中国の「外商投資安全審査弁法」の公布
外商投資の安全審査に関する新たな法律である、「外商投資安全審査弁法」(以下「本弁法」という。)が、国家発展改革委員会及び商務部より、2020年12月19日に公布され、2021年1月18日に施行される予定である。
本弁法の目的は、外商投資の安全審査業務の規範や正確性、透明度をさらに高め、外商投資活動への影響を可能な限り軽減し、外国資本の投資意欲と合法的な権益を保護することとされている。
以下で、本弁法の主な内容を紹介する。なお、特段の記載がない限り、引用の条文番号は本弁法の条文番号を指す。
1. 立法の背景及び根拠
米国、EUなどを始めとした世界各国・地域が外資投資に関する安全審査制度の整備を進めている中で、中国も、対外開放による経済発展を促進するとともに、外商投資活動による国家安全への影響を懸念し、外商投資管理制度の改革を行っている。
本弁法は、2011年以来の外商投資安全審査の実務 をまとめたものであり、また2020年1月1日より施行されている、「外商投資法」及び「外商投資法実施条例」に記載のある、安全審査制度の具体的な内容を示したものである。
制定の根拠は、本弁法第1条に、本弁法は「外商投資法」、「国家安全法」および関連法律に基づき制定する、とある。具体的には、「外商投資法」第35条には、外商投資安全審査制度を構築し、国家安全に影響をもたらし、又は影響をもたらし得る外商投資に対して安全審査を行う、の規定である。尚、「国家安全法」第59条にも同主旨の規定がある。
2. 担当当局
担当当局については、本弁法第3条に、外商投資安全審査作業組織(以下「作業組織」という。作業組織は一種の作業部会と解される。)を設立するとある。尚、作業組織の事務所は国家発展委員会に設置され、日常業務を担当するのは、国家発展委員会、商務部とある。
なお、国家発展委員会は、「外商投資法」の公布直後に、2019年第4号公告 を公布し、外商投資安全審査申告は国家発展委員会が受付けるとした。これにより、外商投資に関する安全審査の窓口は、従来の商務部から国家発展改革委員会へ変更されたのである。
3. 安全審査の範囲
安全審査の対象となるのは、次に掲げる範囲内の外商投資である(4条1項)。
(1) 軍需産業、軍需産業の関連産業等、国防安全にかかわる分野への投資、および軍事施設と軍需産業施設の周辺地域における投資。
(2) 下記の分野への投資であり、かつ投資先企業の実質的支配権を取得した場合。
国家安全にかかわる重要な農産品、重要なエネルギーおよび資源、重大技術装備の製造、重要なインフラ、重要な運輸サービス、重要な文化的産物・サービス、重要な情報技術およびインターネット製品・サービス、重要な金融サービス、コア技術その他の重要な分野。
留意点としては、(1)は、出資比率に関する制限はないが、(2)は、「実質的支配権を取得した場合」に限られている点である。また、同条第2項は、「実質的支配権を取得した」ことの判断基準を以下のとおり具体的に定めている。
① 外国投資者が該当企業の50%以上の株式/持分を保有する場合
② 外国投資者が保有する該当企業の株式/持分は50%未満だが、それが保有する議決権が董事会、株主会又は株主大会の決議に重大な影響をもたらす場合
③ その他、外国投資者が該当企業の経営決議、人事、財務、技術等に重大な影響をもたらす場合
外国投資者が、自社の投資が安全審査の範囲に該当するか否か判断できない場合、作業組織に照会が可能である(5条)。なお、連絡先は、国家発展委員会2019年第4号公告に明記されている。
4. 安全審査の手続
外商投資に関する安全審査のプロセスは、本弁法に次のとおり明記されている。
(1) 安全審査の発動
安全審査は次のいずれかにより発動される。
① 審査対象の外商投資を行う外国投資者又は中国国内の関連当事者(以下「当事者」という。)は、投資を実施する前に自主的に作業組織に申告したとき(4条1項)。
② 作業組織が、法定の安全審査対象となる外商投資について、当事者に申告を要求したとき(4条3項)。
③ 関連機関・企業・社会団体・一般市民等が、当該外商投資が国家安全に影響を与える、又はその恐れがあると判断し、作業組織に安全審査を行うよう提案したとき(15条)。
(2) 安全審査のプロセス
安全審査のプロセスは、下表のとおり三段階に分けられる。
Phase 1 ⇒安全審査を行うか否か決定【要求に適合した資料を受領した日から15営業日以内】
Phase 2 ⇒一般的審査:
① 国家安全に影響しない
⇒安全審査通過の決定
② 国家安全に影響する又は影響する恐れがある
⇒特別審査に移行 【安全審査の決定日から30営業日以内】
Phase 3 特別審査:
① 国家安全に影響しない
⇒安全審査通過の決定
② 国家安全に影響する
⇒投資禁止決定、又は条件付き安全審査通過の決定(条件付きで国家安全に対する影響を解消できる場合) 【特別審査は、開始日から60営業日以内。
特殊な状況がある場合、審査期限の延長が可能。】
当事者は、審査期間内においては当該投資を進められないが(7条、8条1項、9条3項)、投資案の修正又は投資の取り下げを行うことは可能である(11条)。
当該投資に禁止の決定が下された場合、当事者は投資を実行できない。もし投資済の場合は、指定期日までに持分・資産を処分し、かつその他の必要な措置をとり、投資実行前の状態に回復させ、国家安全への影響を取り除かなければならない(12条)。
5. 罰則等
罰則については、本弁法に次の規定がある。また、当事者に以下に定めるいずれかがある場合、それを不信記録として、国の関連信用情報システムに記録し、かつ国の関連規定に基づき合同懲戒 を与えることもできる(19条)。
① 申告する必要がある外商投資について当事者が申告せずに投資を実行した場合、作業組織は期限を指定し申告を命じる(16条)。
② 当事者が虚偽の資料を提出し、又は関連情報を隠ぺいした場合、作業組織は是正するよう命じる。当事者が虚偽の資料を提出し、又は関連情報を隠ぺいすることにより、安全審査を通過した場合、関連決定を取り消す(17条)。
③ 条件付きの審査決定について、当事者が当該条件に従わずに投資を実行した場合、作業組織は是正を命じる(18条)。
④ 当事者は、次に掲げる場合において、指定された期日までに持分・資産を処分し、かつその他の必要な措置をとり、投資実行前の状態に回復し、国家安全への影響を取り除かなければならない(16条、17条、18条)。
申告する必要がある外商投資について、申告を拒絶した場合。
虚偽の資料を提出し、又は関連情報を隠ぺいすることにより、安全審査に通り、かつすでに投資を実施した場合。
当事者が条件付きの審査決定における条件に従わずに投資を実施し、かつ是正を拒絶した場合。