでも業界用語は「仲間意識を高める」作用があるため、一概に否定することは難しい。
4)主語・述語・目的語・対象が分かりやすい文章
しばしば指摘されることだが、日本語は主語・述語・目的語・対象のいずれかが省略されても意味が通じる言語だ。
しかしこれらがないことで、翻訳しづらいケースもままある。
言い換えると「きっとこういう意味だけど、正しいかどうか、ちょっと確認しておきたい」と思える文章に出会うことも珍しくない。
これは読み手にストレスを与える。
目的語や対象が不明確な文章がネット上には多いと、個人的には感じる。
5)何が言いたいのか主張が明確な文章
主張が不明確な文書は、以下のふたつが大きな原因になっていると思う。
・一番肝心な部分と、枝となるパートの軽重が明確ではない
・慎重になりすぎて断定を避け、回りくどい表現を重ねた結果、主張が不明瞭になる
初心者が陥りがちなのは、慎重になりすぎて回りくどい表現を重ねた挙げ句、主張が不明瞭な文章である。
たぶん「主張には根拠が必要」などという誰かの言葉に縛られ、断定を避けた結果こうなるのだと思う。
不明瞭になるのを避けるため、最初に結論を書いてしまうくらいが良いのかもしれない。
●外国語から逆算して、翻訳しやすい日本語で書く
総論として「自動翻訳しても OK」というくらいのレベルを目指して書くと分かりやすくなると思う。もちろん100%自動翻訳できる文章にすることは無理がある。しかしそれくらいを目指す方が、すっきりしたテキストにしやすいはずだ。
つまり上手い文章を書くコツは
外国語から逆算して、翻訳しやすい日本語で書く
これに尽きる。
●初心者は、まずシンプルを目指す
ここまで読んだ方は「短い文を心掛けろと書いているくせに、お前の書いた文は長いじゃないか!」と、もっともな突っ込みを入れたくなっていると思う。
ライター経験が浅かったころの僕は、短いセンテンスを多用して書いていた。しかし短いセンテンスばかりだと、リズムが単調になる。このリズム問題を解消するために、否が応でも長いセンテンスを折り込む必要が生じてくる。
ここに至ってようやく、先述の記事「文章の上手い下手って結局リズムでしょ?」が活きてくる。
しかしリズムを意識しながら書くのは、初心者にはハードルが高い。
最初のうちはリズムは一旦脇に置き、シンプルさを念頭に書いた方が良いと思う。
*ここまで書いてから思い出したが、90年代初頭の時点でよしもとばななが「ときどき文学的で可憐な表現が書けてしまうことがあるんですが、速攻でボツにします」と書いていた。ネットが登場する前の時点で、既にこの「シンプル路線」は存在していたのだと思う。